提督の憂鬱   作:sognathus

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時は少し遡ってプリンツが仲間になったばかりの頃の話。
プリンツは自分の部屋を宛がわれて早々、早速自分が慕っている戦艦のビスマルクを訪ねました。


第×10話 「由来」

「おっねっえっさまー♪ お久しぶりでーす!」

 

バンッ

 

「うるさいわ。帰ってちょうだい」

 

「 」

 

「ちょっと、ジェーン!」

 

「え? もしかしてプリンツ?」

 

部屋には先客のZ1とZ3がおり、ノリ良く現れたプリンツを様々な形で早速出迎えてくれた。

 

「……はっ。あっ、お姉様~♪」ダッ

 

「ちょっと、部屋の中で走らないで」

 

「まぁまぁ」

 

「ジェーンごめんね。わっ……と、久しぶりねプリンツ」ナデナデ

 

「ん~、おね……マリアお姉様~♪」スリスリ

 

「もう、相変わらず甘えん坊なんだからプリンツは」

 

「あ、フランです」

 

「え?」

 

「はい?」

 

「ん?」

 

「わたしも大佐に名前を貰ったんです。マリアお姉様、今日からわたしのことはプリンツではなく、フランソワかフランでお願いします!」

 

「あ、そうなんだ。あなたも大佐に……良かったわね」ナデナデ

 

「うん!」

 

 

豊満な身体に似合わず子供の様な無邪気な笑顔で嬉しそうに撫でられるプリンツに対して、それを何となく冷めた目で見ていたZ3がポツリと言った。

 

「……まぁ、ジェーンの名前の方が可愛いけどね」ボソ

 

「えっ」

 

「え?」

 

「じぇ、ジェーンてば!」

 

「あの~……さっきから妙に冷たい態度のジェーンちゃんは一体何を言ってるのかな~?」ヒクヒク

 

「ちゃん付けはよしてフランさん、呼び捨てで構いません。私、一応これでもFräulein(フロイライン)なのだから」

 

「え? フロ……なに?」

 

「あーもう、ジェーンさっきからどうしたの?」

 

「……丁度いい機会だと思ったのよ。ここにいる4人、大佐に名前を貰った者として誰が優れているかを決めるのに」

 

「優れた名前? ジェーン、それってどう意味なの? 良かったらもう少し詳しく教えてくれないかしら?」

 

プリンツを撫でていたマリアがその言葉に興味を持ち、訊いてきた。

 

「分かりました。いいですか? 私達は大佐に名前を付けて貰ったけど、その名付けられ方にそれぞれ微妙に違いがあるの」

 

「違い?」

 

「そう。その違いの差の結果、私の名前の方が優れているという事よ」

 

「いやいやいや、全然説明になったないじゃん! なんでフランよりジェーンの方が優れてるの? 可愛いの!?」

 

Z3の説明に納得できず、今までビスマルクに撫でられていたプリンツが早速噛みつく。

 

「ジェーン、せめてそこは説明した方がいいと思うよ。皆納得できていないもん……」

 

「……そうね。私としたことが気が利かなかったわ。謝ります」

 

「いいのよ。それで、名付け方にどういう違いがあるの?」

 

「はい。それでは順番に説明していきます。まず一つ言っておかなければならないのは、大佐のこの名前の付け方には大きく2種類あるという事です」

 

「2種類?」

 

「そう。一つは元の名前から由来や同じ音を持つものを探す方法」

 

「私とフランね」

 

「そうです。そしてもう一つは元の名前を元に、その音や使われている文字から全く新し名前を考える方法よ」

 

「僕とジェーンだね?」

 

「そうよ。この名前の付け方において、明確なアドバンテージがあるのは後者だと私は考えます。何故なら元の名前から連想する方法より、無から付けられている私たちの方がもっと考えられているからよ」ビシッ

 

「なっ!」ガーン

 

「ええ!?」ガーン

 

衝撃の断言にビスマルクとプリンツが固まる。

 

 

「えっ、僕の名前ってマリアさん達より良いの?」

 

「誤解しないでください。別に私はマリアさん達の名前を批判してるわけじゃないです。ただ、どちらが優れているかという点においては私達の方だという事を理解してほしいだけです」

 

「そ、そんなの納得いかない!」

 

「こら、フラン。……でもそうね、私もその説明ではちょっと納得できない、かな」

 

プリンツほど動揺はしていないものの、明らかに何かの火が着いた目でビスマルクが異議を唱える。

 

「そうですか? 私なりに理解し易く説明したつもりですが?」

 

「名前の付け方についてはね。まぁそれは百歩譲って納得したとするわ。でもねジェーン、あなたは一つ大事な事を失念しているのよ?」

 

「何でしょうか?」

 

「本当に大事なのはやっぱり名前の響きじゃないかしら? 確かにどうやって付けたかも大事だと思うけど、でも結局はそれを人が聞いて聞こえが良い方が最終的に私は優れていると思うの」

 

「……なるほど。つまりマリアさんは自分の名前の方が響きが女性らしくて可愛いと」

 

「そういうことになるかしら」

 

「流石お姉様! どう? ジェーン! その理由ならわたしとお姉様の方がすぐれr」

 

「残念ですが、それは間違いよ」

 

