提督の憂鬱   作:sognathus

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電と雷と暁は同じ部屋に住んでいました。
その日は3人とも非番。
暁は食堂でまだ朝食を摂っており、電と雷の二人は部屋で思い思いに過ごしていました。


第×12話 「ごめんなさい」

「ねー電ぁ」

 

ベッドに横になった雷が電に話し掛ける。

 

「ん? なーに?」

 

「暇ぁ」ゴロゴロ

 

「あっ、だ、だめだよその上でゴロゴロしちゃ! 暁ちゃんのヌイグルミが……」

 

雷が寝そべっていたのは暁のベッドだった。

そのベッドには彼女のお気に入りのクマのヌイグルミも乗っており、雷はそれを転がるのに任せて……。

 

ぐにゅぅ……プチッ

 

ガチャッ

 

「「あっ」」

 

「……」

 

食堂から遅れて戻って来た暁がドアを開いて固まっていた。

その視線の先には雷に轢かれてその圧力によって無残な姿になった彼女のヌイグルミがあった。

 

「あ、暁ちゃん……」

 

「お、暁ーおあえいー」

 

「……なにしてるのよ!!」

 

廊下に暁の怒声が短く響いた。

 

 

「ごめんね、痛かった?」ナデナデ

 

暁は雷に潰されたヌイグルミを腕に抱き、看病する様に撫でる。

 

「暁ー、ヌイグルミなんか抱いちゃってさぁ。レディらしくないわよー?」

 

「うっさい! ヌイグルミもレディの嗜みなの!」

 

「はわわ、ご、ごめんね暁ちゃん……」

 

「電はいいのよ。悪いのは雷だもん」

 

「えー? ただゴロゴロしてヌイグルミを轢いちゃっただけじゃなーい」

 

「そのせいでクマちゃんの目が飛び出ちゃったんでしょうが!」

 

反省の色を見せない雷に我慢できなくなった暁は、そう言って彼女の前に雷に潰された拍子にその圧力で、目の部分が解れて半分外れてしまったヌイグルミを突き出した。

その無残な姿に電は小さな悲鳴をあげる。

 

「ひっ」

 

「うわ、わりとグロ……。ぷっくく……」フルフル

 

「笑うなぁ!」

 

「お、落ち着いて暁ちゃん」

 

「むぐぐ……。はぁ、どうしようこれ……」

 

「暁ちゃん直せないの?」

 

「さ、裁縫は苦手で……」

 

「誰かできそうな人に頼むしかないわね」フンス

 

「元凶が偉そうに正論言うんじゃないわよ!」

 

「できそうな人……結構誰でも出来そうだけど……」

 

「ここはやっぱり鳳翔さんなのです!」

 

「ほうひょーはんはひょーはえんへーひひっへふはほ」(*鳳翔さんは今日遠征に行ってるわよ)

 

「物を食べながら喋るじゃないわよはしたない!」

 

「そうなのですか。鳳翔さんは今はいないのですか……」

 

「じゃぁお友達繋がりで夕雲は?」

 

同じ駆逐艦で何となく器用そうなイメージが浮かんだ暁は次の候補を挙げる。

だがその可能性も、その日の遠征メンバーを把握していた雷の言葉によって断たれる事になる。

 

「夕雲も遠征に行ってるわよ」

 

「えー!」

 

「アテがどんどんなくなるのです……」

 

「わたしが良い人知ってるわよ!」

 

「え?」

 

「……誰よ?」

 

何故か不安を感じつつも、半信半疑といった顔で暁は雷に訊いた。

 

 

 

「……俺に? これを……?」

 

提督は暁達の突然の願いに戸惑った声をつい出した。

電と暁もそれを察したのか、どこなく申し訳な顔をしている。

 

「あ……その、出来たらでいいのですけど……」

 

「そ、そう! 別に無理はしなくていいから!」(ちょっと雷ー!)ヒソ

 

「できないなら仕方ないもんね!」(ん? なに?)コショ

 

(なんで大佐なのよー!?)

 

(だって面白そーじゃない?)ニカッ

 

(あ、あなた……覚えておきなさいよー!)

