提督の憂鬱   作:sognathus

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ある日、早霜が叢雲を訪ねてきました。
数が多い駆逐艦の中でも個性派に属す早霜。
彼女はその中でも更に我が強く、独特の雰囲気を放っている影響からか、少し近寄り難い娘として仲間から認知されていました。
そんな彼女が自分から他人の元を訪ねるのはとても珍しい事でした。
果たしてその理由は……。


第×24話 「バレンタイン」

「叢雲……ちょっと訊きたい事があるのだけど……」

 

「ん? どうしたの早霜? 改まって」

 

「うん……。ちょっと、ね……」

 

「?」

 

早霜が自分から誰かを訪ねるのも珍しいのに、この時に限っては更に彼女はどこか言い難そうに口ごもる様子まで見せていた。

叢雲は内心その事に驚いていた。

暫くして早霜はようやく決心したように顔を上げると、口を開いた。

 

「もうすぐ……」

 

「うん」

 

「もうすぐ、バレンタインよね……」

 

「ああ、そういえばそうね。もうそんな時期になっていたわね」

 

「……」ジッ

 

早霜は、自分の質問に事も無げに応じる叢雲をどこか注意深く窺う様子で見つめた。

 

「? なに?」

 

「ううん……。それでね……」

 

「ええ」

 

「……やっぱり言うわ。さっきね、叢雲を見ていても思ったんだけど……」

 

「私? ええ」

 

「バレンタインが近いのに、なんか皆……大人しい気がして……」

 

「ああ」

 

「理由を知っているの……?」

 

「そうね。少なくともあなたの疑問には答えることができるわ」

 

「なら教えてくれるかしら……?」

 

「その前に一応確認するわね。早霜、あなたが気になっているのは皆が大佐に好意を向けている筈なのに、何故かチョコの話題をあまり聞かないから。それを疑問に思っているのよね?」

 

「完璧よ……。そんな中で自分だけ行動するのって、なんだか私だけ間違った事をしている様な気分になるでしょ……? それが居心地が悪くて……」

 

「なるほどね。それは当然だわ」

 

「どうしてかしら……?」

 

「ま、答えは簡単よ。この基地ではね、バレンタインにチョコ、いえ、それも含めて大佐に贈り物をするという習慣があまりないからよ」

 

「え……? そうなの……? 何故……?」キョトン

 

早霜はその答えに目を丸くして本当に意外そうな顔をした。

 

「最初の頃はね、私も含めてだけど大佐にチョコを贈る話題で盛り上がってたりしてたわ。でもね」

 

「でも?」

 

「そんな折に大佐がこう言ってきたの」

 

『日本ではバレンタインは女性が男性にチョコを贈るのが風習になっているみたいだが、実際は恋人同士の仲を深めるのが本来の目的だ。だからそんなにお前達が一方的に贈り物に執心する必要はない』

 

「――って言ったの」

 

「 」

 

「ふふ、あなたもそんな顔をするのね。ま、確かにちょっと冷たい突き放すような言い方だとは思うわ」

 

「そう、ね……」

 

「まぁそれも、私たちが大佐と今ほど親しくなかった頃だったから、仕方ないと言えば仕方なかったけどね。とにかく、それがきっかけで取り敢えず私たちの間でバレンタインの日にチョコの話題が上る事はあまりなくなったの」

 

「それじゃあ叢雲も大佐に何もしてあげないの……?」

 

恐らく駆逐艦の中でもいろいろ考え抜き、結果として相談相手として彼女を選んだのだろう。

早霜は今後の自分の行動の指針になるヒントがもしかしたら得られないのではないかと言う不安に駆られていた。

叢雲はそんな早霜の心内を察しているかのように小さく笑いながらこう答えた。

 

「少なくとも贈り物に傾倒する事はそうないわね。でも」

 

「でも?」

 

「さっき言ったけど、バレンタインの本来の目的は恋人同士がお互いの仲を深め合う事なの。だからその日が近くなれば、自然と大佐に甘えるようになるわね」

 

「甘え……」

 

「ちょっと表現が間違っていたかしら。まぁ自分から大佐に近づいて多少ひっついちゃったりなんかしても、結構多めに見てくれるのよ」

 

「ふむ……」

 

「流石に人数が多いからその日だけってことはないわ。少なくともその前後の間は大佐のガードはそんなに硬くないわよ」

 

「そう……?」

 

「ええ」

 

「そう……」

 

「ふふ、頑張ってみる?」

 

「え……?」カァ

 

「その調子だと例えチョコをあげたとしても、土壇場で恥ずかしがって義理とか言ってたかもね」

 

「……悔しいけど、否定しきる自信は、ないわね……。私、素直に感情を表現するのってちょっと苦手だから……」

 

「贈り物だって立派な手段だから、別に無理してそれを諦める事も無いのよ? 例えばチョコじゃなくても軽く食事を作ってあげたりして誘うのもいいんじゃない?」

 

「! なるほど……」

 

早霜は叢雲の提案にその手があったかとばかりに目を見開く。

 

「ちょっとはやる気が出た?」

 

「ええ……。叢雲、ありがとうね……」

 

「気にしないで」ニコ

 

 

 

そして時は流れ、場所は所変わって提督私室。

 

「……それで、おでんという事か」

 

提督は目の前でぐつぐつと美味しそうな匂いを湯気とともに上げるおでんを見ながら言った。

 

「そう……。あ、熱燗もあるわよ……?」

 

「酒か……」チラッ

 

提督は壁に掛けられた時計を見た。

時刻はもう直ぐ日付が変わるといった頃合いだった。

 

「い、一応時間にも気を遣ったつもりよ……?」

 

「ああ、すまん。一応な。早霜」

 

「っ、は、はい」

 

「その誘い有り難く受けよう」

 

「……っ」パァッ

 

「では、先ずは一献」スッ

 

「え? そ、そんな私からなんて……」アセアセ

 

「遠慮するな。お互い楽しむのが目的なんだから」

 

トクトクッ

 

「あ、あ……」ササッ

 

「……よしっ」

 

「……」チラッ

 

「飲んでいいぞ」

 

「ん……」コクコク

 

「どうだ?」

 

「……ふぅ……。美味しい、です……」ポー

 

「はは、そうか。お?」

 

「大佐、次は私が……」

 

「ありがとう」スッ

 

トクトク……

 

「はい、どうぞ……」

 

「ん……ぐ、ごく……」

 

(あ、良い飲みっぷり……)

 

「……ふぅ」

 

「どうでした?」

 

「ああ、美味い」

 

「良かった……」ニコ

 

「さて、それじゃあ早速だからおでんも頂こうか。いいか?」

 

「ええ、勿論です……。あ、取りますよ」

 

「ありがとう」




少し離れるつもりがバレンタインのネタを思いついたので投稿しました。
俺は辛い物が好きなので例えバレンタインでも貰えるならチョコより台湾ラーメンとかがいいですね(ア
因みにおでんは大根とこんにゃくが好きです。

冬イベ始まりましたね。
うちは弾薬がせめて3万くらい貯まるまではのんびり通常モードです。

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