提督の憂鬱   作:sognathus

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本部より新たな大規模な作戦の指示が下された。
そしてその作戦の発令から暫くしたある日の事、大和は提督に呼ばれたのだった。


第×51話 「温度差」

「え!? またですか!?」

 

大和は驚きに満ちた声を上げた。

彼女の前にはある装備の使用パスカードが置いてあった。

試製51cm砲、前回の任務に置いて収めた戦果が認められ、本部にその褒賞として配備された現状最強の主砲だ。

大和は以前それを提督より拝領したが、今回もそれを彼女に賜るのだという。

大和は提督の傍にいた姉妹艦の武蔵を見た。

 

「で、でも……流石にこれを私だけが二門も頂くわけには……」

 

51cm砲はその火力故にまた、その設えも非常に重厚で、長門型でさえ装備は出来ても完璧に使いこなすのは難しい代物だった。

つまりは大和型専用と言っても良い艦装なのだ。

そんな貴重な艦装を自分だけ二つも所有する事に大和は、武蔵に対して負い目を感じたのだった。

 

「ああ、私の事なら気にしなくていいぞ」

 

「え?」

 

軽い声でそう答えた武蔵を大和は意外そうな目で見た。

武蔵はからからと笑いながら特に気にした様子もなく続けてこう言った。

 

「私は使い慣れた46cmでいいんだ。勿論それを使いこなす自信がないわけじゃないが、どっちかを選べという事なら今はまだこれでも良いという程度だ」

 

「武蔵……」

 

「はは、だから、な? 気にするな。それを使って大佐の役に立てばいい」

 

「武蔵……。うん、分ったわ。そういう事ならありがたく頂戴するわね。本当にありがとうm」

 

武蔵、と大和が心から感謝の言葉を彼女に送ろうとした時だった。

その感謝と喜びに満ちた気持ちは彼女がお礼を述べる前に武蔵がつい零してしまったセリフによって霧散したのである。

 

「まぁなんだ。大和はやっぱりそういう大きくて使い辛いのを子供みたいに喜びながら使ってる様が愛くるしいと思うからな。そういう純心で無垢な愛らしさも大佐にみせつけ……おい」

 

「ぐす……」

 

武蔵が壁の隅に目を向けると、そこには大和が受け取ったカードを胸に抱き締めながらまた独りいじける様にしゃがみ込んで泣いていた。

武蔵は戸惑った顔で提督の方を見る。

 

「大佐? 私は何か悪い事を言ったか?」

 

提督は軽く溜息を付きながら苦笑いをして言った。

 

「まぁお前もある意味純粋だという事だ」

 

ポンッ

 

「っ……ん♪ えぇ?」

 

不意に頭に手を置かれた武蔵は疑問の目を提督に向けながらも嬉しそうにするのだった。

 

 

 

「大佐、今回の作戦、調子はどうだ?」

 

ある日、秘書艦の那智が訊いた。

現在提督の基地は、本部より発令された何度目かの大きな作戦の任務に参加中で、序盤は難なくこなしているところだった。

その初期段階の作戦で挙げた戦果を認められ、先日本部よりその褒賞として試製51cm砲を拝領したばかりだ。

提督は那智の問いに普段通りの落ち着いた雰囲気で答えた。

 

「今のところは問題は……まぁ相変わらず弾薬はアレだが、消費は許容範囲で進んでいる。順調と言って差支えないと思う」

 

その答えに那智は少し顔を綻ばせて微笑みながら言った。

 

「そうか、それは何よりだ。……そういえば新しく迎えた仲間がいると聞いたが?」

 

「ああ、葛城の事か。あいつは……」

 

提督が任務遂行中に見つけた新しい空母の話をしようとした時だった。

不意に執務室の扉がノックもなしに勢いよく開かれ、ちょうど話のネタになりつつあった本人が何やら焦った様子で入って来たのだった。

 

バンッ

 

「大佐ぁ!」

 

