提督の憂鬱   作:sognathus

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大佐は前回、本部から受けた任務を見事完遂し、その功績を称えられてある物を貰いました。
それは大和型しかまともに扱えない装備であり、使用者として受け取った武蔵は何故かそれを装備せず大佐にある提案をしました。
それは……。


第×27話 「お酒2」

「51cm……砲……! た、大佐こ、これ……い、一体?」

 

大和は目を輝かせて提督から貰った装備を使用するためのパスカードを見ながら言った。

 

「前の任務で達成の功績に貰ったんだ。受け取ったのは武蔵だから、これはあいつからお前への贈り物という事になるな」

 

「武蔵が……? どうして私に……」

 

「お前偶に戦艦の中で一番自分が練度が低い事を気にしていじけていただろう? 壁を向いてしゃがみこみながら傘をさしている様が見ていられなったんだと」

 

「 」

 

「武蔵に感謝し……おい?」

 

「……ぐすん」

 

「……」(結局いじけてるぞ……)

 

提督は大和を慰める言葉を見つけることができず、取り敢えず自分が部屋を出て彼女を一人にしてやることにした。

 

 

「大佐、大和の様子はどうだ? あいつ喜んでいたか?」

 

廊下で贈呈の提案をした本人に出会った。

その顔は大和が喜ぶのを確信しているからか、提督と話す顔も既に綻んでいた。

 

「……いや、いじけている」

 

「はぁ!?」

 

「なに、それは本当か!?」ヒョコ

 

「むぅ、なんだ長門?」

 

「決まっている。見に行くんだ。写真撮るぞ。いじけているならスカートを捲っても気付かないかもしれん!」キラキラ

 

「お前は何を言っているんだ!?」

 

「取り敢えず行くぞ!」ビューン

 

「おい、待てよ!? クソ、阻止しないと。大佐また後でな。待て長門!」ダダッ

 

「……」

 

提督は長門の奇行を武蔵が止められる事を心から願いつつその場を後にした。

 

 

「あらぁ、大佐どうしたのぉ?」

 

基地の出入り口近くで龍田と出会った。

お互い進行方向が逆なところから察するに、彼女は遠征からの帰りのようだった。

 

「龍田、いや別にちょっと部屋に居辛くてな」

 

「あらぁ、そうなのぉ? なら私たちの部屋に来る~? 歓迎するわよぉ」

 

「せっかくだが遠慮しておこう。堤防で煙草でも吸ってくる」

 

「あら、ざんね~ん。でも煙草も程々にねぇ? また後でね~」ヒラヒラ

 

意外にあっさり自分を解放した龍田に珍しさを憶えつつ、提督は本来の目的を達する為に喫煙の定スポットである堤防へと向かった。

 

 

「……ふぅ」

 

「ああっ! 大佐タバコ吸ってるー! ダメよあまり吸っちゃ! 身体に悪いんだから!」

 

堤防の下から声がした。

見ると曙が下から提督を見上げ自分を指差していた。

 

「曙、解ってるさ。2、3本でやめるつもりだ」

 

「本当ね!? それ以上吸ったら許さないわよ!」

 

「なんなら横に居て確かめるか?」

 

「え……う……そ、そうしたいのはやまやまなんだけど、わたし今日の遠征の出撃メンバーだから……」

 

「そうか、なら仕方ないな」

 

「あ、でも今日くらい誰かと代わっても!」

 

「ダメだ。行け」

 

仕事に関してはある程度真面目な提督は、ここでは曙を甘やかさずしっかりと遠征に行くように促した。

曙も頭から許しを貰えるとは思っていなかったようで、特に提督の命令に残念そうな顔もする事なく苦笑いしながら言った。

 

「あぁ……ま、そうよね。でもちゃんと約束守ってよね。それじゃ行ってきます!」

 

「ああ、気を付けてな」

 

 

「……」シュボッ

 

「戴きだ」パシッ

 

ようやく落ち着いて喫煙できると二本目に火を点けた瞬間誰かに横からそれを奪われた。

その方向を向くと、いつの間に自分の横に並んでいたのか日向が小さく笑いながら座っていた。

 

「日向」

 

「火が欲しいな」

 

「お前吸うのか?」

 

「大佐の前でだけな。ん、ふぃ」ピョコピョコ

 

「ほら」シュボッ

 

「ん……すぅ……っ、う、げほっ」

 

「おい」

 

「こ、こんなものよく吸えるな。海に落としてしまった」

 

「……勿体ない」

 

「取ってこようか?」

 

「いや、いい」

 

「ふふ、冗談だよ。すまなかった。お礼にこれを」ゴトッ

 

