秘書艦の日向が提督の事務を手伝いながら情報を確認して提督に報告します。
「艦隊が帰ってきた。全艦健在だといいな」
「……なんだ不意に不吉な。そう難しくない遠征任務だったろ? 伊勢達なら問題ないだろう」
帰還報告には違いないが、提督は後の言葉が余計にな感じがした。
日向を見るとどことなく不機嫌そうにむくれているように見えた。
「……」ムス
「どうした?」
「……伊勢が」
「ん?」
「伊勢が、成長限界に達した。レベルは99だ」
「ああ」
「するのか? 伊勢と?」
「ケッコンか? 本人が望めば、その意思を示せばな」
「……そう」
提督の答えを聞いて伊勢は少し寂しそうに視線を下げる。
それを見た提督は気遣うように日向に言った。
「心配か?」
「え?」
「いや、妹として姉が俺とケッコンする事が」
「あ、いやそうじゃなくてな」(なんでそう考えるかな……)
「それじゃあどうしたんだ?」(姉に先を越されるのに嫉妬……? いや、それは日向らしくないよな)
「……恥ずかしい話だが、伊勢が大佐と先にk」
日向が視線を逸らして恥ずかしそうにその真意を告げようとした時だった。
不意にノックも無しにドアが開けられ、そこから遠征から帰って来た満面の笑顔の伊勢が現われた。
ガチャ!
「大佐ぁ! ねぇ、なったよ99、きゅーじゅーきゅー! これでケッコンできるよね? ね? 早くしよ!」
「……」
「 」パクパク
「ん? どうしたの大佐? 何かあ……て、日向。いたんだ」
「……今日の秘書艦は私だからな」ムスッ
「あ、そうだったよね。ごめんごめん、ちょっと浮かれちゃって」テヘ
「……」(これが天然だから恐ろしい)
「……むぅ」ムスー
提督は呆れ、日向は明らかに嫉妬により不機嫌そうに眼を細める。
伊勢もそのちょっと気まずい雰囲気に流石に気づき、場を取り繕う様に頭を掻きながら聞いた。
「え? 二人ともどうしたの……?」
「あー、なるほどねー」
「そうだったのか」
提督と伊勢は、日向から胸の裡を聞き、それぞれお異なる態度でその理由を理解した。
それに対して日向は、明らかに提督ではなく日向の今までの態度にまだ機嫌を損ねているようで、彼女と視線を合いそうになると直ぐに横を向くと言った仕草をしていた。
「……」プイッ
「ちょ、そんなにヘソ曲げないでよー。悪気はなかったんだからぁ、ごめんね?」
「……別に」
「まぁ、お前もはしゃぎ過ぎだったな。それで、伊勢。その態度から察するにケッコン、するんだな?」
「え? あ、うん!」
提督の問いに伊勢は直ぐに即答し、日向はその様子を半目で見つめる。
「……」ジー
「……なぁ」
日向の視線を感じていた提督は、伊勢にある提案をする事にした。
「うん?」
「日向と同じレベルになるまでケッコンは待ってやったらどうだ?」
「え?」
「……っ」ピクン
「仲良くケッコン……あ、悪い。日向、お前がケッコンを望んでいる前提で話してしまった」
「い、いやそれは別にいいんだ。私もどちらかというとk」
「あ、もしかして日向は大佐とのケッコンはあまり考えていない感じ? なら、私が先にしても問題ないよね?」
「え」
「……」(ワザと言っているなこいつ」
顔を凍りつかせる日向にそんな事を言う伊勢を提督は呆れた目で見て思った。
明らかに目が笑っている。
普段クールで感情的なところを見せない妹が動揺するのを可愛さ半分でからかっているようだった。
「ね? 日向?」
「いや、だから私は別に考えてないというわけじゃ」
「あ、“別に”っていう事はそう乗り気でもないって事じゃない?」
「 」
日向は今度は目を見開き、口を一文字にして黙り込む。
こころなしか瞳が潤んいるようだ。
「……」(日向のあんな顔初めて見たぞ。追い詰められて泣きそうだ)
