その新しい仲間とは……。
おや? 何やら早霜の機嫌が少し悪いようです。
「朝霜だよ! 宜しくねぇ!」
「ああ、よろしくな」
元気一杯に挨拶をする少女を提督はいつもと変わらぬ落ち着いた態度で迎えた。
彼女は朝霜。
つい最近、基地の警備任務中に遭遇した敵との戦闘の際に発見した新しい仲間だ。
「なんだよぅ、ていと……あ、大佐か! そんな堅苦しい態度取らなくてもあたいはいいぜ?」
朝霜は夕雲のかなり下の妹に当たり、早霜の姉でもある。
そんな彼女は夕雲型の中でも長波以上に明るく、かつ、人懐っこさも今のところ姉妹一と言えた。
そんな見ているだけで元気が溢れていると思ってしまいそうな彼女を、何故か早霜は、その日の秘書艦だったのにいじけた様子で執務机の横に体半分身を隠し、様子を窺う様な目でこちらを見ていた。
「朝霜姉さんズルい……」ボソ
「おっ、おっ? なんだぁ早霜ぉ、嫉妬ってやつぅ? 拗ねてんのぉ?」
「……」ススッ
面白そうにからかってくる姉から逃げるように早霜は視線を逸らすと、今度は提督の後ろに隠れてしまった。
「ん? どうした?」
「大佐……今日は、早霜が大佐の秘書艦ですよ……ね?」
「ああ」
「姉にそう言ってやってください……」
「こんな間近で俺が代弁する必要ないだろ……」
「私、朝霜姉さんは元気過ぎてちょっと苦手なんです……」
「えぇ!? それってちょっと酷くね!? ねぇ、なんでよ早霜ちゃん! お姉ちゃんに言ってみ?」
ショックを受けたように振舞う朝霜だったが、その様子は大袈裟で面白半分にからかっているのは明白だった。
「早霜……ちゃん……。もう、だから姉さんは嫌いなんです」プイ
「くぁー、あいっ変わらず可愛い妹だねぇ! ほら、おいでー♪」
「え、や……やめて。私は今日は秘書艦なの。大佐から離れちゃいけな……やぁ……」
まるで猫みたいにじゃれあっている(少なくとも早霜は嫌がっているが)二人を見ながら提督は、これはもう敢えて親交を深める場は作らなくてもよさそうだなと思うのだった。
時は夕暮れ、窓からオレンジ色の光が差し込み、そろそろ証明を点けるべきかと提督が思っていところに、ノックと同時に返事を確認せずに扉を開けて誰かが入って来た。
コンコン
「ん? 誰d」
ガチャッ
「大佐ぁいるー?」
「……朝霜か」
「おー、いんじゃーん」
大佐を見るなりニコニコと悪びれる様子もなく部屋に入ってきた朝霜を、提督は少し呆れた顔で迎えた。
「お前、相手の返事くらい待てよ」
「えっ、あ、もしかして返事してなかった?」
「途中だったが?」
「あー……ごめんなさい!」
「……」
提督に注意をされて、朝霜は直ぐに手を合わせ謝る。
失礼をしてしまった事に関しては故意ではなく、またそれが良くない事だと解ると素直に直ぐに謝る。
提督はそんな朝霜の忙しく変わる態度に、ある意味純粋さを感じ、取り敢えずその場はそれ以上言及しない事にした。
「まぁ、いい。次からは気をつけろよ。ここは軍の基地で俺もお前も軍属だ。勤務中は最低限の礼節は意識するようにな」
「うん、分った!」
「……」(本当に分ったのか……?)ジッ
「な、なんだよぅその目は……? ほ、本当に分ったって!」
反省の色を確認する前に即答した所為だろう。
やや疑問を含む視線を提督から感じて、朝霜は慌てた様子で直ぐに弁明した。
「……まぁいい。それで、どうした?」
「んぇ?」
「用があったから来たんだろう?」
「あっ、そうそう! なぁ大佐」
「うん?」
「暇だからさ、遊んでよ!」
「……」ズルッ
提督はその一言で力が抜けてしまい、重くなった頭を慌てて手が額のところで覆って支えた。
朝霜もその様に驚いて提督の傍に駆け寄る。
「うわっ、大丈夫かよ」
「……お前は」
「え?」
「お前は暇だからここに来たのか」
「うんっ。長波姉と今まで遊んでたんだけどさ、姉ちゃん途中でバテちゃって」
「それで俺に代わりを?」
「うんっ、ほら、これも親睦を深めるってやつじゃね? 今日だけ特別でいいからさ!」
「親睦を……。俺からならともかく、自分でそれを言うか」
「元々そのつもりだったんだろ? それならあたいからでも良いじゃん?」
「悪くはない。だが、俺はまだ仕事中だ」
提督は自分の机に厚さ5cm程に積まれた書類を指さした。
束はこれだけだが、たしかにまだ仕事は残っている様だった。
「えっ、まだ終わってないの?」
「もう後1時間というところか」
「ふーん……じゃっさ、あたいが手伝ってやんよ」
「お前が?」
「うん! だって何か秘書艦今いないみたいだし?」
「いない理由はお前にあるんだがな……」
「へ?」
秘書艦だった早霜は、朝霜が長波と遊ぶより前に実は最初の提督との初対面の後に更に弄られ、とうとう完全に拗ねてしまい……提督の机の下、直ぐ足元で膝を抱えて座っていた。
「……」ジッ
足元から提督を見る早霜の目は明らかに『姉に構わないで』と言っていた。
「なんでもない。朝霜、気持ちは嬉しいが書類の量もそう多くはないしなここは……」
早霜の意を受けて提督が朝霜の申し出をやんわりと断ろうとした時だった。
「遠慮すんなって!」
ポスッ
「お……?」
「……!」
提督に断りもせず朝霜が強引に彼の膝に座って来た。
早霜の目の前には朝霜の下着が正面に見える形となり、彼女は事態の急展開に恥じらったらいいのか嫉妬したらいいのか思考がそれを処理し切れずに混乱した。
「おい」
「んぅ?」
「俺の膝に座る必要があるのか?」
「お? それを確認するって事はあたいが手伝う事にはもう文句はないんだな?」
「自分でもさっき言っていただろ……今日だけは特別だ」(早霜すまん。お前の姉は想像以上に天真爛漫だ)
「おおっ、やっぱり大佐はあたいが思った通り話が分る男だな! 膝に座ったのはあたいが座りたかったからさ!」
「……そうか」
「あ、大佐は今まで通り書類手に取ってくれよ。あたいは大佐が書いてない所を書くからさ!」
「……そんな器用な事ができるのか」
「ふふん、任せな! あたいの器用さは秋雲姉譲りだかんね!」
「……秋雲は陽炎型じゃなかったか?」
「でも服同じじゃん! あたいは秋雲姉好きだから姉さんでいいの!」
「そういうものか?」
「うん!」ニコッ
提督は朝霜の裏表のない純粋な子供らしい笑顔に苦笑するしかなかった。
一方机の下では……。
「あれはただの布、ただの布……大佐の裏切者……」ブツブツ
早霜がどす黒いオーラを放ちながら以前、半泣きで膝を抱えたままの状態で、自分にだけ聞こえる声で誰にともなく怨嗟じみた呟き漏らし続けていた。
さて、復帰します。
自分で復帰すると言う事はそれだけ放置していた、やる気がなかった、筆を放っていたという自覚があったという事です。
理由はまぁいろいろありますが、終わらせる気だったわけではないです。
まぁもう今更って感じですけどねw