提督の憂鬱   作:sognathus

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次はビスマルクです。
明らかに筑摩より手が掛かりそうなこの人。
果たして提督は無事目的を達成できるのか?


第36話 「特訓 後編②ビスマルクの場合」軽R-15

「大佐、さっきの筑摩……」

 

ビスマルクは先程の筑摩と提督の様子が気になっていたらしい。

頭のどこかでは理解していても実際は素直に受け入れたくない、そんな我儘な感情に揺れる目で彼女は提督を見つめていた。

それに対して提督は流石に詳細を話すわけにもいかなかったので、努めて平静を装い素っ気なく言った。

 

「あれは筑摩が驚いただけだ」

 

「そ、そう。あ、あとね……」

 

「マルク、怖いのは分かるが俺を信じろ。絶対に溺れない」

 

「う、うん。手離さないでよ? 絶対よ?」

 

ビスマルクは震える手で提督の手をしっかりと握り、ゆっくりと、そして恐る恐るといった様子で徐々にその白い体を海水に浸けていった。

 

「分かってる。大丈夫だ」(沖に出るだけでもこのペースか。やはりこいつが一番苦労しそうだ)

 

 

「あ、あの」

 

遅々としたペースながらもようやく海面が胸元に達しようかと言う所でビスマルクはふと足を止めた。

 

「なんだ? まだ肩に浸かるまでは沖に来てないぞ」

 

「そ、その……情けない話だけど手を繋いでるだけじゃ本当に怖くて……だ、抱きしめながら行って貰えないかしら?」

 

「……」

 

提督はそれを聞いて考える表情をする。

彼の頭の中では彼女を抱く事に抵抗を感じるのとは別にとある懸念がその頭をよぎっていた。

 

(マルクは海外艦故か長門以上に背が高い。そして戦艦だ。そんな奴にさっきの筑摩みたいに抱きつかれたら……流石に自信がないな)

 

「悪いがそれは――」 

 

「力は加減するから! 本当よ? だからお願い!」

 

提督が躊躇っていた理由を察していたらしいビスマルクは彼が断わろうとする前にそれを遮って縋るような声で言った。

 

「……」

 

「おね……がい……よ」

 

ビスマルクはとうとう沖に行く恐怖に耐えられず泣き出してしまった。

提督はそんな彼女を見て観念したように息をひとつはくと、真剣な表情で言った。

 

「マルク」

 

「な、なに?」ビクッ

 

「頼むから殺してくれるなよ? そして練習が終わったらちゃんとあそこの2人に抱いた理由を話せよ?」

 

「う、うん。分かったわ! それで……いいの?」

 

「ああ」

 

「ありがとう!!」パァッ

 

「そ、それじゃぁ……」ソッ

 

「ん」

 

ギュッ

 

 

浅瀬の2人「!? !? !?」

 

金剛と筑摩は浅瀬からしっかりその光景を見ていた。

突然の行動に金剛は嫉妬するように目をくわっと開き、筑摩はその大胆んな行為に驚き口に手を当てた。

そして互いに顔を見合わせ今見た光景が現実だという事を確かめ合うと、何故ビスマルクと提督がいきなり抱き合ったのかできるだけ穏便な予測を挙げ始めた。

 

 

「? 何か海岸の方が騒がしいわね」

 

「……そうだな。それじゃゆっくり行くぞ?」

 

「あ、うん」

 

提督は今より深い所に行く事もあってビスマルクに気を遣い、最初より更にゆっくりとしたペースで彼女を抱きしめながら沖へと進んでいった。

 

ムニッ

 

「……」

 

そして当然密着している事によってとある感触も感じていたのだが、それが故意によるものでない以上努めて気にしない様に気を引き締めた。

ここで油断をして気を抜こうものならどのような結果になるのか判らなかったからだ。

何しろ今抱きしめながらエスコートしている女性は大人の身体をしていながらも、子供以下の水泳の知識しかなく、更にその力は見た目以上に強力なのだ。

そう、本当に一瞬の油断が命取りになりかねないのである。

 

 

「よし、此処でいいだろ。肩まで浸かってるな?」

 

提督は足がギリギリ浸かる位置にまでようやく来て、そこで歩みを止めた。

ビスマルクは提督より背が高く彼よりかは水位に余裕があるにもかかわらず、もう不安で泣きそうな顔をしていた。

 

「う、うん……」ビクビク

 

「じゃぁ今度は顔付けて目を開けるんだ。大丈夫だ痛くない」

 

「か、顔を……目……。い、一緒にやって……?」ジワッ

 

(口調がもう子供だな。そんなに不安か)

 

「分かった。じゃぁ顔だけ付けるんじゃなくて一緒に潜ってみよう」

 

「も、潜……!?」ビクッ

 

提督に告げられた次のステップにビスマルクはビクリと肩を震わせる。

その様子はまるで死刑宣告を受けたようで、顔面を蒼白とさせていた。

提督はそんな彼女をなるべく安心させる為になるべく穏やかな口調で言った。

 

「お前一人だと不安だろう? 俺も一緒にやってやるから」

 

「で、でも潜るなんて……」

 

「ちゃんと抱き留めててやるから。いいな?」

 

「……うん……分かったわ!」グス

 

ビスマルクは暫く逡巡したのち、一大決心をしたような真剣な顔で決意の籠った声でようやく提督の指示を受け入れた。

だがその水に対する恐怖を我慢しているのは明らかで、その目尻には涙が浮かんでいた。

 

(目に涙まで浮かべて、そんなに怖いか)

 

「よし、それじゃぁせーので潜るぞ。あとくれぐれも力を入れるな。俺がちゃんと抱いててやるからな?」

 

「し、信じてるわよ」

 

「ああ。任せろ。それじゃいくぞ? せーのっ」

 

ザプンッ

 

 

「……!」ブクブク

 

(思いっきり目を瞑ってるな。少し安心させるか)

 

提督は水の中で思いっきり目を瞑っているビスマルクに苦笑して、彼女を安心させるためにそっとその頭に手を置いて撫でた。

ビスマルクは水の中でもその感触はしっかりと感じる余裕はあったらしい、感じ慣れたその感触に彼女は直ぐに提督が自分を撫でている事に気付く。

 

(! 頭撫でてくれてる……安心しろって事?)

