提督の憂鬱   作:sognathus

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ヴェールヌイこと響はとある出撃任務中に大破のダーメージを受けました。
そのダメージはギリギリ轟沈しなかったという程度であり、厳密には瀕死の状態でした。
意識を失った状態の響が基地に運ばれてきました。


第×17話 「散歩2」R-15

「響搬送完了です」

 

抑揚のない落ち着いた声で響の回収を大淀が伝える。

 

「了解。入渠による修復は後回しにしろ。先ずは延命を最優先に」

 

「了解しました」

 

 

――それから30分程が経ち、提督は張りつめていた緊張を解すかのように深く息を吐いて改めて椅子に座り直した。

 

「……ふぅ」

 

「危ないところでしたね」

 

「まだ安心はできないな、意識を回復していないし」

 

「そうでした……。申し訳ございません」

 

「お前が謝る事じゃない。だがまぁ……」

 

「?」

 

「もし助からなかったとしても轟沈ではなく、ここで看取る事ができるからな。最悪それだけでも響にしてやれるのは幸いだ」

 

「大佐……」

 

「悪い。不謹慎だった」

 

「いえ、私も叶うなら最期はここで迎えたいです」

 

大淀は少し笑いながらそう言った。

提督はそんな大淀の顔を眺めながら自身のポケットに手を伸ばす。

緊張が解れたので煙草を吸って更に落ち着こうという算段らしい。

 

「……ん」ゴソゴソ

 

「あ、どうぞ」シュボッ

 

「悪い。……ふー。……不味いな」

 

「でしょうね」

 

 

 

「……ぁ」

 

白い天井が見えた。

意識を回復した響はベッドから身を起こして辺りを見回す。

 

「……」キョロキョロ

 

最後に戦った記憶が蘇る。

どうやら自分は助かったらしい。

 

「……」

 

自分の両掌を見ながらボンヤリとそんな事を実感していた時だった。

 

ガチャッ

 

「目が覚めたか」

 

「大佐……」

 

「良かったな、助かって」

 

「……」プイッ

 

「どうした?」

 

「……悔しい」

 

「そうか。あのまま沈んだ方が良かったか?」

 

「……意地悪。それは絶対に嫌」

 

「そうか」

 

「……」

 

「……」ジッ

 

「ん?」

 

脹れっ面をしてそっぽを向いていた響が不意に提督の方を向いて、彼をじっと見つめる。

そして、見つめていると思っていると彼女の両目から涙が滲んできた。

 

「……っ」ジワッ

 

「響?」

 

「良かった……。また大佐に会えた……」グス

 

「……ほら」ヒョイ

 

そんな安堵の涙を流す響を提督は優しくその胸に抱き上げて安心させようとした。

 

「……んっ」ギュッ

 

「おかえり」

 

「うん……」スリスリ

 

「もう大丈夫か?」

 

「……まだ1分も経ってないんだけど」

 

間髪入れない言葉に不機嫌な顔をする響。

もう少し空気を呼んでくれてもいいのではないか、彼女はそう思った。

 

「仕事があるからな」

 

「意地悪……。じゃぁわたしも手伝う」

 

「駄目だ。お前はこの後修復剤を使わない安静(リラックス)入渠だ」

 

「じゃぁ上がったら手伝う」

 

「それまで仕事が残ってたらな」

 

「残しておいて」

 

「いいのか? もし早く終わって時間が空いたら今度こそお前の為に時間を作ろうと思っていたのに」

 

「上がるまでに全部終わらせておいてね。今日は寝るまで遊んでもらいたいから」

 

「は? 寝るまで? おい、無茶言う――」

 

聞き流せない要求に提督が慌てて響を呼び止めようとようとしたが……。

 

「お風呂行って来る」テテッ

 

バタン

 

「……」

 

意識を回復したばかりとは思えない流れるような動作で素早く提督の腕から降りた響は、一瞬の間で彼が言葉を言い終わらない内に扉を開け、医務室から姿を消したのだった。

 

 

 

ガチャ

 

「あ」

 

提督が医務室から出るとそこには、大潮が心配そうな顔で佇んでいた。

 

「響なら風呂に行ったぞ」

 

