提督の憂鬱   作:sognathus

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足柄に続いて古鷹も改二になりました。
その報告の為に今度は彼女が提督の下を訪れるのですが……。


第×3話 「改めて」

「大佐、古鷹改二になってきました! どうですか?」クルリ

 

「……ああ、古鷹か」

 

「え?」(え? なに? 今の間?)

 

「ああ、悪い。ちょっとボーっとしてただけだ」(言えるわけがない。一瞬古鷹の事を完全に忘れていたなんて)

 

「……」

 

「……」(え、なにこれ? 何だか凄く気まずい?)

 

何とも言えない雰囲気に包まれる中、古鷹は突如訪れた沈黙に早速混乱した。

 

(あ、そういえば私って大佐とあんまりちゃんと話した事がなかったかも。それで緊張しちゃってるのかも。あ、改めて考えると何を話せばいんだろう? 今日は良い天気ですね、とか?)

 

「……」(古鷹の奴、もしかして俺の失礼に気付いたか? なんか話難そうにしているし、やっぱりそうか?)

 

古鷹が混乱する一方で提督は提督で一人こんな感じの空回りをしていた。

 

「……」(取り敢えず煙草でも吸うか)

 

気分を取り直す為に提督が煙草に手を掛けようとした時だった。

それに気づいた古鷹が気を遣って火を付けようと彼に近寄ってきた。

 

「あ、タバコですか? 火、お着けしますよ」(これはチャンス! これを機に大佐と親しく……)

 

ゴトッ、バシャッ……

 

「あ」

 

「む」

 

焦って近づいた行動が祟ってしまい、古鷹は提督の机にあったサボテンの鉢を倒してしまった。

鉢に上の部分に敷き詰められていた小石が、勢いよく毀れて執務の途中だった書類の上に広がる。

 

「ご、ごめんなさい! す、直ぐに片付けますから!」

 

自分の不手際に青くなって謝罪しながら古鷹は急いで手で小石を集めて、机の上を掃除しようとする。

 

ビリッ

 

「あっ」

 

「……」

 

今度は勢い余って小石と一緒に書類も引きずってしまい隅の方を少し破ってしまった。

 

「……」

 

「古鷹き――」

 

『気にするな』と提督が言おうとした時だった。

 

「ふぇ……ぐす……」

 

提督と目が合った古鷹は目から涙を溢れさせて自分の不甲斐なさに今にも泣き出さんとしていた。

 

「いや、待て。大丈夫だ。大丈夫だから、な?」

 

「た……うわぁぁぁぁん。ごめ……ふぇぇぇぇん」

 

急いで宥めようとした努力もむなしく古鷹の涙腺にあったダムは決壊し、案の定大泣きしてしまった。

 

 

ガチャ

 

「何かありましたか?」

 

声を聞きつけた鳳翔が心配そうな顔で部屋に駆けつけてきた。

 

「鳳翔……」

 

「ふぇぇぇぇん」

 

「ああ、これは……」

 

部屋に入ってきた鳳翔の目には、困った顔で立ち尽くす提督と同じく立ったまま小さな紙の切れ端を握り締めて泣いている古鷹といった光景が飛び込んできた。

 

「鳳翔これはな……」

 

なんと説明したらいいのか考えあぐねていると言った様子の提督。

そんな彼の姿を見て鳳翔は、艦隊の母の異名に相応しい判断力で一瞬で状況を把握した。

 

「あ、大丈夫ですよ大佐。はい、古鷹さんも泣かないで。大佐は怒ってませんよ」ナデナデ

 

「う……ぐす……で……。えぐっ、でもぉ……」

 

「大丈夫。大丈夫ですよ。ね? 大佐?」

 

鳳翔の助け舟に心の中で最大の感謝を送りながら提督は即答した。

 

「勿論だ。古鷹、そんなに気にするな。確かにお前はミスをしてしまたっが、机は掃除すれば済むし、この書類だってコピーをすれば済む程度のものだ」

 

「……ひぐ……うっ……ぐす」

 

「ほら、古鷹さん。大佐もああ言ってますから。大丈夫ですよ?」ナデナデ

 

「鳳翔の言う通りだ。俺は全く気にしていない。いや、今はお前が泣き止んでくれることの方がきになる。だから、な? もう安心しろ」

 

「……」コク

 

未だに目には涙が滲むものの、古鷹は俯いて表情を見せない様にしながらも、小さく頷いた。

 

「……大丈夫そうですね。大佐、後はお任せしても?」

 

「ああ、大丈夫だ。鳳翔、本当に助かった」

 

「いえ、このくらい。それでは」

 

パタン

 

 

「……」

 

「……」

 

部屋にまた沈黙が訪れた。

しかし今度は、お互いに理由が分かっている沈黙だった。

 

「大佐……」

 

意外にも先程まで泣いていた古鷹から口を開いた。

 

「ん?」

 

「ごめんなさい……」

 

「ああ。分かった」

 

「本当に……」

 

「大丈夫だ、本当に。お前はこれ以上心配する事はない」

 

「……はい」

 

目に見えて落ち込んでいる古鷹をどう励ましたらいいのか。

少し悩んだ末に提督は結局は始まりに戻る事にした。

 

「古鷹」

 

「……っ、はい」

 

「改二おめでとう。良かったな」

 

「……大佐」

 

「こんな事くらいお前の活躍であっという間に忘れさせてくれ。期待しているぞ」ポン

 

「……はい!」(大佐、やっぱり良い人だ。うん……頑張ろう!)

