提督の憂鬱   作:sognathus

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とある非番の日、天龍は基地の外で何処かに行く格好で車に乗ろうとしていた提督を見つけた。


第2話 「花見」

「よぉ、大佐じゃねーか」

 

「ん、天龍」

 

「何してんだ? どっか行くのか?」

 

天龍は私服の姿をした提督を見て、それが気になって訊いた。

手には少ないながらも何かが入ったリュックを持っている。

 

「ああ、花見だ」

 

「は? 花見?」

 

「ああ、そうだ。春だしな」

 

「春だしって……けどよ……」

 

天龍は窓から常夏の日差しと穏やかな波が寄せている砂浜を見た。

いくら日本が今季節は春だと言っても、ここは常に夏真っ盛り。

窓から覗く風景からは桜の一本も確認できず、加えて春の雰囲気など微塵もなかった。

こんな場所で花見とは……。

天龍は不可解な顔をするしかなかった。

 

「言いたい事は解るぞ。だけど花見くらいいいじゃないか。気分だけでも」

 

「気分、ね。まぁやりたい気持ちは解らなくもないけどよ。何処でするつもりなんだ? 誰かと行くのか?」

 

「いや、一人でふらりと行くつもりだった。場所は、何処か郊外の人気のない公園でも」

 

「え、一人か」

 

「ん? ああ」

 

「いくら治安を委託されているとは言っても、他国の軍の指揮官が一人で人気のない所に行くのはちょっと不用心じゃないか?」

 

「……まぁ、絶対に安全とは確かに言えないと思うが」

 

「……連れてけよ」

 

「ん……?」

 

「……」ジッ

 

不意に一緒に花見に連れて行けと言う天龍を提督は意外そうな顔で見た。

天龍は恥ずかしそうに手を後ろで組みながらも目は真っ直ぐに提督を見つめ、やはり一緒に連れていけとしっかりその意思を訴えていた。

 

「護衛を言い訳とかにはしないんだな」

 

「勿論護衛もやる気だ。けどほらまぁ……な? 一緒に行きたい」

 

「いいぞ。行こう。服着替えて来るか?」

 

「おう! ちょっと待ってろよ!」

 

提督に動向を受け入れても貰い、天龍は子供みたいに嬉しそうな目をして着替える為に意気揚々と部屋を出て行った。

 

 

それから十数分後。

 

「よっ、お待たせ!」

 

「お、来たか」

 

元気な返事と共に現われた天龍は普段と大分違う印象を与える格好をしていた。

上は上着だけ脱いでボタンを1つ多く外したワイシャツだけとなり、袖は捲っていた。

そして下だけはスカートからジーパンに履き替えていた。

 

「下だけ変えたのか」

 

「ん? ああ、郊外とかだと蚊とか多そうだからな。刺れたくないし」

 

「なるほど」

 

「……」ジッ

 

「ん、なんだ?」

 

提督は天龍の服装を見るなり何か思う所があるように顎に手を当てる。

 

「天龍」

 

「うん?」

 

「花見に行く前にちょっと寄り道していいか?」

 

「ああ? ああ、別にいいけど」

 

 

「た、大佐ここって……」

 

天龍が居心地が悪そうに身を縮める。

提督が寄り道すると言い、彼女が連れてこられたのはとあるデパートの若者向けの物を主に取り扱っている装飾店だった。

 

「別にいかがわしい意味じゃないけどな。普段よりボタンを外したシャツを見たら、着けてたら何となく似合う気がしてな」

 

「だ、だからって別に俺なんかに」

 

「珍しく俺が気が利くような事を思いついたんだ。ここは受け入れてくれると嬉しいんだが」

 

「……まぁそれなら」

 

「悪いな。……」

 

「どうした?」

 

「いや、自分から連れてきておいてなんだが、やっぱり女性の好みとかは自信がなくてな。どれが良いか選んでくれないか?」

 

「え? そんなの大佐の好みなら何でもいいぜ?」

 

「本当か?」

 

「ああ!」(せっかく大佐からのプレゼントだしな。何を貰っても記念になるし)

 

「ふむ……じゃぁ、これは?」

 

「え? どれ? あ……」

 

提督が指した物を見て天竜の目が留まる。

彼が選んだのは天然の翡翠の小粒をペンダントに加工した非常にシンプルなものだった。

それは並んでいた物の中でも安い方ではあったが、彼が値段で判断したとも思えない。

故に天龍は逆にそれが提督らしくて彼が本当に自分の勘で選んだものだと確信できた。

 