 

「……」ポンポン

 

頭だけではなかった。

提督は開いた手で彼女の肩も軽く横から叩いてくれた。

ビスマルクはその感触に安心感と勇気を貰い、そして決断した。

 

(あ……肩も。よし、頑張ろう!」パチッ

 

 

果たして目を明けたビスマルクの前に広がっていた光景は……。

 

「…………!」

 

地上の空より濃い青の世界だった。

その青い世界は外からさしこむ太陽の日差しを受けて煌めき、また泳いでいる色鮮やかな魚もそれを受けて輝いていた。

ビスマルクはその光景に目を見張り、今まで海面からでしか知らなかったその海の世界に感動して打ち震えた。

 

( なんて綺麗なの……こんな世界私今まで見た事ない)

 

「……」

 

提督はその様子を見て彼女が恐怖を忘れて海の世界に魅入っているのを確認した。

 

(……よし、何とか目を開けれたみたいだな。そろそろ上がるか)

 

実はビスマルクが潜ってその目を開けるまでは割と時間が経っていた。

時間にしてまだ2分程だったが、提督は余裕がある内に一度空気を補充したかったので浮上する為に、彼女の肩を軽くトントンと叩いた。

だがビスマルクはそれには反応せず、提督の顔の横からずっと海の世界を見つめたままだ。

 

「……」ポー

 

(返事がない。まだ海中に見惚れているのか……?)

 

「……」ペチペチ

 

提督は今度はその頬を軽く叩く。

だがそれでもビスマルクは反応しない。

そこにきて提督は流石に焦りを感じ始めた。

 

「……」ボー

 

(これでも駄目か。む、息が……)ゴボッ

 

 

(どうする。抱き合って潜ってるから浮上するにしても二人同時でないと駄目だ。もっと強いショックを与えるしか手段がないか……)

 

「......」チラッ

 

提督はチラリとビスマルクの白くて豊満な胸を見た。

決して不純な理由からではなく、あくまでとある目的の為にだ。

 

「……」チラッ

 

提督は僅かな望みを懸けてビスマルクの顔を再び見た。

だがその期待も虚しく、彼女はまだ明後日の方を見たままだ。

 

「……」

 

提督はそれを見て苦渋に満ちた顔で目を瞑ったが、やがて決心したように目を開いた。

 

(……俺は今日ほど自分が嫌になったことはない。仕方ない……許せマルク!)

 

 

モニュッ

 

不意に胸元に感じた感触にビスマルクは目を見開く。

見ると提督の手が自分の胸を鷲掴みにしていた。

 

「!?」ゴボッ

 

あまりにも衝撃な光景にビスマルクは思わず息を漏らす。

 

(え、え? どういう事? 大佐どうして……あ)

 

提督はやっとビスマルクが自分を目で捉えている事を確認して直ぐにその手を放した。

そして指で上を指し浮上のサインを伝える。

 

「……」クイクイ

 

「……?」(大佐なんだか苦しそうね。どうし……あっ!!)

 

ザパァッ

 

 

「ハーッ……ハーッ、ッく、ハァー……ゼェ」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

ビスマルクは海面に上がるなり、大きな水しぶきが上がる勢いで頭を額を

海面に付けて提督に謝罪した。

提督はそれに対して軽く手を振って気にするなと伝えてきた。

 

「いや、俺の方こそ今回はすまん。その、胸を……な」

 

「き、気にしくていいわ。全然私反応しなかったんでしょ? なら、仕方ないわ……」

 

「じゃぁ今回はお相子にしよう。そしてできる事ならさっきの事は忘れてくれ本当に」

 

「わ、分かった」

 

「ありがとう、助かる。それと、話を逸らすつもりはないが、大分水に慣れたみたいだな?」

 

「え? あ、うん。もう潜るのは平気。海の中があんなに綺麗だったなんて私知らなかったわ」

 

「水に対して抵抗がなくなったのならもう、半分泳げたようなもんだ。お前も筑摩と同じように直ぐ泳げるようになるだろう」

 

「ほ、本当!?」

 

「ああ。保証する。だからもう少し頑張れるか?」

 

「ええ。大丈夫よ。任せてちょうだい!」

 

「その意気だ。それじゃあやっぱりバタ足からだな。まずは……」

 

ビスマルクが改めてやる気を示した事に、提督は教え甲斐がありそうだと内心彼女の成長を喜んだ。

そして一方ビスマルクの方はというと……。

 

(私提督に胸さわら……揉まれちゃったのよね。……多分こんな事されたの私だけの筈、よね?)

 

「どうしたマルク? 聞いているか?」

 

「あ、ごめんなさい。大丈夫よ。聞いてる」

 

(恥ずかしいはずなのに私だけだと思うと何か嬉しい。確かにこの事はだれにも言えないわね。フフ)

 

今回のハプニングを早速楽しい思い出として忘れない事を心に決めたのであった。




予想していたとはいえ、描写の関係上長くなってしまいました。
金剛は流石に泳げるのでここまではならないかな?
これは文句なしに個人的にR-15です。

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