 

こうしてその日起こったちょっとした事件は、何とかお互いの親交を温めるだけに落ち着いたのであった。

 

そしてその日の晩――

 

 

「たーいーさ、しっつれいしまーす!」

 

元気のよい声と共に古鷹の妹の加古が提督を訪ねてきた。

 

「なんだ加古、用か? もしかして姉の件か? あれはな――」

 

「ああ、いいよ。その事は分かってるから。今日来たのは別件、とは言わないけど直接関係はないよ」

 

「そうか。で、なんだ?」

 

「いやー、今まで大佐と古鷹ってほら、なんかすれ違いとか多かった所為かちょっと壁、みたいなものがあったじゃん? 今日の事でそれが完全になくなって良かったなぁって事を大佐に直接言いたくなってさ」

 

「……そう、か」

 

突然と言えば突然の申し出に提督は戸惑った声を出すばかりだった。

 

「あー、もうそんな顔しないでよ。妹として姉が提督と仲良くなったのが嬉しいってことを伝えたかっただけなんだから」

 

「……姉思いなんだな」

 

「まぁね!」

 

「それ以外は姉の方がしっかりしてる印象があるな」

 

「まぁn――ってちょっと!」

 

「はは、冗談だ」

 

「嘘だ」

 

「そう思うか?」

 

「うん」

 

「まぁ半分だな。もう半分は元気が良くて一緒にいると楽しい奴だと思っているぞ」

 

「え? むぅ……そんなんで懐柔されないんだからね」

 

「ほう、懐柔とは難しい言葉を知ってるんだな。偉いぞ」

 

「え? えへへ、ありが――って、ちょっとぉ!」

 

「ははは。まぁノリが良くて楽しい奴だとは思っている。これは本当だ」

 

「むぅ……じゃ、さ」

 

「うん?」

 

「撫でてよっ」

 

「は?」

 

急な申し出に提督は戸惑った声を発した。

 

「この基地では艦娘と提督が仲直りする時にその印に艦娘からは握手、提督からは頭を撫でて貰える決まりがあるんだよ」

 

「なんだそれは。俺はここの提督なのにそんな決まり初めて知ったぞ」

 

「そりゃ仕方ないよ。だって今思いついたんだもん」

 

「……」

 

「……」

 

「……なぁ」

 

「ん、なに?」

 

「その決まり。いや噂、広めるなよ?」

 

「じゃ、撫でて」

 

「……」

 

「……」

 

「……分かった。ほら」ポン、ナデナデ

 

「えへへー♪」ニコニコ

 

(なんか重巡にしては感じが駆逐艦に似てるな。フランと似たタイプなのかもな)

 

「うん、決めた」

 

「ん? 何をだ?」

 

過去は不意に宣言するような口調で言いだした。

 

「私も重巡同盟に加入しよっと」

 

「重巡同盟? なんだそれは?」

 

「大佐が好きな子の組合? みたいなやつ。別に重巡だけじゃないよ。艦種ごとに同盟があるんだ」

 

「なんだそれは……そんなもの知らなかったぞ」

 

「そりゃ本人を前にして堂々と言うものでもないしね」

 

「……まぁ、確かに。で、お前は口ぶりから察するにそれに入ってなかったようだが?」

 

「うん、そうだよ。別にわたしは大佐の事嫌ってはなかったけど、敷いて皆ほど強い好意を持ってたわけじゃなかったしね」

 

「なら入らなくていいだろ」

 

「ちょ、自分に好意を寄せる女の子の同盟に目の前でわたしが入るって言ってるのにそんな事普通言っちゃう!?」

 

「なんかあれだ。そういうのの人数が増えると疲れる気がする」

 

「理由があまりにもあんまりだぁ!?」

 

「……」

 

「……」

 

「……で、入るのか?」

 

「まぁね。わたしもなんかさっきまでのやりとりも含めて大佐の事気に入っちゃったし」

 

(それでいいのか? あまりにも安直じゃないか?)

 

「……そうか」

 

「え? なんでそんな残念そうな顔をするの?」

 

「いや、なんだかお前に悪い道に引き入れてしまった気がしてな」

 

「だからなんでそういう事を本人の前で言うの!?」




古鷹も改二になりました。
やったね♪

……本文にも書いた通り自分の中で今まで古鷹は重巡の中でも特に何故か印象が薄い存在でした。(*加古は何故か姉よりかは印象が強い)
ま、それも改二にして見た目が凄く気に入ったので問題解決しましたがw

重巡の改二増えてきましたね。
次は誰でしょうか。

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