提督の憂鬱   作:sognathus

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那智と吹雪が改二の改造を受けてきました。
吹雪は新しい装備に向上した能力にご満悦の様子。
那智も満更でもないみたいで、その表情はいつもより柔らかく見えました。


第×43話 「予想」

「那智、吹雪、改造工程を終えて只今帰投した」

 

「大佐、ただいまです!」

 

「了解、ご苦労。どうだ二人とも、改造の具合は」

 

「バッチリです! 正直、ここまで変わるとは思ってませんでした♪」

 

「……」

 

「ん? どうした? 那智」

 

はしゃぐ吹雪に対して、那智はじっとして目を閉じて物思いに耽っている様子だった。

提督に続いてその様子に気付いた吹雪も不思議そうに声を掛ける。

 

「那智さん?」

 

「ん……ああ、すまない。ちょっと心境が感無量でな」

 

「ああ、お前は……そうだな。だろうな」

 

那智は妙高型重巡姉妹の次女でありながらその改二の改造の番が最後まで回ってこなかった。

表にこそ目立って出していなかったが、真面目で責任感の強い彼女が自分より先に強くなっていく妹達の姿をどのような心境で見ていたかは想像に難くない。

きっと喜ぶ妹達の姿を愛おしく思いながらも、自身は姉としての立ち位置に複雑な思いを抱いていただろう。

それだけに今回の改造は那智にとって特別な思いがあった。

 

「那智さんおめでとうございます!」

 

「ありがとう。だが吹雪、それを言うなら私もだ。改二の改造おめでとう吹雪」ポン

 

「あ……えへへ♪ ありがとうございます!」

 

「二人とも良かったな。今日は特別に休みをやろう。その新しい身体をよく慣らすといい」

 

「はい! ありがとうございます!」

 

「感謝する、大佐」

 

「気にするな。それじゃぁ下がっていいぞ」

 

「はい! 失礼しました」

 

「ん……」ピクッ

 

「あれ? 那智さん出ないんですか?」

 

部屋を出ようとした時、那智がその場を動かなかったので吹雪が訊いた。

 

「ああ、悪い。ちょっと大佐に用がな」

 

「そうですか。それじゃぁ私はお先に失礼しますね。大佐、失礼しました」

 

バタン

 

 

「……」

 

「なんだ? どうした?」

 

一人残った那智に間をおいて提督は声を掛けた。

だが那智はそれには答えず、無言で静かに提督へと近づいた。

 

「……」ツカツカ

 

「ん?」

 

「その……な?」ジッ

 

ちょっと困った顔をして恥じらう様子で、那智は言い難そうに口ごもりながら言った。

 

「……?」(なんだ?)

 

「……。さ、さっき、私がした事をだな……」

 

「お前がした事?」

 

「吹雪を……褒めただろ? その……だから、だな……」カァ

 

「ん……」(ああ、そういう事か)

 

ポン

 

「あ……」

 

那智は提督の掌を頭に感じた。

体温が温かく、まだ撫でられてもないのに言葉にできない幸福感が全身を緩やかに包んでいくのを那智は感じた。

 

「おめでとう、那智。新しいお前の力、期待しているぞ」ナデナデ

 

「……は……ぁ……」ウットリ

 

「……そんなに嬉しいか?」

 

「ああ、なんというか、本当に……。ふふふ、良いものだな♪」

 

「そうか」

 

「ん、もういい。大佐、ありがとう。おかげでなんだかここに来た直後より更に充実した気分だ」

 

「このくらいでか、恐縮だな」

 

「そんな事ない。本当に嬉しかったんだ。……ふ、素直になるというのは良いものだな」

 

「まぁ無理して偽るよりかはいいかもな」

 

「その通りだ。では大佐、私もこれで失礼する」

 

「ああ」

 

「……また」チラッ

 

ドアノブに手を掛けたと思った時、那智はそれから動きを止めて顔だけ小く動かして提督の方を見た。

 

「ん?」

 

「また何か成果を挙げたら褒めてくれるか?」ジッ

 

「そんな事いちいち確認する事はない。希望されなくても俺からするさ」

 

「そうか……ふふ、ではな」

 

那智は提督の答えに満足すると、今度こそ足取り軽く、部屋を出ていった。

 

バタン

 

 

「ふむ……」

 

提督はその後姿を見送って暫く経った後、ふと机の電話の内線のボタンを押した。

 

ピッ

 

「叢雲か? ああ、そうだ。もう来ていいぞ。例の資料も頼む」

 

 

 

ガチャ

 

「失礼します。持ってきたわよ、大佐」

 

「ああ、ありがとう。渡してくれ」

 

「はい」

 

「ん、どれ……ふむ……」

 

提督は叢雲が持ってきたレジュメの束を受け取り、早速目を通し始めた。

それは、まだ叢雲を含む一部の者にしか伝えていない今朝本部から通達があったばかりのある資料だった。

 

「次の改二予定?」

 

まだ内容を見てもいないというのに、提督のレジュメに目を通す雰囲気から何となくそれを察した叢雲が訊く。

その予想は正解だったようで、提督は特に驚いた様子もなくあっさりと肯定した。

 

「ああ、そうだ」

 

「ここのとこ多いわよね」

 

「まぁ今までのペースと比べたらな。だが、本来なら戦力の充実を考えるならもう少しペースが速くても問題はないと思うんだがな」

 

「……本部が出し惜しみをしてるとでも?」

 