「お、いいじゃねぇか。それでいいぜ」

 

「……本当にいいのか? 安いぞ?」

 

「大佐は値段で選んだんじゃないだろ? 俺に似合うと思ったんだよな?」

 

「まぁそうだが……」

 

「ならこれでいい。俺も気に入ったし♪」

 

「そう、か? なら……すいませんこれを――」

 

 

「っくぅ……! 天気良いなぁ、こんな所に公園なんてあったんだな!」

 

提督が気持ちよさそうに伸びをする天龍を連れてきたのは本当に人気のない郊外の自然公園だった。

自然公園と言えど、都心部と違って人工的に草木を植えずに天然に生えたものをそのまま使用し、申し訳ない程度に整えられた順路のみが唯一の人工物と言えた。

 

「花は野花くらいしかないが、代わりに大きな木がたくさんあるだろう? そこで寛ぎながらちらほら目に映る野花を肴に酒を楽しもうと思ったんだ」

 

「なるほどなぁ……。確かにこういうのも悪くないな」

 

「あの木の所に行こう。木陰も大きいから涼しいだろう」

 

「ん、分かった」

 

 

「……ふぅ、風が気持ち良いなぁ」

 

「……そうだな」

 

提督が指した一帯の中でも特に大きい木の下で、天龍は腰を下ろして気持ち良さそうに全身に風を浴びる。

後ろ手に手を付いて更に風を浴びる為に状態を前に突き出す天龍の胸元で、先程提督に貰った翡翠のペンダントが小さく輝いていた。

 

「酒、持ってきたのか?」

 

「ビールを2本だけだ。後はツマミとして現地で買った豆がある」

 

「いいじゃねぇか。別に酔いたいわけじゃないし、これくらいで丁度良いと思うぜ」

 

「ほら」

 

「ん、サンキュ」プシッ

 

天龍は提督からビールの缶を受け取ると早速蓋を開ける。

提督もそれに続いて缶を開け、懐から懐紙を取り出すとそれを芝生の上に敷いて豆を置いた。

 

「いろんな豆があるな」

 

「どれも生で食べれるぞ。酒に合うのも確認済みだ」

 

「さすが大佐だな。んじゃ、頂きます……」パクッ

 

「どうだ?」

 

「んー……んまいっ」ポリポリ

 

「それは良かった」ゴクッ

 

「あれ? 大佐が飲んだビール俺のと違くね?」

 

天龍は提督が手に持っているビールの缶の色が自分のと違う事に気付いた。

提督は天龍の指摘にビールを口に運んでいた手を止めて、そのビールの銘柄を見ながら答えた。

 

「生憎店に並んでたビールが在庫が入荷がまだで売り切れる寸前だったんだ」

 

「あー、なるほどなぁ。……なぁ」

 

「うん?」

 

「そっちのビールも味見したい」

 

「味はそんなに変わらないぞ?」

 

「いいじゃん。これしかないんだしさ」

 

「まぁいいが。ほら」

 

「さんきゅー♪ ん……」

 

提督に手渡されたビールを見て何故かそれを飲まずに見続ける天龍。

提督はそれを不思議そうに見ながら訊いた。

 

「どうした? 飲まないのか?」

 

「ああ、いや飲むよ、飲む!」ゴクッ

 

「……」

 

「どうだ?」

 

「……美味い。へへっ♪」

 

「……? そう、か」

 

「んっ」サッ

 

何故か嬉しそうな顔をする天龍が不意に彼に自分が元々飲んでいたビールを差し出してきた。

 

「ん?」

 

「大佐も、俺の飲んでいいぜ」

 

「あ? ああ、じゃぁせっかくだから……」ゴクッ

 

提督が自分が飲んでいたビールを飲む様子を見て、天龍がどこか真剣な顔をして訊いた。

 

「美味いか?」

 

「まぁ……。やっぱりあんまり味は変わらない気がするが」

 

「んっ、そっか♪」

 

素っ気ない答えだったが、それでも天龍は何故か妙に嬉しそうな笑顔でそう言った。




関節キスを意識する天龍は可愛いと思います。
一方、提督は天龍がまさがそんな事を気にするとは思っておらず、素で彼女の意図に気付いていないという設定です。

……なんか久しぶりに単調な話を書いた気がしますねぇ。

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