提督の憂鬱   作:sognathus

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本部から提督の基地に電話がありました。
何やら無線ではなく直接提督でないと話せない要件らしく、秘書艦の三隈から受話器を受けた提督は訝しみながら電話に出ます。
その内容は……。


第×14話 「無用」

「艦娘の回収?」

 

『はい。本部の指示で今各拠点で不要な艦娘を微量ではありますが、資材と交換にその回収を行っておりまして』

 

「不要の……」

 

その言葉に提督は穏やかでないものを感じた。

今の海軍では艦娘の人権の保護について一定のものを認めている筈だ。

その環境において『不要』というその言葉は、今の軍規の内容に抵触しているのではないか?

 

『ああ、別に回収した艦娘は無碍に扱いはしません。回収した艦娘は本人の意志を確認して同意を貰えたモノのみを対象とし、新しい装備と既存の艦娘の性能向上の為の素材にします』

 

「素材……。それは、海軍が保障している艦娘の人権として問題は?」

 

『はい。こちらとしては確実に同意を受けたモノのみとしていますので。それに素材とは言いましたが、実際は解体と一緒です。還元機によって再び意識の無いエネルギー体に戻るだけですよ』

 

「……」(他から回収して転用を必要とするほどの規模の何かを進めているという事か)

 

『はは、期待して頂いて大丈夫ですよ』

 

電話口に出ている相手もそれなりの切れ者らしい。

お互い顔は見えていないというのに提督のその一瞬の沈思の間から彼の考えを察したらしく、そんなことを言ってきた。

 

「……因みに同意しなかった艦娘はどうなるのですか?」

 

『ああ、その場合は厳格に選定した結果、問題ないと判断した新人の提督に本部からの補充要員として提供して再び活躍の場を与えています』

 

「……なるほど」

 

『他に気になる事がありますか?』

 

「この話が書面ではなく、基地の電話に直接というのはやはり……」

 

『はい、お察しの通りです。配下の艦娘に情報が漏れて不要な混乱を避けるためです』

 

「やはりそうでしたか」

 

『他にはもうありませんか? 私としては貴方はなかなか優秀な方の様ですので、回収できてもできなかったとしてもその判断には、個人的に一定の評価と理解ができると思います』

 

「はは、買い被りですよ。ご用件は分かりました」

 

『そうですか。では、また提供頂ける際は、こちらの直通までお願いします』

 

「了解しました。ご苦労様です」

 

『いえ、こちらこそ。それでは失礼致します』

 

ガチャッ、ツー、ツー……。

 

 

「大佐、お話長かったですね。どういったご用件だったんですか?」

 

提督が電話している様子を見守っていた三隈が彼が受話器を置くと同時に訊いてきた。

提督はそんな三隈の姿をチラリと横目で見た後暫く目を瞑り、そして再び目を開けると彼女の方を向いて面と向かって話し始めた。

 

「……今本部で他の基地で持て余している艦娘を回収しているそうだ」

 

「持て余している……ですか」

 

「ああ。どうもその目的は新しい研究か何かのエネルギーとして転用する為らしいが……」

 

「……わざわざお電話でお話されるという事は、もしかして強制ですか?」

 

「いや、単に変にお前達にこの話が漏れて不要な混乱が起こるのをを避ける為だ」

 

「では、本部に提供するかどうかは提督の任意なのですね」

 

「そうだ。回収された後もちゃんと本部で同意を受ける事ができた奴だけを利用しているらしい」

 

「拒んだ方は?」

 

「厳しく選定した新しい提督に助っ人として送っているらしい」

 

「そうなんですか。良かった……」

 

緊張している様子はなかったが、真剣な顔で提督の話を聞いていた三隈はそこでやっと安心したように表情を柔らかくした。

 

「三隈」

 

「はい?」

 

「もし、俺がお前に本部に行けと言ったらお前は大人しく行くか?」

 

三隈は提督のこの、聞く相手によっては失望を与えかねない問い掛けに、特に動揺も見せず、彼の方をしっかり向きながらきっぱりと言った。

 

「はい。それが大佐のご命令でしたら。余程理不尽な命令でない限り艦娘として、軍人として三隈は最後まで大佐に従いますわ」

 

「そうか……」

 

「大佐?」

 

「じゃぁ訊き方を変えよう。お前は行きたいか?」

 

「嫌です♪」

 

三隈はこの質問にも、今度は満面の笑顔でまたきっぱりと答えた。

 

「ふっ……そうか」

 

「はい。それに三隈は大佐が自分を持て余していると思うほど、役立たずのつもりはありませんもの」

 

「……そうだな。お前は頼りになるしっかり者だよな」

 

「はい、その通りですわ♪ それで大佐?」

 

「うん?」

 

今度は三隈の方から彼の機嫌を窺うように前屈みになって、下から覗くように上目遣いで質問してきた。

 

「大佐は誰かを本部に行かせるつもりなんですか?」

 

「……お前の考えている通りだ」ポン

 

提督はその質問に敢えて明確に回答はせず、優しく三隈の頭に艇を置いた。

三隈はその答えと行為を受けて今まで隠していた不安と恐怖が安心と喜びに転じ、その感情が爆発するのを抑え切れなくなって提督に飛びついた。

 

「……っ、やっぱり! 大佐、やっぱり大佐は三隈の提督です!」ダキッ

 

「っと……恰好を付けて良い顔をしてるだけかもしれないぞ?」

 

「大佐は嫌な事は嫌、不正も隠さず堂々とする方です。決してそんなうわべだけの事なんかしない方だと三隈は知っていますわ」スリスリ

 

「おい、前者はともかく後者は軍人云々以前に一組織人としてどうなんだ」

 

「ただの例えです。ふふふっ♪」ギュー

 

「分かった分かった、だからもう離れろ。仕事するぞ」

 

「はーい。あ、お茶ここに置いておきますね」コトッ

 

「ああ、ありがとう」

 

「さぁ、今日もやりますわよ!」

 

こうして三隈の日常が、その日も始まった。




解体っていろんな解釈されてますが、実際のところどうなんでしょうね。
あ、それはアニメを見ればいいのか。

やるのか……? そこは……?


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