提督の憂鬱   作:sognathus

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提督の私室の風呂が壊れたようです。
お湯の蛇口を捻っても湯が温まらず、水が出た思ったらいきなり止まったり。
困った提督は状態を診てもらう為に整備のエキスパートを呼びました。


第×37話 「故障」

「どうだ? やっぱりどこか故障しているか?」

 

「ええ、正確には給湯器の故障ですねこれは」

 

基地の外から戻ってきた明石は工具をしまいながら、提督に検査の結果を報告する。

最初は浴室を調べようと思ったが、提督に症状を聞いて直ぐに原因は外にあると予想したのが正解だったようだ。

 

「給湯器……」

 

「ここの土地はシャワーは浴びても湯に浸かる習慣はありませんからね。元々設えていた給湯器もジャンクショップから見つけた様な物を急ごしらえで設置した物だったみたいです」

 

「なるほど」

 

「あ、因みに私たちの大浴場の物は流石にちゃんと日本から取り寄せたものみたいですね。元々基地の設備として計画されていたんでしょう」

 

「ふむ、俺の風呂は完全に個人的に用意してもらったものだったからな。元々はシャワー室だったものを無理を言って変更してもらったんだ」

 

「あ、そうだったんですか。大佐お風呂好きなんですね」

 

「まぁな」

 

「……となると暫くは風呂は使えそうもないな。業者を呼ぶか?」

 

「いえ、それには及びません。大佐に買ってきてもらった新しい工具もありますし、この程度私でも直せますよ。伊達に工作艦を名乗っていません」

 

「そいつは頼もしい、流石だな」

 

「ふふ、ありがとうございます。あ、それで大佐は直るまでの間お風呂はどうします? これくらいなら……そうですね完璧に直すなら2日頂けたら大丈夫ですけど」

 

「3日で直せるのか?」

 

提督は思ったよりも早い復旧までに掛かる時間に驚いた。

 

「はい。復旧だけが目的なら今日中でOKですけど、今後も使用するのならただの修理じゃなくて改修しちゃった方が良いと思います。それなら3日ですね」

 

「今より良くなるのか?」

 

「ふふ、給湯器だけが良くなると思わないで下さいよ? 浴槽にバブルジェットも付けて、断熱材もマシにして、浴室には……専用の水式乾燥機も付けちゃいますよ」

 

「そこまで……? 大丈夫なのか? 現地でそこまで器材用意できるとは思えないが」

 

「あ、大丈夫です。全部私が造りますから」

 

明石はあっけらかんと言い切った。

そこまでの設備を充実させるというのに、器材を用意するどころか一から造ってみせると断言する彼女の自信に提督は畏敬の念を覚えた。

 

「……そう、か」

 

「はい!」

 

「本当に頼もしいな。それで費用はどれくらい必要だ? 報酬も含めた金額を提示してくれ」

 

「あ、費用についてはここの様子をもうちょっと調べてから後で書面で提出します。でも報酬はいらないですよ。これも仕事の内です」

 

「そうもいかないだろう。元々俺の我儘で設えた物であるわけだし。それにこれは個人的依頼だ」

 

「そんなに気にしなくてもいいのに……。あ、じゃぁ一つだけいいですか?」

 

「ああ、何でも言ってくれ」

 

提督の心遣いに少し困った顔で顎に手を当てて暫し考えた明石は、何か思いつたようだ。

浴槽を撫でながらこんな事を提案した。

 

「完成したら私もこのお風呂に入ってもいいですか? 自分の腕を疑うわけじゃないんですけどテストはしておきたいんで」

 

「そんなのでいいのか? 他にも飯や金銭とかでも」

 

「大丈夫ですって、それで構いません。大佐専用のお風呂を部下の私が使うという体験もなかなかできる事じゃないですから」

 

「……そうか。まぁお前がそれでいいなら」(実は何人か既にいるんだよな。内容が内容だけに流石に言えないが)

 

「はい、それで結構です。あ、それでお風呂どうします?」

 

「そうだったな。まぁ……海で」

 

「えっ」

 

