二人は何やら戸惑った顔をして誰かの部屋の前で、途方に暮れている様子だった。
「叢雲ぉ!叢雲どうしたのじゃ!?」ドンドン
「どうしたんだ?」
「おお、大佐。その、叢雲が、の……」
「あいつがどうした?」
「改造を受けて基地に帰ってきてから部屋から出てこなくなっちゃったんです」
「なに?」
「今日の遠征は叢雲も一緒に行くはずだったんじゃが……」
「体調が優れないとかで初春が代わってくれたんですが……」
「妾達が遠征に出ている間も部屋から出ていないと聞いての。心配になったのじゃ」
「遠征の交代の報告は受けている。が……叢雲の改造に何か問題でも?」
改造後に部屋から出なくなった、この報告から提督は彼女の改造に何か問題があった可能性を見出した。
だが、それに対して初春と綾波は、それは否とかぶりを振る。
「その様な電文はまだ確認しておらぬな」
「私も大佐は見落としてないと思います」
「ふむ……」
「これ、叢雲。いい加減に出てこないか。体調は優れないのも解るが、床に伏せ続けるのも身体に障るぞ?」
事態の拉致が開かない事に少々呆れた叢雲が再び叢雲の部屋と扉を叩く。
すると扉に隔たれた部屋の奥からやっとそれに反応した彼女の声が返ってきた。
『心配しないで! ただちょっと……。えっと……と、とにかく大丈夫だから一人にして!』
「ふむ……」
「らしくないな」
「私もそう思います」
「改造を受けて早々閉じ篭ったと聞く。解せんの」
「あいつにとっては今回の改二の改造は単なる改造じゃなかったはずだ。なのにあの状態とは……単純に何か気に入らなかったか?」
「妾の時はそうでもなかったがの。結構気に入っておるが」
「綾波もです。特に不満とかはないのですが……」
「ふむ……」
「話は聞いたで!」
叢雲の悩みが理解できず、困りはてっていた提督達の背後で不意に声がした。
三人が声がした方を振り向くとそこには……。
「む?」「ん?」「え?」
「お待たせ! 龍驤や!」
「「「……」」」
「さて、どうするか」
「困ったのぉ」
「そうですねぇ……」
「ちょっ!?」ガーン
ガシッ
「ん?」
提督が袖を掴まれる感覚に視線を下げると、そこには無視されたことにショックを受けて半分涙目となった龍驤の顔があった。
「無視せんといてぇ!」ブワァッ
「……ややこしくするなよ?」
「うち見ただけでそれはちょっと酷いんちゃう!?」
「主には申し訳ないが、それは仕方のない事だと妾は思うがの」
「あ、あはは……」(日頃の行いって大切なんだな……)
「3人とも堪忍してぇな! うち、やるときはやるで! 時と場合くらいちゃんと選ぶわ!」
「分かった、だから騒ぐな。で、どうするつもりだ?」
「成功したら褒めてくれる?」
「うん?」
「褒めてぇな?」
「……言われなくても役に立てば褒める。大丈夫なんだな?」
「もちや!」パァッ
「ふふ、お手並み拝見といこうかの」
「……」(餅?)
「んー……こほん。あー、叢雲? ちょっと聞いてぇな」
三人の信任を得た龍驤は早速叢雲の扉の前に立ち、自身に見た顔で穏やかに話し掛け始めた。
『……何よ?』
「うちは叢雲が何を気にしてるのかめっちゃ解るで?」
『……』
「性能やない、武装でもない。ほんなら改造受けて気になるのは一つや」
『……』
「姿やろ?」
「……」
「ふむ……なるほど、の」
「えっ」
龍驤の推測を聞いた後ろの三人は、提督は特に表情は変えず、初春は感心したように顎をなぞり、綾波は純粋に驚いた顔をした。
『……』
「正解?」
『……まぁね』
「やっぱなぁ、叢雲“さん”この基地で一番の古株やもんね。大佐と過ごした時間が長い分、その姿が変われば、そりゃ気にもなるわ」
『……』
「恥ずかしいのやのうて、自信? んや、不安なんやろ?」
『……』
「新しく変わった自分の姿、大佐が受け入れてくれるか不安なんやな?」
『……ちょっとだけよ。ただ……ね、踏ん切りがつ――』
龍驤の的を射た推測に、それを肯定し自分の気持ちを吐露しようとした叢雲だたったが、それは続いて出てきた龍驤の言葉に途中で遮られた。
「うんうん解るで! そりゃ改造受ければ期待してまうもんね」
『え?』
「改造受けたら、誰だって前より大きなるって期待するもんや。それがいざ受けてみて変わってなかったら、そりゃ不安にもなるわ」
『え、ちょ……なにを……?』
「恥かしがらんでええよ? うちも仲間やから! 不安なんやろ? 改造受けても乳が大きな――」
バン!