日向は懐から紙で栓をした徳利を出した。

どうやらここで軽く一杯やるつもりらしい。

 

「流石に昼間から酒は……」

 

「徳利一本だからそんな大した量でもないさ。二人で猪口でチビチビやればあっという間だろう」

 

「……」ジッ

 

「ん? どうした?」

 

「お前、酒は飲めるのか?」

 

「……だいじょうぶ」

 

提督の質問に日向は目を逸らして答えた。

その態度は明らかに彼女が酒が苦手、あるいは飲めないと語っていた。

 

「おい」

 

「ほ、本当だぞ? 飲むからこれを隼鷹から借りてきたんだ」

 

「それ、お前が元々飲めない証拠のように思えるんだが」

 

「だから飲めると言っているだろう。見てろ」

 

トクッ

 

「……」

 

日向は自分で注いだ酒を見るばかりで飲もうとしなかった。

見れば緊張で指が僅かに震えていた。

 

「飲まないのか?」

 

「ん? いや、飲むさ」

 

「……」

 

「どれだけ苦手なんだ」

 

「そんな事は無い。大丈夫だ。う……」

 

「別に酒も煙草もしなくても俺は話し相手くらいにならなるぞ」

 

「えっ?」

 

提督の言葉に日向は意外な顔をして振り向いた。

その時点である事実が確定した。

 

「やっぱり飲めないのか」

 

「あ、いや。その……飲めないと言うか、飲んだことがなくてな。酔った隼鷹とかを見てるとあまり良い印象はなくて」

 

「煙草は良いのか?」

 

「それは大佐が吸ってるから」

 

「善悪の判断を俺を基準にするな。俺もそんな責任は持てん」

 

「む、私は大佐を信じているんだ。部下に慕われて大佐は嬉しくないのか?」

 

「さっきの答えは慕うというより、信奉に近い気がするんだが……。まぁあまり篤く信頼されても俺は困る」

 

「いけずだな」

 

「そういうのじゃない」

 

「……」

 

「どうした?」

 

「いや、共通の趣味がないとなんかこう、な」

 

「なら俺から話題を振ってやろう。日向、猪口を貸せ」

 

「ん? ああ」スッ

 

提督は日向から酒が注がれたままとなっていた猪口を受け取ると、その場で直ぐに一口で飲み干した。

 

「ありがとう。ごくっ……さて、お代り、注いでくれるか?」

 

「あ……。ああ、分かった」パァッ

 

トクッ

 

「ん、……ごく」クイッ

 

自分が注いだ酒を美味いと言われただけなのに何故かそれに対して言いようのない嬉しさを感じていた日向は、提督が酒を飲む様を彼女らしくもなく惚けた顔で見つめていた。

 

「はぁ……どう、だ?」

 

「美味い」

 

「そうか……」ポッ

 

「……日向、ほら」

 

「え? 私に?」

 

自分に向けられた猪口に日向は小さく驚き、ピクリと肩を震わせた。

その彼女に対して提督は猪口を差し出しながら言った。

 

「今なら飲めるような気がする」

 

「何故?」

 

「俺が飲んだのを見て嬉しそうだったからだ。その気持ちなら大丈夫だと思う」

 

「そう、かな……?」

 

「ま、猪口一杯だ。どうする?」

 

「……もらおう。大佐」

 

提督の言葉を信じた日向は猪口を受け取ると提督に注がれるのを待った。

提督もそれを確認して徳利を傾ける。

 

「ん、ほら」

 

「あ……」

 

トクッ

 

「……んっ」ゴクッ

 

「どうだ?」

 

「……はぁ、あ……。なんか、喉が熱い……な」

 

「味は解らないか」

 

「ん、正直美味いかどうかはまだ。でも、気分は悪くないな」

 

猪口一杯だと言うのに日向は胸を押さえながら少し火照った顔でそう答えた。

明らかに酔いは感じているようだったが、悪い方にはいってないようだ。

提督はそれを確信するとそれ以上は彼女の意思に任せる事にした。

 

「それが酒を楽しむというものだ。飲み過ぎて酔うのとはまた違う」

 

「なるほど……大佐」

 

「ん?」

 

「もう一杯」

 

「大丈夫か?」

 

「今なら」

 

「ふ、そうか」スッ

 

自分から猪口を差し出してきた日向に仄かな愛らしさを感じた提督は、再び徳利を彼女の猪口に傾けた。




日向は普通に酒は飲めるイメージですが、ここでは本編で一度も酒を飲んだ場面がない事を利用して下戸にする事にしました。

伊勢型の改二まだかなー。

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