提督の憂鬱   作:sognathus

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作戦の大詰も無事終えて、久しぶりの大きな作戦もひと段落した時のこと。
最後に出撃した艦隊が帰投中に深海棲艦から元の姿に戻って漂流していた仲間を発見して基地に連れて帰りました。
その娘とは……。


第×52話 「役割」

「秋津洲です! よろしくお願いするかも!」

 

「宜しくな。歓迎する」

 

「加賀です。よろしくね、秋津洲さん」

 

「はい!」

 

「大佐、こちらを」スッ

 

秋津洲の元気な挨拶に場の雰囲気が和むなか、提督は加賀からある書類を受け取った。

それは目の前の秋津洲に関する能力表通達書だった。

提督はそれを確認して少し怪訝そうな顔をする。

新しく迎えた艦娘の能力は大凡、本部からデータとして基地のコンピュータに送られてくるからだ。

なのに今回秋津洲に関してはデータとは別に紙面にてその能力について通達が来た。

これは極めて珍しい事だった。

 

「……ん」

 

提督は足された通達書の紙面を見て眉を寄せる。

 

(なるほど、別に彼女に関しての通達書が来たのはこういうわけだったのか)

 

提督は通達書の内容を確認して全てを理解した。

その内容を単純に言うと、秋津洲の運用上の注意のようなものだった。

水上機母艦ではあるが、現状装備できる艦装がかなり限られていて、加えて秋津洲本人の対空能力が前述と一部被るが、水上機母艦としては明らかに低い事。

『故に彼女の運用は本部による調整が完了するまでは、危険性の低い任務で偵察にのみ従事させるべし』

簡単に言うとそんな事が書かれていた。

 

「……」チラッ

 

提督は書類の端からちらりと目の前にいる秋津洲を覗き見た。

 

「……」ジワッ

 

見ると秋津洲は提督が見ている書類の内容を予想していたのか、彼女のみが現状唯一装備できる「二式大型飛行艇」、通称「二式大艇」のパスコードをぎゅっと胸の前で抱き締めて悔しき泣きを我慢するような顔をしていた。

 

「……」(なるほど、自覚はあるのか)

 

提督は少し難しそうな顔で目を瞑って頭を掻くと、ふと秋津洲にこう言った。

 

 

「秋津洲、そのカードを俺に渡しなさい」

 

「!!」ブワッ

 

その言葉を受けた瞬間ついに秋津洲は目を見開いて無言で大粒の涙を流し始めた。

 

「ふ……うぅ……うぇぇぇぇ」

 

「……」ギュッ

 

その様子を見ていた加賀が静かに彼女に近寄り優しく抱き締める。

 

「大丈夫、落ち着いて。大佐は何もあなたが不必要だとは言っていないわ。ちゃんとあの人を見て、話の続きを待つのよ」

 

「う……ぐす……ひっ……ぐす……」

 

加賀にあやされ、母親の如く優しい言葉に少しは落ち着いたのか、秋津洲はまだ流れる涙を止められずに拭いながらも、再び提督の方を真っ直ぐに向き直った。

提督はそれを確認して小さく咳払いをして続ける。

 

「んっ、秋津洲、まぁショックだとは思うが安心しろ。俺は別にお前から大事な装備を取り上げるつもりはない」

 

「う、うん……」グス

 

「俺はただ、お前に遠征や通常の警備任務にも出て貰って活躍の場を提供したいだけなんだ」

 

「え……? かつや……く……? わたしが……?」

 

「そうだ。先ずお前は我が基地で貴重な3人目の水上機母艦だ。遠征任務にはお前の艦種でしかこなせないものもある。だから先ずはそこに活躍の場がある」

 

「う、うん……!」ゴシゴシ

 

「先に着任している先輩の千歳姉妹がいる。遠征の事についてはあいつらに訊くといいだろう。きっと歓迎してくれるはずだ」

 

「は、はい! 了解したかも!」

 

秋津洲は此処まで来て大分持ち直していた。

自分が決して不必要な存在ではなく、逆に必要で貴重な存在だと提督に言われて、折れかけていた自信を取り戻していた。

秋津洲はもう涙を完全に拭い切り、少し充血した目で真っ直ぐに提督の目を見て元気に返事をした。

提督はその顔を見て僅かに微笑みながら続けた。

 

「良い意気込みだ。あと遠征の後に言った警備任務についてだが」

 

「はい!」

 

「お前は、あくまで今のところは対空能力に不安要素がある、だからちゃんとその点が改善されるまでは飛行艇以外の武器を使って砲撃艦として任務に当たってほしい」

 

「砲撃艦……?」キョトン

 

「ああ、そうだ。ちょうど15.5の副砲がまだ余っていたはずだ。加賀?」

 

「はい問題ありません。配備可能です」

 

「ん、お前にはそれを幾つか装備して貰って他の練度が低い駆逐艦との警備に、そして何れ練度が上がったら今度はお前自身がその子らを引率する旗艦として活躍して欲しいんだ」

 

「旗艦……! わ、わたしが!?」

 

「旗艦は何も強さだけが求められるわけじゃない。経験を積んで、それを活かして皆を導く。これが何よりも重要なんだ」

 

「う、うん……。でも……わたしにできる、かなぁ……」

 

「不安なのは当然だ。だからこれから遠征で、任務でお前は経験を積んでいくんだ」ポン

 

温かい言葉と共に方に置かれた手の感触に、秋津洲は提督を見上げる。

提督はそんな彼女を厳しくも優しい目で見ながら訊いた。

 

「努力できるか?」

 

「……うん! わたし頑張るか……頑張る!」

 

「期待しているぞ……ん?」

 

ギュッ

 

提督は不意に腕を秋津洲に抱き締められた。

秋津洲は嬉しそうにその腕を抱きながら満面の笑顔で言った。

 

「大佐、大好き!」パァッ




一体いつの話だって話ですよね
最近モチベ、いや体調?
……まぁ何とかします!

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