「っ、ちっ……がうわよ!!」
的を射ていたと思われた推測だったが、実は見事に外れていた龍驤が導き出していた答えに、叢雲は堪らずに断定される前に自分から扉を開いてその姿を現した。
「あ」「ほう」「……」
「ちょっと龍驤さんあなたねぇ! 私はあなたが思ってるほど自分の身体にコンプレック……あ……」
「なかなか華やかでないかえ?」
「可愛いです!」
「悪くないと思うぞ? それを気にしてたのか?」
「……っ」ボッ
姿を皆に見られた叢雲は羞恥で顔を一瞬で真っ赤にするとその場にしゃがみこむ。
「あっ」
「恥かしがることはないと思うがのぉ」
「そんなに気になるか?」
「……だ、だって変じゃない!? か、髪だってなんか前より伸びたっていうか。か、身体だってところどころに、肉が……」
「え?」
「む?」
「髪、肉? ん……?」
しゃがんだ自分の身体に確認するような提督の視線を叢雲は感じて、悲鳴じみた羞恥の声をあげながら更に丸くなろうとする。
「み、見ないで!」カァッ
「いや、普通じゃないか?」
「そうじゃの。寧ろ前が少々華奢に思えるくらじゃが?」
「そうですよ! 叢雲凄く可愛いよ!」
「えぇ……? でも初春達と比べると……」
「んん? なんじゃぁ? 妾達の体躯が貧相じゃと言うのかえ?」ニヤニヤ
「え、ええ!? そ、そんな……あ、あぅ」ショボン
「あ、そ、そういう意味じゃ……」アセアセ
「ふふ、そうじゃのぉ。まぁ少なくとも胸はあまり妾達は変わらんと思うが……。どうかの? た・い・さ・殿?」
「俺に振るな。とにかく俺はこれといってお前にそこまで違和感は感じていない」
「あ……ほ、本当?」
「嘘を言っていると思うか?」
「ううん」フルフル
「なら言った通りだ。良い感じ……いや、可愛いぞ」
「大佐……。ありがとっ」ギュッ
ようやく不安を払拭し、その嬉しさから自分に抱きついてきた叢雲を、提督は優しく抱き返しながら片手でその頭を撫でる。
「長い間よく待ったな」
「あ、あのー、お取り込みのところ悪いんやけどうちは? なんか忘れられてへん?」
穏やかな雰囲気の中、龍驤が遠慮しがちに入ってきた。
自分の存在が半ば忘れられている事に焦った彼女は、提督に約束してもらった報酬をまだ貰っていなかったのだ。
「まぁ予測とは違ったとは言え、実際に結果を出したしな。良くやったぞ」
「そいだけ……?」
物欲しそうに自分を見る龍驤に提督は少々困った顔をした。
「……」(今日は叢雲を優先した方が良いと思うところだが)
クイッ
「ん?」
本日2回めの袖を引かれる感覚に提督が目を向けると、そこには優しい目をして微笑む叢雲の顔があった。
彼女はそっと耳打ちするように提督の耳元に顔を寄せると周囲に聞こえないように小さな声でこう言った。
「私は構わないわよ。もう十分満たさされたから」コショ
「ふむ……龍驤」
「な、なに?」
「……」スッ
「あっ」
龍驤は愛用の帽子を提督に脱がされたと思ったその時、次の瞬間には何も遮る物がなくなった頭を直接彼に優しく撫でられていた。
「ありがとう。助かった」
「う、うん!」
頭全体に感じる提督の手のひらの感触と暖かさに、龍驤は心から嬉しそうな顔をした。
「いいなぁ……」
「ま、ここは我慢じゃ」
「ふふ、そうね」
「暖かくなってきました」「4月からは~」詐欺ですね。
申し訳ないです。
まだ続ける気は勿論あるのですが……このいい加減さどうにかしないといけないですね。