提督の憂鬱   作:sognathus

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浴場の前で番をしていた駆逐艦三人娘の前にとある人物(脅威)が現れた。
その人物の姿を目にした瞬間、彼女達の心の中に無意識に言いようのない不安が過った。


第×39話 「対峙2」

「あらぁ、あなた達、こんな所でこんな時間に何をしているのぉ? 」

 

朝潮「あ、龍田さん」

 

野分「大佐が入浴している間誰かが間違って入らな用に番をしているんです」

 

若葉「そういう事だ……です。龍田さんもお風呂? なら今は入れないですよ」

 

「へぇ、そうなんだぁ。それじゃ仕方ないわねぇ」

 

スタスタ

 

野分「えっ、えっ。ちょ、ちょっと待ってください! 大佐が入っているからダメですよ!」

 

野分は自分達の話を聞いた直後に浴場へと歩を進める龍田を慌てて止める。

だが龍田は特に気にもしてない様子でこう答えた。

 

「大丈夫よぉ。別に入りにいくわけじゃないからぁ」

 

若葉「入らないのなら何をしに……?」

 

「大佐のお背中を流しによぉ。部下として大佐の労を労いにいくの。ご奉仕よ、ご・ほ・う・し」

 

朝潮「ご奉仕……」

 

「そう、だから問題ないでしょう? 通っていいわよねぇ?」ニコォ

 

若葉「っ……。だ、だけど……大佐は男なので……」

 

朝潮「そ、そうですよ。龍田さんは恥ずかしくないんですか?」

 

「ん~? そうねぇ」

 

スルッ

 

野分・朝潮・若葉「!?」

 

朝潮「な、なにこんな所で脱ぎ始めてるんですか!?」

 

今度は朝潮が目の前でパジャマのボタンを外して上の服を脱ぎ始めた龍田を慌てて止める。

しかしそれでも龍田はいつも変わらない調子でやんわりと答える。

 

「命を預ける上司だもの。私は大佐になら裸を見られても他の人よりかは気にしないわぁ。これはそのしょ・う・こ」

 

朝潮「証拠って……」

 

「あなた達にはできないでしょぉ? だから私が代わりに、ね?」

 

若葉「あ、あ……」

 

朝潮(ど、どうしよう……!)

 

野分(私たちじゃ断り切れない……!)

 

 

「龍田さん」

 

朝潮達が龍田の迫力に圧し負ける瞬間、突如として凛とした声が救いの声となって響いた。

彼女達はそのよく澄んで通った声にハッとなって声が聞こえた方を振り向く。

 

野分・朝潮・若葉「!」

 

「……香取さん?」

 

龍田は朝潮達を気圧していた笑顔を収め、一転して真面目な顔になった。

細めた目の彼女の視線の先には、柔かい笑みを浮かべながら腕を組んで立っている香取の姿あった。

朝潮はその頼もしい救いの主の姿を見て安心感から顔を輝かせる。

若葉と野分もそれに続くようにホッとした表情を見せていた。

 

「失礼、偶然見かけたものですから」

 

朝潮(香取さん……!)パァッ

 

「……偶然、ねぇ……。それで、何かしらぁ?」

 

「んっ、いえ、対した事ではありませんが、ご奉仕とは言え“今”大佐の下に行くのは如何と思うのですが?」

 

「大丈夫よぉ。大佐にはちゃんと了解を得るからぁ」

 

「そういう問題ではありませんよ」

 

「……どういう事かしらぁ?」

 

野分・朝潮・若葉「……!」ゾッ

 

香取の問い掛けをのらりくらりといった態度で躱す龍田だったが、それに対抗する様に一歩も引かずに尚も彼女を質そうとする香取の態度に龍田は初めて少し険のある顔で冷たい一瞥をくれた。

その迫力に駆逐艦の三人は揃って縮こまる。

 

「誤解しないでくださいね。貴女の、大佐に対する敬愛の念に関しては私も敬意を表しています。ですが、今この場においてはその示し方に問題があると思うのです」

 

「何が、かしら?」

 

「如何に大佐のお背中をお流しするだけとはいえ、このような時間にこの子達の前で、そのような内容の言動を発するというのは、風紀を重んじる大佐のこの基地に置いて、その意に反しかねない些か問題のある行為ではないでしょうか?」

 

「……」

 

香取の率直な指摘に、龍田はいよいよ無表情になって無言のまま香取を見返す。

その様子からは怒っているのか香取の言葉を考慮しているのかは判断がつかなかったが、少なくともその場にいた朝潮達には冗談でも彼女の機嫌が良さそうには見えなかった。

香取はそんな龍田の雰囲気にも臆することなく、先程と変わらない穏やかな調子で更に続けた。

 

「重ねて申しますが、誤解しないでください。大佐も殿方、私達が身をもって……艶のある奉仕をするというのも一興。私は貴方にそれができないなどとは微塵も思っておりませんし、必要とあらば私とて所望頂ければそれにお応えする用意はできております」

 

「……“用意”ね。もし、そこで“覚悟”とか言ってたら、ちょっと怒ってたかもねぇ。大佐はそんな人じゃないもの」

 

「愚問です。それくらいの事、私もこの基地に迎え入れて頂いた日から理解しております」

 

「……そ」

 

「龍田さん」

 

「なぁに?」

 

「いろいろ回りくどい言い方をしてしまいましたが、率直に申します。ここは、私の顔を立てて頂けないでしょうか?」

 

「ん……」

 

「……」ニコッ

 

野分・朝潮・若葉「……」ハラハラ

 

笑顔の香取、そして龍田ももういつもの顔に戻っていたが、それでも二人が対峙しているその場の雰囲気は朝潮達にとってはまだピリピリしたものに感じた。

 

 