提督の発言から叢雲は更に予想した、彼の考えを。

聞きようによっては本部に対して不信感を持っているともとれるこの叢雲の予想は、またしても提督の考えと一緒だったらしい。

彼は先程と同じように特に焦る事もなくそのまま受け止めて自分の考えを話し始めた。

 

「未だに艦娘の改造には対象となる娘の史実や縁に沿った内容のものばかりだからな」

 

「それを重視するのは寧ろ普通じゃない? ただでさえ私たちは自然からかかけ離れた存在なんだから。強化に超常的な力が必要ならそうなるのは必然だと思うけど。理屈じゃないのよ」

 

「結果を見て納得するしかないと言いたいのか? まぁそれもそうだが……」

 

「何が気になるの?」

 

「今の世の中『人間用の兵器』に至っては既に様々な物がコンピュータによって機能の自動化が図られている。戦車しかり、航空機しかり、潜水艦、艦艇しかりだ」

 

「それは、まぁ……」

 

「特に航空機に至っては今では単葉機からジェット機、武器も熱源感知ミサイルといった具合に大戦時からは想像できない程進化しているわけだ」

 

「……」

 

「その技術が艦娘にも使われていないと言い切れるか?」

 

提督のこの問い掛けに、叢雲は彼の目を真っ直ぐ見ながら、今までの話を聞いている間に自分の中である程度まとめた見解を述べ始めた。

 

「もし大佐の言う通りなら。本部の戦力は別次元ね。そして私達は必要に迫られない限り、未だに移動手段に至るまで近代化改修を施した旧式装備の使用を強いられている……」

 

「その意味するところは?」

 

「悪い意味ならいくらでも浮かぶけど、敢えて難しい良い方の可能性を考えるなら……」

 

「なら?」

 

「……囮?」

 

叢雲の素直な答えに、提督は満足げに微笑む。

 

「流石だな。俺もそう思ってた。良い意味で敵にとって俺たちが囮という事だ。それはつまり……」

 

「主に私たちとしかぶつかっていない深海棲艦は私たちの戦力こそが海軍の基本レベルだと判断する……。つまり、本部にとってそれは敵が形骸に等しい戦力になるという事……」

 

「敢えて勢力の均衡を保ち、無理に攻め入らない態度をとっている本部の意向も頷けわるけだ。絶対に負けないのなら下手に刺激して厄介になる可能性を高める事もない」

 

「私たちの戦力強化がゆっくりなのは敵を欺く為でもあり、勢力の均衡を保つ為に微妙に調整しているってわけね」

 

「あくまで予想だがな」

 

そう、あくまで仮説。

あまり本気ととられても困るので、提督は大げさに肩をすくめて見せる。

だが叢雲は提督のその予想からなんだか嫌な事を知ったという風にちょっと不機嫌そうな顔で溜息を付きながら言った。

 

「はぁ、私達は知らず知らずに間接的に本部に鍛え上げられているわけね」

 

「皮肉が効いてるな。だが、それは本部もだ」

 

「どういう事?」

 

「過去に何回か本部に直接攻撃を仕掛けた勢力もあるが、それを撃退した戦力は恐らく本気ではない」

 

「ああ、私たちが相手をしている敵のレベルが極端に上がってないものね」

 

「そういう事だ。必要に迫られれば本気を出すだろうが、それはその時点で必勝は確定。敵にとっては回避できない死の宣告も同じだから、情報が洩れないという結果は変わらないだろうな」

 

「……なるほどね。理解はできるけど趣味が悪いわね」

 

「あくまで俺の個人的な見解だからな?」

 

「分かってるわよ。でも」

 

「ん?」

 

「もし、大佐の予想が当たっているなら、例えば本部の大和とかが本気を出したらどれくらい強いのかしらね」

 

叢雲のこの疑問に、大佐は笑いながら答えた。

 

「それはちょっと俺も想像ができないな。それに、多分大和を引き合いに出す必要もないくらい、駆逐艦も俺たちの想像を超えるくらい強いだろう。レールガンを撃ったりするかもしれないぞ」

 

「……なんか嫌な駆逐艦ね。古臭いのが好きみたい聞こえるかもしれないけど、私の趣味じゃないわね」

 

「そうか? 俺はお前がレールガンを撃っている様を結構簡単に想像できるぞ?」

 

「……それどういう意味?」ジトッ

 

「怒ると怖いという事だ」

 

「ちょっと……」

 

「はは、冗談だ」

 

「目はそう言ってなかったように見えたけどね?」

 

「ん……」スッ

 

提督は叢雲のそれ以上の追及には敢えて答えず、その代わりに黙ってテーブルにある物をだした。

それはどこに忍ばせていたのか、食べかけのチョコレートだった。

叢雲はその交渉材料としては一見魅力が乏しいそれを見て、悪戯っぽく笑いながら言った。

彼女は気付いていたか定かではなかったが、もうその時点で叢雲の顔からは不機嫌そうな表情は消えていた。

 

「……買収?」

 

「いらないか?」

 

「……っ、ふふっ、仕方ないわね」

 

叢雲は敢えて誰かの食べかけの所から口を着け、美味しそうにチョコをかじった。




ホワイトデーネタなのか、改二ネタなのかよく分からない話でしたね。

ま、大戦より未来、現代が部隊の話ならジェット機くらいあって当たり前だろうなと言う作中の筆者の独自の世界観の話でもあったわけですが。


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