「ねー?」(恥ずかしくてハッキリ言えないのは姉としてちょっとマイナスよ、日向。自分らしくもいいけど、ここは素直なあなたが見たいの)
「……っ」ジワッ
「おい」
「大佐、めっ」
流石に見ていられなくなった提督を、まだ悪戯気分が抜けない言葉で伊勢は諌めようとする。
だが、悪戯タイムはゲンコツによって早々に終わりを告げられた。
「……調子に乗るな」
スコンッ
「あうっ!?」
そして数分ほど経った執務室には、ソファに座った提督に子供の様に抱き着いてその胸で泣く日向と、その様子を床で正座しながら羨ましそうに見る伊勢、という構図ができあがっていた。
「……ぐす」ヒシッ
「……はぁ」ナデナデ
「ごめんなさい……調子に乗り過ぎました」(日向いいなぁ……)
「本当に反省しるか?」
「してる! あ、ちが、してます!」ビシッ
「だ、そうだが日向。どうする?」
「……伊勢なんて嫌いだ」プイッ
「がーん! えー、そんなぁ。ねー日向許してよー」
「……」ヒシッ
「……まだ機嫌が悪いようだな。というか日向、お前らしくないぞ。もういいだろ、はなr」
「……拒否する」ヒシッ
「えー!」(そんな時に素直になってどうするのよ日向ー!?)
「……離れないと伊勢と先にケッコンするぞ」(汚い手だが、ここは利用してもいいだろう)
「日向離れちゃだめ!」
「おい」
態度を豹変させて事態を悪化させる事を言う伊勢に提督がツッコミを入れているところで、日向がボソリと言った。
「……別にしたらいい」
「え」
「なに?」
「……確かに先を越されるのは悔しと思った。でも後からケッコンすれば先に知った伊勢の味より良いものを準備できるというメリットがあるからな」
日向の“味”という言葉に顔を赤くしながら伊勢は直ぐに反論する。
「わ、私の味って……。て、ちょっと日向? あなた、私よりあなたの方が大佐に好いてもらえる自信があるって言うの?」
「伊勢が普段からちょっとそそっかしい分、私は落ち着いていたからな。私はその間、大佐を観察していろいろ考えていたのさ」
「……」(観察されていたのか俺は)
「ちょ、なによそれ! ズルイじゃない!」
「別にズルくはないさ。私は落ち着いて大佐の仕事を手伝いながら常にその事を頭の中で計画していただけなんだし。むしろ用意周到と褒められるべきだろう」
「そういうのを口に出さずに一人で進めちゃうのがズルイって言ってるの! 姉の私にくらい教えてくれたってよかったじゃん! で、なに? どんな情報を持ってるの?」
「伊勢には言わない」プイッ
「えーー!」
「伊勢うるさいぞ」
「でも、大佐! その話が本当なら日向は大佐のどんな秘密を知ってるか分らないのよ?」
「秘密って……。伊勢、人聞きの悪い事言わないでよ」
伊勢の言葉に気分を害した顔で日向はそれを否定する。
そして提督も少しうんざりした顔で彼女の言葉を補足した。
「俺は別にお前たちに知られて困る秘密なんて今のところない。日向が言っているのは日々の人間観察の上でどう行動したら良いかを研究していたという事だろう」
「……流石大佐だな」ギュッ
「ちょ! け、ケッコンできるのは私なのよ! なに今日向が甘えちゃってるのさぁ!」
「知らん。どうせケッコンするんだろう? なら先に甘えさせてもらってもいいじゃないか」
「えーー!」ブーブー
「……」(煩い……。こいつら、二人揃うとこんなに煩かったのか……)
伊勢は元より、日向の意外な一面に新鮮な驚きを感じながら提督はそんな事を思うのであった。
てなわけで伊勢と結婚しました。
初めて間もない頃は日向の方がレベルが上だったんですけどね、どうしてこうなったんだろう。
ま、とにかくケッコンしてない戦艦はこれで日向と大和だけとなりました。
がんばろう。