「……ふふ、分かったわ。貴女にそこまで言われると、ね。私もつまらない事で貴女との間に波風なんて立てたくないもの」

 

張りつめた雰囲気を解いてきたの龍田の方からだった。

 

「ご承知頂きありがとうございます」ペコッ

 

「やだぁ、頭なんて下げなくていいわよぉ。香取さんは何も悪くないわぁ。むしろ、気を遣ってくれてありがとう、ね?」

 

「いえ、とんでもございません。こちらこそ不躾な物言い失礼致しました」

 

「……」ジッ

 

「……」ジッ

 

「「ふふっ」」

 

「それじゃ、私は戻るわね。野分ちゃん達もごめんなさいね? 怖かったでしょ?」

 

野分「い、いえ!」ブンブン

 

朝潮「わ、私は大丈夫です!」

 

若葉「若葉も……!」

 

「ふふ、そう? お勤めご苦労様ね。それじゃぁ、ね。バイバイ」フリフリ

 

 

野分・朝潮・若葉「……」

 

去りゆく龍田の背中がようやく見えなくなると三人は揃って脱力する様にその場にへたりこむ。

そんな彼女達に香取が笑いながら声を掛けた。

 

野分・朝潮・若葉「……はぁ~」グテー

 

「ふふ、三人ともよく頑張ったわね」ニコッ

 

野分「香取さん……助かりましたぁ……」

 

朝潮「本当に……ありがとうございます!」

 

若葉「礼を言います!」

 

「大したことはしてないわ。丁寧にお願いしただけよ」

 

朝潮「それでも、あの龍田さんにあんなふうに正面から意見できるなんて凄いです!」

 

若葉「間違いない。香取さんは凄いと思う」

 

野分「確かにね。流石香取さんです」

 

「まぁ、ふふ……。この子達は……でもね」ジッ

 

口々に自分を称賛する三人の言葉に嬉しそうな顔をする香取だったが、ふと真面目な顔になるとメガネの奥から鋭い視線を向けた。

朝潮達はその視線にビクリと反応し、思わず姿勢を正して揃って直立の態勢をとる。

 

朝潮・若葉・野分「!」ビクッ

 

「いくら怖いと言っても最初からそんな風に身構えていては相手も気を悪くするのよ? さっき見ていたから解ると思うけど、龍田さんだってちゃんと説明すれば解ってくれます。だからあなた達も筋が通った事ならちゃんと頭から怖がらずに言うのよ?」

 

朝潮・若葉・野分「は、はい!」

 

「うん、良い返事ね。それじゃ、私も戻るけど、あなた達もお勤めを追えたら直ぐに部屋に戻るのよ?」

 

朝潮「はい、分かりました!」

 

若葉「了解!」

 

野分「はい!」

 

「ふふ、おやすみなさい」

 

カツカツカツ……

 

 

香取を見送り、ようやく再び三人だけに戻った事によって緊張が解けた朝潮と野分はお互いに苦笑いをしながら息を吐いた。

 

朝潮「……はぁ」

 

野分「はは、ちょっと疲れたね」

 

若葉「……」

 

朝潮「? 若葉、どうしたの?」

 

平穏を噛み締めていた自分達に対して先程から固い雰囲気を変えずに、一人黙っていた若葉に朝潮は気付いた。

 

若葉「いや、大佐、お風呂に入ってからちょっと時間経ってないか?」

 

野分「え? んー……そうね、30分くらいに……なる、かな?」

 

野分は浴場の入り口の真上の壁に駆けられた時計を見て大凡の経過時間を計算した。

朝潮はその言葉に然程心配していない様子でこう言った。

 

朝潮「それくらい? 大佐って風呂好きだから長風呂なんじゃ?」

 

若葉「……少し、様子を見てくる」

 

若葉はそんなやや楽観的な二人より事態を深刻に考えている様だった。

その意外な言葉に朝潮と野分は驚きの声をあげる。

 

朝潮・野分「えっ」

 

若葉「大丈夫だ、もんだ……こういう時は気にする事じゃない」

 

野分「それはそうだけど……」

 

朝潮「なら、私が」

 

野分・若葉「えっ」

 

若葉に続いて様子見に立候補した朝潮に今度は若葉と野分が揃って驚きの声をあげる。

それに対して朝潮は少し顔を赤らめて恥ずかしそうにしながらも聞き返してきた。

 

朝潮「……何か?」

 

野分「あ、いや……それなら私でもいいんじゃない?」

 

朝潮・若葉「えっ」

 

野分「……なに?」

 

今度は野分が意外な事を言ってきた。

彼女も少し恥ずかしそうにしながらも、その役目には並々ならぬ関心があるようだった。

 

朝潮・野分・若葉「……」

 

若葉「一緒に行こうか」

 

若葉がポツリと言った。

 

朝潮「そうね」

 

野分「それが一番ね」

 

三人は気まずい沈黙の下で、結局考え得る最善の選択を導き出したようだった。

 

 

若葉「……」ゴソゴソ

 

野分「え、ふ、服脱ぐの?」

 

脱衣所で服を脱ぎ始めた若葉に野分がぎょっとして言った。

だが若葉は特に気にした様子もなく寧ろ野分の言葉にに不思議そうな顔で答えた。

 

若葉「上だけだ。濡れたら困るだろ?」

 

朝潮「あ、うん……」(若葉、素だ)

 

野分「……そう……ね」ゴソゴソ

 

若葉「では、行こうか」

 

朝潮「うん!」

 

野分「いいわよ!」

 

三人揃って下着姿となった幼い少女達が、決意を込めた顔で浴室の扉へと向かった。




エロは次ですね。
というか、結局一話だけになりそう。
すいません。

香取さんまだレベル低いですが、キャラ的にも絵的にも何か凄く癒されます。

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