提督の憂鬱   作:sognathus

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久しぶりに榛名が秘書艦で、提督が執務をしている時の話。


第4話 「感激」

「……」カリカリ

 

「大佐、お茶お持ちしました。緑茶ですけど良いですか?」

 

「ん? ああ構わない。ありがとう」

 

「いえ」

 

「……」カリカリ

 

「~♪」

 

 

秘書艦としてはごく極普通の、当たり障りのない気遣いだったが、久しぶりの秘書艦で提督の傍にいられる事に榛名は無上の喜びを感じていた。

ケッコン艦や新規着任の娘が増えていく状況の中で、自分が提督と疎遠になっていくような不安を榛名は感じていた。

故に最近は表に出さないが、姉の金剛に劣らない程実は提督に対する恋慕の感情が強い彼女は、今こうして再び秘書艦を任された事に提督に対する信頼を改めて強く認識するのであった。

 

「機嫌が良さそうだな」

 

「えっ」

 

不意に話し掛けられて半分浮かれていた榛名はつい驚いた声を出す。

提督の声に我に返り声がした方を向くと提督が苦笑してこちらを見ていた。

 

「あっ、ご、ごめ……あ、申し訳ございません! 榛名、ちょっと浮かれていました!」

 

「いや、別に謝る事はしていない。何かミスをしたわけでもないし」

 

「で、でも榛名、秘書艦ですのに大佐のお傍に居ながらボーっと……!」

 

「だからそれによって俺が実害を被ったわけでもないし、今はそれほど規律を重んじている状態でもないから謝らなくてもいい。俺はただお前が何を嬉しそうにしているのか気になっただけだ」

 

「す、すいません……」

 

「大丈夫だ問題ない。で、何か良い事でも?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

 

提督の質問を改めて受けた榛名はようやくそこで彼が自分に対して細やかながらも疑問を持っている事を認識する。

答えなければ。

提督自身から自分に興味を持ってくれることなどそう無い事だ。

榛名は内心歓喜の荒波の飛沫を感じながら、努めて真面目な顔で答えた。

 

「いえ、その。久しぶりに大佐の秘書艦を……お、お傍にお仕えできて凄く嬉しくて……」

 

「……」

 

「榛名、それで浮かれてしまって大佐の声にも反応が遅れてしまったんです」

 

「……そうか」

 

「は、はい……」カァ

 

「ふむ」カリカリ

 

「ええ!?」ガーン

 

 

恥を忍んで、かつ何か別の反応を密かに期待していた榛名は、答えを確認するなりあっさりと執務に戻る提督に対して思わず驚愕の声を漏らした。

提督もその声に流石に反応して、しまったというような顔で榛名を見る。

 

「ん? ああ、すまん」

 

「あ、あの大佐……」

 

「ん、ああ……」

 

「失礼を承知で申し上げますが、い、一応榛名は大佐とケッコンしています……よね?」

 

榛名から少し重い空気が出た始めているのを感じた提督は真面目な表情でそれに応じる。

 

「そうだな」

 

「榛名……そんなに魅力ない……で……っく、ぅぇぇ……」

 

榛名はついに無念の感極まって言葉途中に泣き出してしまった。

提督はすぐに椅子から立ち上がり彼女の頭を撫でて落ち着かせようとした。

 

「いや、すまん。……本当に俺はダメだな。こういうところを直さないとな」

 

「い、いえ……。途中で泣いてしまったは……ぐす……がわる……ひぐ」

 

「お前は姉妹の中でも本当に感受性が強いな。俺もそれを理解した上でお前に接するべきだった」

 

「そんな……! 榛名はそんなお気遣いで大佐に迷惑を掛けたくないです!」

 

「……そう、だな。まぁ落ち着け。ここはお互い様という事にしよう。気が利かない俺も悪いが、その、感情的になりがちなお前もこれから自制心を鍛えるという事で」

 

「そんな榛名が明らかに悪いのにお互い様だなんて……。でも分りました。榛名、これから自分自身の心を鍛えて心が強い子になります!」

 

「そうだその意気だ。俺ももっと気が回る男になってお前を失望させない様にしよう」

 

「はい! 大佐、本当にありがとうございます!」

 

「い、いや。まぁ気にするな」(凄いな、感情もそうだが今は気合いの入りようも比叡以上のものを感じる)

 

提督は、自分にとっては些細な事で何やら強い決意を新たにする榛名を見て、実は覚醒すると金剛型の中で最も強いのは彼女なんじゃないかと思った。

 

 

「ところで榛名」

 

「はい?」

 

「この仕事が終わったら昼でも食いに行くか」

 

「食堂に行かれるのですね? 了解しました。お供致します」

 

「いや、そうじゃない」

 

「? あ、やっぱりこちらにお持ちしします?」

 

「いや、そうでもなくてな」

 

「?」

 

提督が言いたい事が理解できず、榛名は不思議そうな顔をする。

そんな榛名に提督はなるべく優しげな表情するよう意識しながらこう言った。

 

 

「外に食べに行くか」

 

「えっ」

 

「二人だけがいいんだが。良いか?」

 

「は、はい……! 喜んで! 榛名お供致します!」パァッ

 

「供とか堅苦しい事言わなくていい。これはアレだ」

 

「はい? アレ?」

 

「……」

 

提督は何やら気難しそうな顔をしていた。

頭では理解していてもあまり口にしない言葉なので、自分からは言い難いのだ。

 

「デートだ」

 

「デ……!」

 

「やはりあまり口に出さない言葉は様にならないな。悪い、恥ずかしい所をm」

 

「はい! 榛名、感激です!」

 

「……そうか」

 

恐らく彼女とケッコンした時以来と思われるキラキラした瞳をした榛名を見て、提督は若干その勢いに気圧されながら自分の選択が間違っていなかった事に心の中で安堵の息を吐くのだった。




久しぶりに可愛い榛名を書きたくなったので。
まぁそれだけですw

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