「葛城さん失礼ではないか。もっと落ち着いて行動してほしいと何度言えば……」

 

葛城の無礼を那智は厳しくも呆れた様子で窘めた。

葛城は雲龍型空母の三番艦で、雲龍の妹にあたる。

発見した当初こそ出会う前まで提督は、特に根拠もなく姉に似て少し冷めてるか大人しい性格かと予想していたが、実際に彼女に会ってみてそのイメージは全く違っていたと即理解した。

 

『葛城よ! 言っておきますけど正規空母ですからね、正規空母! そこのところ間違えちゃ嫌よ!』

 

初見にして上司である提督に会って早々こんな態度を彼女は取ってしまったが故に、葛城は妹が見つかった報告を受けて特別な配慮でその日秘書艦を務めさせてもらっていた雲龍に早速怒られる羽目になったのだった。

 

『葛城……ちょっとこっち……』

 

葛城はまさか雲龍が目の前に現れると予想していなかったのか、冷めた目でこちらを見る彼女に殊の外驚いたようだった。

そしてさっきとは打って変わって後悔に染まった青い顔で大人しくなり、そのままズルズルと彼女に引きずられて何処かへ連れて行かれたのだった。

その時雲龍からどんな説教をされたのかは定かではないが、葛城は取り敢えずその日は大人しくなったのであった。

 

だが……。

 

 

「え、いやごめん! だけどちょっと聞いてよ!」

 

やはり根本的な騒がしさは直ってはいなかったようだ。

 

「どうした葛城」

 

更に厳しい顔で歩み寄ろうとした那智を手で制しながら提督はもう慣れたといった様子で部屋を訪れた葛城に聞いた。

 

「ねぇ、大佐! これ本当に私が使っていいの!? だってこれ烈風とか流星改とか……凄く強い艦載機ばっかじゃない!」

 

葛城はそう言って興奮冷め止まないといった顔で目をキラキラさせながら提督の前に両手に持った艦装のパスカードを突き出した。

その手には確かに彼女が言った様に、艦載機の中では強力で貴重な部類に入るものがいくつもあった。

提督はそんな葛城に対して別段慎重な口調でもなく、こう言った。

 

「ああ、構わないぞ。お前は正規空母だしこれくらいの装備でもいいだろう。それに別に艦載機はそれだけというわけじゃないしな。余裕はあるんだ」

 

提督の言う通り彼の基地は特別艦娘用の装備に関してはかなり余裕があった。

というのも一時期最低限の任務のみをこなしながら艦装を充実させる為に開発に集中した時期があり、その関係でこの基地の兵器庫には艦載機は勿論、電探から主砲、装甲などに至るまで割とあらゆる艦装が充実していた。

 

「本当!? 本当なのね!? 大佐ありがとう!」

 

葛城は勿論自分が正規空母だという自覚と自負はあったが、それでも実際の記録では戦果も無くその役目を終えた当時の自分に軽いコンプレックスを持っていた。

故に一番良い艦載機が欲しいと普段から主張しながらも、加賀や飛龍といった戦歴のある空母との性能や経験の差も実はしっかり自覚しており、結果的に流星や紫電といったワンランク下の艦載機が回されても仕方なしと思っていた。

だがその予想に反して本当に一線級の艦載機を提督からその所持を認められ、葛城はその嬉しさから顔を輝かせて飛び着くように机の前から彼に抱き付いた。

 

ギュッ

 

「……っぐ」

 

「お、おい!?」

 

久しぶりに感じる強力な圧力と締め付ける力に小さな呻き声を漏らす提督、そしてその横では那智が明らかに注意ではなく嫉妬するような顔で怒った顔をするのだった。




大和と葛城の艦装を貰った時の温度差を表してみました。

そしてこんにちわ。
絶賛投稿滞りがちのダメ男です。
今やっとイベントやってます。
E3までは楽らしいですね。
葛城可愛いです。
やっぱり巨乳より普通かそれより小さい方が俺は好みです。

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