提督の憂鬱   作:sognathus

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那智が一人竹刀の素振りをして汗を流していました。
彼女は元々身体を動かし修練によって自分を鍛えるのが好きで、こういった海戦とはあまり関係のなさそうな事も、武道を身に付ける楽しさからよく行っていました。
しかし最近はその頻度が以前より多く、かつ修練に励む姿もどことなく充実感とは違った焦りの様なものが時折見えるようになっていました。

それに気付いていた提督は、その日彼女にタイミングを見て声を掛ける事を決めていました。


第×11話 「応援」

「ふっ、ふっ、ふっ……!」

 

「那智」

 

「あ、大佐」

 

「精が出るな」

 

「……いや。ふぅ……」

 

「ほら」チャプッ

 

提督は那智にスポーツ飲料を差し出す。

 

「ありがとう。……っく、ん……っはぁ」ゴキュゴキュ

 

「喉が渇いていただろう。ちゃんと水分は取れ」

 

「ん……」

 

「それを忘れるくらい余裕が無かったか?」

 

「……やっぱり解るか?」

 

「取り敢えず俺はな。改装の件か?」

 

「……ああ。後は私一人だからな」

 

「焦っているか? 羽黒達が先に改装を受けて」

 

提督のその言葉に那智は特に気分を害した風もなく、逆に自嘲気味な笑みを浮かべながら答えた。

 

「……全くないということはないが、どちらかというと妹達より自分も早く強くなりたいという方向での焦り、か」

 

「なるほどな、お前らしい」

 

「ふっ……自分らしくもない。これでは大佐以外の誰かにもこの焦りが伝わっているだろうな」

 

「否定はしない。なにせ、この鈍い俺でも解るからな」

 

「えぇ? はは、なんだそれ自虐か。ふふふふ」

 

「はは、これでも自覚している分マシだろう?」

 

「そうだな。だが、やはり女としては気付いて欲しいときには気付いて欲しいものだからな。できる事ならそれも徐々に直っていく事を期待するぞ」

 

「身に余る期待に戦々恐々といった思いだ」

 

「……なぁ」

 

「うん?」

 

「今日はやっぱり私の様子が気になって来たんだよな?」

 

「ああ」

 

「うん。なら事のついでで試すようで悪いが、私の……その、な」

 

「ん?」

 

「いや、やっぱりやめておこう! なんか本当に事のついでに機会を利用しているようではしたない感じがするからな」

 

「……まぁそこは無理はしないでお前のペースでいいと思うぞ」

 

『そこは』という提督の言葉に那智はピクリと反応する。

やはり提督は自分の考えを察していたと。

だから彼女は背中を向けたまま意を決して言った。

 

「……やめた」

 

「ん?」

 

「好きだ」

 

「……ああ」

 

「艦娘としてではない。女としてだぞ?」

 

「解っている」

 

「……そうか。なら」クル

 

那智は提督の方を向いてその目を見ながら言った。

 

「私も大佐の女になりたい」

 

「……俺でいいなら」

 

「本当か……!?」

 

「この期に及んで嘘は俺は言わない。だがな、俺は……な?」

 

「ああ、何人とケッコンしていようが私もそれに立候補した以上承知しているさ。だが、もうあなたへの好意を我慢しないと決めた以上これからは積極的にいかせてもらうつもりだ」

 

「……そうか」

 

「そんな困った顔しないでくれ。私は今、自分の気持ちに従って率直に行動できて晴れがましい気持ちなんだぞ?」

 

「ああ、悪い。ありがとう、那智」

 

「あ……う、うん」ポッ

 

「……」

 

「……抱き締めてくれるか?」

 

「汗とかいいのか?」

 

「こんな事言ってはなんだが、大佐なら気にしないと思って、な?」

 

「そのと通りだ。俺はお前さえよければ拒んだりはしないさ」ギュッ

 

「あ……。うん……いいな。うん……♪」ダキッ

 

 

 

「……」

 

夕暮れに映えるその二人を、静かに見守る人影が建物の陰に3つ程あった。

 

「那智姉さん……良かったわね」

 

妙高型4姉妹の三女、足柄が那智の想いの成就に優しい笑みを浮かべる。

 

「う、うん……良かったぁ」

 

その様子に感動して涙を浮かべていた羽黒が続いた。

 

「流石大佐です。那智もやっと自分から動いてくれたし」

 

一人和らな表情をしながらも、凛とした雰囲気はそのままに発言したのは長女の妙高。

 

「……あとは妙高姉さんだけね?」

 

「え?」

 

「あ、そういえば……」

 

「私……? ふふ、そうね。私は那智以上に素直じゃないからちょっと時間掛かってしまうかもね」

 

「ええー? 素直じゃないというか、姉さんの場合はどちらかというと……ね? 羽黒」

 

「うん……。素直に告白しても態度が普段と変わらないから逆に大佐に想いが伝わらないのを不安に思ってる……?」

 

足柄の問いかけに羽黒は感動していた顔から瞬時に真面目な表情になると、冷静な声で妙高の恋愛事情をそう評した。

 

「は、羽黒……」(なんかこの子、恋愛が絡むと凄く饒舌ね)アセアセ

 

「あ、姉さん図星?」

 

「もう、知りませんっ」

 

「お姉ちゃん、私力になるよ?」

 

「え?」

 

「お、羽黒積極的じゃない」

 

「や、やめてよ足柄お姉ちゃん……。私はただ皆で大佐の事好きになりたいだけだよ……」

 

「もう、この子ったら……」

 

「仕方ないわね。羽黒がこう言ってるんだから私も力にならないわけにはいかないわね」

 

「足柄も……。はぁ、そうね。それじゃちょっと助けてもらおうかしら」

 

「そうこなくっちゃ。まずは服のコーディネートからね!」

 

「え? そ、そこからなの? 皆は制服のままだったじゃない?」

 

「お姉ちゃん、意外性は大事なの。そうすれば大佐も印象に残るし、その後もスムーズだと思うよ?」

 

「そ、そうなの……?」(す、凄い自信……)

 

「羽黒解ってるじゃない! じゃぁ先ずは何にする? メイド? 警察官?」

 

「足柄お姉ちゃんそれ違う……」

 

羽黒の冷めた声に妙高は笑いながら補足する。

 

「ふふ、羽黒、これはワザとよ。足柄も変に緊張を解そうとしなくていいから、ね?」

 

「あはは、やっぱり適わないわね姉さんには。それじゃ姉さん、頑張りましょうか? ね?羽黒」

 

「うん。妙高お姉ちゃん私達に任せてね!」

 

「ほ、程ほどにお願いね?」

 

何やらかつてない妹達のやる気若干気圧された妙高は、不安半分感謝半分と言った様子で苦笑するのだった。




提督が日本へ行った話が絶賛滞っていてすいません。
でも、こうして思いついた話を投稿しないとまた間が空きそうなので。

那智が素直になったら凄く可愛いと思います。

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