提督の憂鬱   作:sognathus

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深海棲艦と大佐不在の鎮守府のクリスマスの様子。



第12話 「クリスマス①」

「じーんべーじーんぐべー♪ すーながーる♪」

 

「すーずのりーむずーにひかーりわーがまー♪」

 

キャッキャッ

 

レ級とヲ級が何やら妙な歌詞を口ずさみながらはしゃいでいた。

その様子を冷めた目で見ていたタ級の傍らで、鬼姫は逆に興味深そうに眺めながら言った。

 

「……レ級達は何を歌っている?」

 

「どうもクリスマスとかいう人間の祭日を祝う歌らしいわ」

 

「良い音色……私も楽しくなるなぁ」ニコニコ

 

歌詞は元々崩壊していたので意味は解らなかったが、その音色からは楽しげな雰囲気は伝わるらしい。

ル級はレ級達の歌を嬉しそうに聴いていた。

 

「クリスマスね……。そういえば去年も歌っていたような気がするわね」

 

「ええ。あの時はレ級がサンなんとかをやるって言って聞かなくて……」

 

「私、トナカイとかいう動物をやらされたの……。ただレ級にお馬さんにされただけだったけど……」ク

 

「姫、タ級にル級! 皆も歌おうよ!」

 

「レ級、今年は誰がサンタするの?」

 

「わ、わた……!」

 

今年もトナカイにされそうな予感がしたのだろう。

危機を回避する為にル級は自らサンタに立候補したようとしたが……。

 

「あ、ル級は今年もトナカイお願いね!」

 

「え……ふぇぇ……?」グス

 

「ル級哀れな……」

 

「今年は姫がサンタやって!」

 

「えっ」

 

「……」(あーあ、余裕ぶってるから……)

 

「タ級でもいいよ!」

 

「嫌よ」キッパリ

 

「「えーー」」ブーブー

 

「レ級、私今年はトナカイは……」

 

「私もだ。何故私がサンタなんてわけの分からないものを……」

 

「でももうタ級いないし」

 

「代わりいないもんねー」

 

「「えっ」」

 

ヒュー……

 

二人が振り向いた先には既にタ級の影はなかった。

 

「「……」」

 

「さぁクリスマスだー♪」

 

「やっほー、サンタサンタぁ♪」

 

「ふぇぇ……もう私トナカイ嫌だよぉ……」

 

「あ、ちょっ、何をするの!? え、髭? これ付けるの? なんで?」

 

ヒョコッ

 

「……」(暫く戻らない方がよさそうね。……大佐の所でもいこうかな)

 

 

 

一方その頃、大佐不在の基地は……。

 

赤城「さぁ、大佐が留守の間は私たちがしっかりここを守りますよ!」

 

金剛「イェース! ちょっと残念だけど、christamas は大佐が帰ってからネ。それまでは皆で力を合わせて頑張りまショーぉ!」

 

電「が、がんばるのです!」

 

麻耶「応っ! 任せとけ!」(大佐、頼んだアレちゃんと買ってきてくれるかな……)

 

ハチ「了解しました。ハっちゃんの腕の見せ所ですね」

 

長良「まっかせといてぇ! さぁやるわよー!」

 

日向「やる気になるのもいいが、空回りしないようにな」

 

熊野「安心してくださいまし! この熊野が皆さんの気を常に引き締めて見せますわ!」

 

明石「一人だけジャージ姿な上に寝癖だらけで言われても信じられないんですが……」

 

天龍「ああ、昨日徹夜で一緒に麻雀してたから寝坊したんだろ」

 

曙「な、なんか早速不安なんだけど……」

 

ワーワー

 

 

と、まぁこんな感じで提督不在の間その責務を果たしてみせようと皆、意気軒昂の様子だった。

 

 

「ふぅ……」

 

「あら? 今日は大佐はいないの?」

 

一人離れて海を見つめていた加賀に誰かが声を掛けてきた。

振り向いた加賀は声の主を確認すると、僅かに目を細めて声低く応えた。

 

「タ級さん……」

 

「大丈夫。約束はちゃんと守るわ」

 

タ級の問いには答えず目で警戒する加賀に、タ級は両手を上げてわざと大袈裟に敵対の意思が無い事を改めて示した。

当然、ここに姿を現した時点で武装も解除していた。

 

「……ん、ごめんなさいね。まだ堂々とあなたたちと話すのには慣れてないの」

 

「気にする事ないわ。それは当然よ」

 

「……大佐に会いに来たのですか?」

 

「えっ」

 

「大佐に会いたいからここに来たのでは?」

 

予想外の問いかけにタ級は珍しくしどろもどろになる。

 

「あ……ちが……違うわ。ちょっとうちが騒がしかったからここに逃げてきただけで、別に大佐個人に会いに来たわけじゃないわ」

 

「……本当に?」ジッ

 

「え、ええ」

 

「じゃぁタ級さんは大佐に別に特別な好意を持ってはいないと判断していいんですね?」

 

「えっ」

 

「え?」

 

「なんでそれだけでそうな……。あ、いえ、うん。そうよ」

 

「……大佐は優しい方です。好意を寄せる相手が例え深海棲艦だったとしても、それが純粋な思いなら無碍に拒否はしないでしょう」

 

「それ、ほんt……あっ」

 

「……」ジー

 

「……」(参った。これ絶対レ級達を見てきたせいで私も当てられた)

 

「好き、なんですよね?」

 

「……分からないわ。でも嫌いじゃないのは確か」

 

「……まぁいいです」フイ

 

「どれくらい大佐留守なの?」

 

「……そんなに長くはないです」

 

「そう」(口ぶりから察するに一週間くらいかしら)

 

「寂しいのね」

 

「……凄く」ポツリ

 

「えっ」

 

「何ですか?」

 

意外な顔で驚くタ級に加賀が即座に反応する。

 

「あ、いえ。その、凄くストレートなのね」

 

「良い事を教えてあげましょう。ここでは恋に対して奥手だと置いて行かれるだけですよ」

 

「そ、そう……」

 

タ級は視線を逸らしながら考えるそぶりをする。

その様子は加賀の言葉に対して満更でもない反応に見えた。

 

「……ふぅ」

 

「早く帰って来るといいわね」

 

「ええ、そうね。本当にそう思うわ」

 

この基地の中ではかなり冷静な性格の方に見えるが、実は根は案外一番子供みたいに純粋じゃなのでは。

短く溜息を吐く加賀の横顔を見ながらタ級はそんな事を思うのであった。

 




レ級が楽しげにクリスマスを(意味も解らずに)はしゃぐ様子、脳内再生余裕でした。
こんな感じで、提督の帰郷の話は少し置いておいて各登場人物のクリスマスの過ごし方を少し書こうと思っています。

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