「え? そうなんですか。という事は元気になったんですね! よかったぁ」

 

提督の言葉に大潮は心から安心したようで、満面に笑顔を浮かべる。

 

「あの時お前が懸命に頑張ってくれたおかげだ。だからあいつも轟沈せずにここまで連れてくることができた。よくやったな」ナデナデ

 

「あ……はぅ……。あ、ありがとうございます。でもわたし一人の力じゃないですよ?他の人も皆必死になって響ちゃんを守ってくれてました」

 

「そうだったな。皆良くやった。皆に会ったらよろしく言っておいてくれ『大佐がよくやった』と褒めていたぞ、とな」

 

「はい! お任せ下さい!」

 

「頼んだぞ。後で直接俺からも健闘を称えに行くとも伝えておいてくれ」

 

「はい。了解しました!」

 

早速大潮の健闘を称えた提督は、そう言ってその場を後にした。

 

 

 

ガチャ

 

「あ、大佐。響ちゃんどうでした?」

 

「問題ないようだ。さっき自力で浴場に走って行った」

 

「え? 走って? もう?」

 

提督の報告に大淀は目をパチクリさせる。

 

「そうだ。凄いだろう?」

 

「ふ……く、ふふふふ。そうですね、響ちゃんらしいと思います」

 

「全くだ。よし、大淀執務を再開しよう」

 

「畏まりました。こちらに整理してあります」

 

「ああ、ありがとう」

 

 

 

結局その日、響は夕方になっても何故か現れなかった。

提督がその事を不思議に思っていながら寝支度をしていると……。

 

ガチャ

 

「遊びに来た」

 

「もう夜だぞ?」

 

「そうだね。夜だね。風が気持ちよさそうだね。と、言えば?」

 

「散歩か」

 

「正解。久しぶりに散歩したい」

 

「分かった。いいぞ」

 

「ありがとう。肩車ね」

 

「分かった」

 

 

「それっと――」ヒョイ

 

ピトッ

 

提督が軽々と響を持ち上げてその肩に乗せた時、彼の首筋に何か妙に生暖かくてやたら柔らかいモノが触れた。

その感触に提督は一瞬黙り込む。

 

「……」

 

「? どうしたの? 大佐」

 

「響、お前下着どうした?」

 

「あ、お風呂あがった時に履くの忘れてた。あ、大丈夫だよ? 綺麗だから」

 

「そういう問題じゃないだろ。おり――」

 

ギュー

 

響はそれ以上提督に発言させず、彼の頭を抱きしめて拒否の意を表す。

 

「おい」

 

「大佐は駆逐艦の力には適わない。つまり下ろせない。つまり響は気にしていない。このまま行こ?」

 

「三段論法のつもりか? ……夜道じゃなかったら変態扱いされるな。恐らくされるのは俺だけだろうが」

 

「大丈夫、その時はちゃんとわたしが弁護するから」

 

「せめて擁護してくれ。まぁいい。他の奴らには言うなよ?」

 

「うんっ」ギュッ

 

「あと、あまりひっつくな」

 

「? なんで?」

 

「……行くぞ」

 

「?」

 

不思議そうな顔をする響に、提督は天然の厄介さを痛感しながら彼女疑問には答えず黙って歩を進めた。

 

 

「夜風が気持ち良いね」

 

「そうだな。お腹壊すなよ」

 

「履いてないから?」

 

「そうだ」

 

「大丈夫。今暖かいし」ギュッ

 

「……何故か俺の心は冷える一方だな」

 

「シベリアの様に?」

 

「ヴェールヌイと呼んでやろうか?」

 

「やだ」

 

「ふむ、相変わらずロシア関係の話題は嫌か」

 

「ロシアが嫌なわけじゃないんだけどね。でもやっぱり日本の艦なのに自分だけ外国の名前で呼ばれるのは寂しいから」

 

「Да(ダー)」

 

「ちょっと」ツネッ

 

突然の提督のロシア語に響は拗ねた顔をして彼の頬をつねる。

 

「っつ、はは、悪い悪い」

 

「使うのはわたしが使った時だけにして」

 

「了解した」




投稿のペースがまた落ちてますね。
皆艦これや面白いモバゲーが悪いのです(オイ

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