ビスマルクの反論に活力を取り戻したプリンツが牽制しよとしたが、あっさりとそれはZ3に途中で遮られた。

駆逐艦を相手にまともイニシアティブを取れなかったショックでプリンツはその場で再び固まる。

 

「 」

 

「……何故かしら?」

 

妹分の悲壮さを見かねたビスマルクが更に議論する為に理由を訊く。

 

「確かに私とレイスの名前は『マリア』と『フラン』という名前と聞き比べると多少女性らしさが弱いのかもしれない」

 

「そ、そうよ! だからわたし達の方g」

 

「プリンさんはちょっと黙っていてください」

 

「ぷ、プリン……」ガーン

 

「ちょ、ジェーン!」アセアセ

 

「こほん、続けます。確かに聞こえはマリアさん達の方が優れているかもしれない。でもその結果は、最終的な名前と本人とのギャップによって覆ります」

 

「? どういう事?」

 

「ジェーン、この名前は女性らしさを感じさせながらもどこか凛とした大人の雰囲気があります。でもそのイメージ対して実際に名前を持つ私は見た目が幼い」

 

「それはジェーンにとって不利ということじゃないの?」

 

「いえ、違います。先程言いましたが重要なのはギャップです。大人の雰囲気がある名前に対して幼い姿の私は、見た目は子供なのに名前に負けない大人らしさ持つ女性という事になるわ」

 

「……ねぇ、あまりにもそれは無理矢理なこじつけじゃないかな?」

 

「そんな事ないわ。レイスだって立派よ」

 

「えっ、ぼ、僕も?」

 

「『レイス』この名前は私の名前以上に男か女か判り難い……。でも実際の本人は可憐な少女で、更に一人称が不器用にも『僕』だなんて男性のもを使っている。ほら、もうこのギャップで私たちは二人に勝っているわ」

 

「ひ、贔屓だ! そ、それはただの贔屓よ!」

 

「ムキになるようで恥ずかしいけどそれには私も同意だわ。そんな単純なギャップで元から女性らしい私達が劣っているとは思えないもの」バイーン

 

「そうよ!」プリン

 

「うっ……。じぇ、ジェーン、悔しいけど僕もそう思う……」タジ

 

圧倒的な肉感的な魅力を持つ二人の身体に一瞬で気圧されたZ1が旗色の悪さを認める。

だがそんな状況においてもZ3の凛として自信に満ちた態度は変わらなかった。

 

「レイス諦めないで。……嘆かわしいわねマリアさん」

 

「なんですって?」

 

「そんなの私から言わせれば、名前の通り過ぎて単純であまりにもありきたり。つまり地味なだけです」ビシッ

 

「なっ!?」ガーン

 

「ふにゃぁ!?」ガビーン

 

(あ、心折れた)

 

どうやらそれで勝負は決したようだった。

ビスマルクとプリンツはそれ以上は何も言わなくなり、暫く何も喋らなかくなった。

 

 

「……」

 

「う……ぐす、ふぇ……」プルプル

 

(き、気まずい)

 

「ジェーン」

 

悔し泣きをするプリンツに対して一人静かに沈思していたビスマルクが顔を上げてジェーンに話し掛けてきた。

 

「はい」

 

「この勝負、この場においては貴女の勝ちを譲るわ。でもまだ納得していないからね」

 

「構いません。私を納得させる事ができる説明ができるのならいつでも相手になります」

 

「いい度胸ね。……それじゃちょっと」

 

「あ、何処に行くんですか? マリアさん」

 

「……ちょっと、ね。直ぐ戻るから。それまでの間プリ……フランをお願いね」

 

バタン

 

「うわぁぁぁぁぁぁん、レイスちゃーん!!」ガバツ

 

「わわ!?」

 

(ふっ……勝った)

 

 

 

「……なるほどな。それでここに来たのか」

 

「う……ぐす……」

 

部屋を出てから直ぐに大佐のもとを訪ねたビスマルクは、部屋に入って彼の顔を見るなり、半泣きになって彼に飛びついた。

そして今に至る。

 

「まぁそんなに気にすることはないと俺は思うぞ。マリアという名前だって俺はちゃんと考えて付けたし、お前に似合っていると思う」

 

「で、でもぉ……」グス

 

「ジェーンは元々勝気な性格だからな。だからここは、勝負に負けたにも関わらずそれを感じさせない普段通りの態度で接した方が、お前の大人として余裕を逆に見せつける良い機会だと思うぞ?」

 

「……なる……ほど」グス

 

「解ったか? というわけで俺は大人なお前が好きだからそろそろ大人らしく立ち直って部屋に戻ってもいいと思うぞ」

 

「やっ!」ダキ

 

「っと、おい」

 

「大佐の前では子供でいたいの! 大佐の前では泣きべそかく女の子でいいの!」

 

「……とんだ甘えん坊だな」

 

「ねぇ、もっと撫でて……抱き締めてよ」

 

「そうしたら落ち着いてくれるか?」

 

「わ、わたしが眠るまでお願い……」カァ

 

「手の掛かる Fräulein だな」

 

「……っ」(今更だけど実際に言われてみると、死語でも嬉しいな……♪)ギュッ




久しぶりにビスマルク書きたくなったので、名前の話も混ぜて書きました。
あ、プリンツ登場人物に追加しないと。
あ、ついでに山雲とかもしておこう……。

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