提督の答えに明石は驚いて目を丸くする。

だが提督はそんな自分の考えに特に問題があるとは考えていないようで、明石の顔も気にする風もなく続けた。

 

「3日だろう? それくらいなら汗を流すだけなら海でいいだろう」

 

「そんな! それじゃぁ髪とかベトベトになっちゃいますよ!」

 

「頭は後で水道水でも……」

 

「私たちがちゃんとしたお風呂に入ってるのに大佐にそんな真似させるわけにはいきませんよ!」

 

「しかし流石にここ土地には風呂はないしな。かと言って民家のシャワーを借りるわけにもいかないし」

 

「大浴場を使えばいいじゃないですか。入っている間『大佐入浴中』とか看板でも立てて」

 

「ふむ……」

 

「入渠設備も使おうと思えば使えると思いますけど、大佐用にちょっと換装する必要もありますし。その手間を考えたら浴場を使ってもらうのが一番だと思いますよ」

 

「……なら、深夜寝る前に使わせてもらおうか」

 

「そうして下さい。その時間帯なら誰も入る人はいないと思います。立て看板何て直ぐにご用意しますよ」

 

「本当に悪いな。看板に貼る紙くらいはこっちで用意しておく」

 

「分かりました」

 

「では、頼むな」

 

「はい! お任せください!」

 

 

それから数時間後、時刻は23時を回った辺り、執務室にとある駆逐艦が三人、提督に呼び出され部屋に揃っていた。

 

「若葉、朝潮、野分。こんな夜遅くに来てもらって悪いな。実は三人に頼みたい事があるんだ」

 

「大佐、遠慮何て無用だ。いつでもこんな風に呼んでくれて構わない」

 

「私もです! 朝潮、大佐の命令ならいつでも応える覚悟があります!」

 

「み、皆凄い気合いね……。あ、大佐私も、遠慮しなくていいですから」

 

「お前たち、悪いな。お前たちに頼みたいのは簡単な事だ。俺が風呂に入っている間、誰も入らない様に見張っていて欲しい」

 

「……え?」

 

「はい?」

 

「え……」

 

予想外の提督の命令に三人は揃って鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。

提督はその反応を予め予想していたかのように、ちょっと申し訳なさそうに苦笑しながら続けた。

 

「まぁそういう顔をするような。だが念の為だ。立て看板も用意した、これを使ってくれ」トンッ

 

『何人の立ち入りを禁ず』

 

「ず、随分物々しい……?」

 

「普通に『大佐入浴中』でも良かったのではなないでしょうか?」

 

「な、なんか凄く拒絶の雰囲気を感じますね」

 

「間違っても誰かが入らないようにする為だ。こうしてハッキリと示しておけば多少危ない連中も諦めるだろう。加えてお前たちに見張りをしてもらえばもう万全と言える」

 

「……なるほど、了解した。大佐、この若葉に任せてくれ」

 

「朝潮も了解です。しっかりお勤めを果たしてみせます」

 

「同じく。ちゃんと注意して見ておきますね」

 

「悪いな。この仕事は俺の個人的な依頼になる。果たしてくれれば後でお礼をしよう」

 

「お礼など不要だ。大佐、私はそんな物がなくてもちゃんと任務を果たせるぞ」

 

「私もです。お礼何て気を遣わないで下さい」

 

「まぁ……うん、大丈夫よ」

 

「はは、そんなに大したものじゃないからそう気を張るな。礼と言うのは明日にでも菓子を用意してお前達をお茶に招待するくらいだ」

 

「お菓子……? やる気……でた。頑張る!」

 

「お茶なんて……でも、光栄です! 楽しみです!」

 

「お茶ですか……うん、私も楽しみ」

 

「味は約束する。それじゃぁ頼むな」

 

「了解した!」「はい!」「分かりました」

 

一見真面目な三人だが、お菓子に反応するという駆逐艦らしい子供っぽさを可愛く感じながら提督は、浴室へと向かっていった。




次は久しぶりにエロい話になるかもしれません。
多分二部構成……?

確実に明日までには全部投稿できないと思いますw

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