 

「……雷と暁は何を話しているんだ?」

 

「き、気にしなくても大丈夫だと思うのです!」

 

「そうか? っと、これだったな。ふむ……」

 

提督は暁から受け取ったヌイグルミを確かめるように見る。

電はそんな提督に対して恐縮しきった様子で謝ろうとした。

 

「あ、あの……出来ないの分かってて訊いてしまってごm」

 

「いや、できるぞ?」

 

「「「え?」」」

 

予想外の返事に三人は固まった。

 

「た、大佐できるの……? 裁縫を……?」

 

言い争うのをやめた暁が驚いた顔で提督を見る。

同じく雷も目を丸くしていた。

 

「え、嘘……」

 

「す、凄いのです! 流石大佐は提督なのです!」

 

そんな二人とは対照的に電は、少し興奮した様子で提督のこの意外なスキルに感心して目をキラキラさせていた。

 

「まぁこれくらいならな。これでも士官学校時代で一人暮らしをしていた頃は服の解れとかは自分で直していたものでな」

 

「い、意外ね。彼女さんがしてくれたんじゃないの?」

 

尚も信じられないと言った様子の雷が事の真偽を確かめようとする。

 

「彼女と同棲していたのは短い間だけでな。その頃の俺はすでにそれなりに裁縫の腕が板に付いていたから全部自分でやっていた」

 

「大佐は紳士の鑑ね!流石はこの暁の提督さんよ!」

 

「へ、へぇ……」

 

「ん? 雷、お前はまだ俺が裁縫ができるのが信じられないか?」

 

「い、いやそういうわけじゃないんだけど……何かイメージと違って……」

 

「はは、そうか。それは仕方ないな。改めて考えると自分でもそう思う」

 

「そんな事ないのです! 電は大佐ができても変とは思わないのです!」

 

「暁もよ! 大佐、このクマちゃんを直して雷の鼻をあかしてやって!」

 

「え……雷は別にそこまで疑ってなんか……」

 

どことなく批判の風向きが自分に向いてきて雷は動揺して目を泳がせる。

 

「ふふん、雷、今更開き直っても遅いんだから!」

 

「雷ちゃん大佐を信じてあげて欲しいのです」

 

「いや、だから雷は……」

 

「雷、見苦しいわよ!」

 

「だ、だから雷は……」ジワッ

 

誤解であるのに二人の勢いからそれが言いだせず、気圧され気味となった雷は不安と罪悪感から二人に見えない様に俯くと泣きそうな顔をした。

それを見た提督は取り敢えずこの場を収めるべく行動した。

 

「……暁、取り敢えずこれを預かるぞ。電と一緒に部屋で待っていろ」

 

「分かったわ」

 

「雷ちゃんは?」

 

「これは雷がやってしまったんだろう? だったら直ったらこいつに持って行かせる。雷、お前はこれが直るまでここに居ろ」

 

「……」コク

 

提督の言葉に俯いたまま黙って頷く。

 

 

「それじゃ大佐、お願いね」

 

「お願いしますなのです」(あ、あと雷ちゃんの事も……)

 

「ああ、分かった」

 

「「失礼しました」なのです」

 

バタン

 

 

「……さて」

 

「……っ」ビクッ

 

雷は提督に話し掛けられてびくりと肩を震わせる。

 

「できたら一緒に届けに行こう。その時にちゃんと謝ればいい」

 

「……!」

 

「な?」ポン

 

「大佐ぁ……」ジワッ

 

頭に置かれた提督の手を見て雷は安心感から涙を溢れさせた。

 

「縫い方教えてやろうか? 今度はお前が直してやるといい。そうしたら暁もお前の事を見直すぞ」

 

「……っ、うん! 教えて!」

 

「よし、じゃぁ俺の手をよく見ておけよ。まずは……」




電よりは雷派の筆者です。
吹雪改二が実装されたようですね。
その改造可能レベルは70だとか。
因みにうちの吹雪はまだ58でした。
気長にやりましょうかw

そういえば艦これのアニメが始まったらしいですね。
その事実を知ったにも関わらず、何故か興味が湧かないのは何故だろう……。

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