提督の憂鬱   作:sognathus

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提督は執務をしながらふと最近仲間に加わった大鳳の事を思い出した。
彼女が自分の事をある言葉で言い表していた事を思い出したのだ。
それは……。


第×16話 「望み」

「装甲空母、か……」

 

「大鳳さんの事ですか?」

 

傍らで書類の確認をしていた翔鶴が提督の呟きを耳にして顔を上げた。

 

「ああ」

 

「彼女いいですよね。装甲の防御力のおかげで耐久性もありますし」

 

「中破以上の被害を受けたら攻撃能力を維持し難いお前達にとっては羨望の的か?」

 

「え? んー、そうですね。憧れではありますけど、でも私たちは装甲が無い分機動力はありますからね。一長一短ですよ」

 

「確かに」

 

「赤城さん達強いでしょう?」

 

「なんだ、そこで自分を出さないのは一航戦に遠慮でもしているのか?」

 

翔鶴はその問いにあくまで答えず、わざと微笑むだけにとどめた。

 

「どうでしょう?」ニコ

 

「お前も瑞鶴も立派に戦っているさ。ん……」ゴソゴソ

 

「あ、どうぞ」シュボッ

 

提督が口に煙草をくわえた時点で、火種の用意をしていた翔鶴が手早くそれを彼の前に差し出す。

 

「ん、すまない。……ふぅ」ジジ……

 

「……最近、煙草の数が増えてません?」

 

「ん……」

 

「お仕事の最中に吸うのは、大佐の場合は大体心労からくるものだと私は捉えていますけど……。大丈夫ですか?」

 

「よく見ているな」

 

「あっ、ご、ごめんなさい……」

 

「別に誤る事じゃないさ。ふぅ……そうだな」

 

「?」

 

「前にな、日本に帰っただろ? 俺」

 

「あ、はい」

 

「その時にな、大和達を連れて行っただろう?」

 

「ええそうですね。確か大和さんと……大鯨ちゃんと秋月ちゃんでしたよね」

 

「そうだ。そいつらを連れて実家に帰ってからな」

 

「?」

 

「まぁいろいろあって、結果だけ端的に言えば親は俺の近くに女性がいる事に安心したんだ」

 

「え?」

 

「まぁ親も若いとは言えない歳だからな。あのくらいの年代になると子の結婚とか孫の事とか気になるんだろうな」

 

「え? あ……はい……。え?」

 

「それからというもの、よく親から俺に結婚の話とか軍を辞めて落ち着いた生活をしないかとか、そういった話がされるようになってな」

 

「……」

 

「勿論真剣に考えていないわけじゃないが、それでも今はその事に専心する気にはなれないわけで……ん? 翔鶴? どうした?」

 

提督がふと翔鶴の方を向くと、彼女は何やら深い悩みでも抱えている様に俯いていた。

提督の言葉で我に返った翔鶴は慌てて反応するも、その動揺ぶりは提督が訝しむのに十分なものだった。

 

「え? ああ、いえ!」

 

「……? まぁ俺ももう30過ぎだからな。親にその話をされるようになってから最近はよくその事が頭にチラつくようになったんだ」

 

「なるほど……」

 

「流石にここでは何人かと既にケッコンしているとは言えなかったな」

 

「……。大佐は」

 

何やら真剣な表情をした翔鶴が提督に訊いてきた。

 

「ん?」

 

「艦娘と本当に結婚できるとしたらどうします?」

 

「……お前たちに生殖能力が備わっていれば、俺はもうその時点で艦装を外してさえいれば普通の人間と変わらないと俺は思う。だから……」

 

「だから?」

 

「もしさっき言った点がクリアされていれば、軍からある程度の制約はあるだろうが、お前が言う本当の結婚というのも十分にありだと思う」

 

「そうですか……!」パァッ

 

艦娘でも本当に結婚する事ができる可能性がある。

本部による正式な回答ではなかったが、翔鶴はその答えが提督の口から出たことに何とも言えない喜びを感じ、その感情が笑みとなって顔に表れた。

 

「……しかも幸か不幸か今の日本政府は戦後の人口減の問題もあってかなり厳しい条件付きだが、結婚に対する考えを緩和させる為に一夫多妻制も一妻多夫制も認めているしな。提督が艦娘と本当に結婚できるようになれば、それはそれでいいことなんじゃないか?」

 

「じゃぁあとは私たちが子を授かれるようになれさえすれば……」

 

「確かにそうだが、それにはいろいろ技術的な問題以外にも倫理的な問題もあるからなぁ……」

 

「倫理、ですか」

 

「そうだ。お前たちは人間と違って生物本来の方法より容易にその存在を創る事が可能だ。そんなお前たちと結婚して子供ができるようになればその時点でもう人口減の問題は表面上は解決したも同じだ。だが……」

 

「人の価値観がそれを許さない?」

 

「大部分は懐疑か嫌悪の目で見るだろうな。またそれが当たり前になれば国民どころか人間としてのモラルの低下にも繋がりかねないし」

 

「……確かに」

 

翔鶴は提督のいう事を十分に理解できた。

確かに見た目は人間でもその実態がそうでないと判れば、人は混乱し、生物の特性としてそれを忌諱するだろう。

“異端”なものとして。

人との結婚の可能性が暗礁に乗り上げたように感じた翔鶴は暗い顔をした。

その様子が気になった提督は、彼女に希望はある事を示すようにその肩に優しく手を置き、笑いながら言った。

 

「……そんな顔をするな。途中で論点が混ざってしまったが、艦娘との結婚を軍関係者に限った上でそれを政府の監視下に置くとかすれば、さっきも言ったが本当に結婚できる可能性は十分になると思う」

 

「は、はい……!」

 

「……結婚したいのか?」

 

「はい。あ、ケッコンじゃないですよ? いや、ここでならそれでもいいですけど」

 

「……俺とか?」

 

「……」コクコク

 

「……節操の無い人間だと思われたくないんだが、それだと俺はここの奴らと全員そういう関係になる事にならないか?」

 

「嫌ですか?」

 

「嫌とかそんな次元じゃなくないか? それを受け入れた時点で多分世界一妻を持つことができる国になるぞ」

 

「そこは愛ですよ。私たちは誰か心に決めた人にとことん尽くすと言った特性がりますから。人間関係の崩壊は普通の人間と比べてそう心配するほどでもないと思いますよ?」

 

「……なかなか攻めるな。珍しい」

 

「真剣に必死ですから♪」ニコッ

 

「……ま、子を授かれるかという問題をクリアできれば真剣に考えよう」

 

「本当ですか!? ちょっと明石さんに相談してきます!」

 

「待て、なんで明石なんだ? というかやめろ、今はその話題を広めるな。頼む、後生だ」

 

踵を返して部屋を出て行こうとした翔鶴を提督は慌てて止めた。

 

「あ、そうか……そうですね。相談するなら本部でしたね」

 

どうも翔鶴の暴走を止める事は難しそうだ。

そう判断した提督は彼女に魔法の言葉を使う事にした。

 

「……なんでも言う事を聞いてやる。だから今は俺のいう事を聞いて大人しくしてくれ」

 

「!」

 

その言葉の効果はどうやら絶大だったようで、翔鶴はそれを耳にするなり直ぐに暴走を自粛した。




翔鶴は提督に何をお願いしたんでしょうね。

結構いろんな作品で艦娘の妊娠の機能があったりなかったりしますが、個人的に自分は後者です。
だからこそ解決すべき問題としてネタにできると思ったりもしますが(ゲス顔

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