そして今度は提督の実家を訪れた客人をもてなす為に細やかな宴会が開かれた。
時刻は夕刻、夕暮れに染まった空から少し涼しい風を吹き、酒に酔った者達の上気した体を優しく撫でていた。
*登場人物が多いので、大和・秋月・龍鳳に関してはセリフの前に名前を入れてます。
*一部登場人物の個人名が出てきます。
「っぷぁ……はっはっは!」
ビールを口に運んで、その唇に付いた泡を拭わずに上機嫌な顔で刻哲は大きな声で笑った。
大和・龍鳳・秋月「……」
その様子を見て少し前まで怒りの形相をしてとんでもなく怖かった時との落差に大和達は唖然とした顔をしていた。
反対に鐸と要は慣れた様子で彼に接待をする様に愛想良く肩を揉んだり、酌をしていたりした。
「ふふ……相変わらず良い飲みっぷりですね。はい、飲みます?」(ホント、この人お酒飲むと人が変わるわよね。アイツは違うのに)
「んっと……。っし……っと、どうですかお義父さん気持ち良い?」(酒が入ると機嫌が良くなるところもうちの父親に似てるなぁ。ふふ、なんか良いなぁ)グッグッ
大和「……」
「ふふっ、凄いでしょ? うちの人。お酒飲むとこんなに変わるんよ」
まだ呆然としていた大和にはなえが面白そうに笑いながら彼の癖を教える。
秋月「お、お酒って凄いですね。たい……あ、えっと、た、ただ……てつさんもこんなに変わるんですか?」
「……いや、俺は酔いはしてもあそこまでは。多分」
「そうね、この子はあの人よりお酒は強いものね。あの人が特別お酒に弱いのよ」
龍鳳「あ、でも酔いはするんですよね?」
「ん? まぁ、それはな」
お酒に酔った提督を一度見てみたい、そんな事を思いながら自分を見る龍鳳に提督がその意図が読めずに不思議そうな顔をしたときだった。
ガシッ
「んぶっ……」
「おーぁあぁぁ、飲んでるか? おい、馬鹿よ! 息子よぉ!」
完全に酔っぱらった彼の父親が真っ赤な顔で提督の首に腕を回して絡んできた。
提督は危うくグラスを落としそうになるのを何とか堪え、彼にしては滅多に見る事が無い嫌気がさした顔をした。
「父さん、酒に飲まれる癖いい加減に直せよ。他の人にもめいわ……」
「ああ、うっせいなぁ! お前、お前よぉ忠哲よ? 今日は、俺……嬉しいんだぞぉ」
「……?」
突然絡んできたと思ったら今度は泣きそうな顔をして自分は嬉しいという父親に提督は不可解そうな目を向ける。
「あーっだぁ! わかんねーか? おれぁあん時怒ったけどよぉ……まさか、久しぶりに返ってきたお前が……」
「俺が?」
「はぁ……。お・ま・え・が! あんなにできたべっぴんさんをよぉ! お前が……ひっく……ぐす……」
「だ、大丈夫か?」
「うっせぇよぉ! だ、だがらなぁ? あんなに良い娘を……お前んこと好きだっつー娘をよぉ……まさか3人も連れ……」
もう最後は言葉にならず、男泣きをして震え始めた刻哲に提督はその時何故か心に不安が過った。
3人、父は確かに3人と言った。
自分の事を慕う娘が3人と。
それは常識的に考えれば成人した女性の事を言うだろう。
つまり、要と鐸と大和だ。
「……」チラッ
提督はさり気なくその三人の様子を気付かれない様にちら見した。
「……♪」ポォ
「……っ」グッ
すると先ず確認できたのは一人凄く嬉しそうに下を向いて頬を染めてる鐸と、刻哲に公認の仲と言われた事に小さくガッツポーズを取る要がいた。
そして自分の横では……。
大和「……っ」ジワッ
感動に瞳を潤ませて声にならない嗚咽を口で押えている大和がいた。
「……」ゾッ
これは不味いと提督は思った。
何故ならその3人が彼女達なら当然無意識に除外されたのは……。
「……」チラッ
秋月「……」ズーン
龍鳳「……」プクー
提督が視線を変えた先には青い顔で一人俯いている秋月と、凄く不機嫌そうな顔で頬を膨らまし、自分の袖を握っている龍鳳がいた。
「あららぁ♪」
その様子を見てはなえが愉快そうに笑う。
どうやら提督と同じく彼が不安そうな顔をしている原因に気付いたようだった。
しかし彼女は息子と違って彼にもう直ぐ訪れるであろう面倒な事態を予測して楽しみにしているようだ。
龍鳳「お、お嫁さんならりゅ、龍鳳だってなれます!」
案の定先ず龍鳳が爆発した。
彼女は提督の袖を掴んでいた状態から今度はその腕にしがみ付き、決して彼を誰にも渡さないとでも言うようなアピールをする。
秋月「……」ズーン
一方秋月はまだショックから立ち直れず俯いたままだった。
「あっはっはっは」
その可愛らしくも純粋な嫉妬の様にはなえがついに堪え切れず笑いだし、笑いすぎて出た涙を拭いながら龍鳳の頭に撫でながら言った。
「そーねっ、龍鳳ちゃんも可愛いもんね! 龍鳳ちゃん達だけ仲間外れにするのはいかんよねー」
秋月「……!」(達? 今、達って言った!)ピクッ
はなえの言葉に、仲間外れにするのは良くないという対象に自分が含まれていると確信した秋月は耳聡く反応する。
秋月「お、おか……あ……お、おば様。そ、それって私も……秋月も入っているんですか?」
「もちろんよー。秋月ちゃんも可愛いもんねー」ナデナデ
秋月「……っ、おば……お義母様!」パァッ
龍鳳「むー……」プクー
「二人ともホント可愛いねぇ。おばちゃん何だか急に娘が2人できた気分よー♪」
龍鳳・秋月(娘……!)
大和(な……!?)ガーン
「へぇ……ふふ」(あの娘達面白っ)
「……まぁ」(何か負けた気分ね。でも大和、なんであなたまで子供みたいな反応してるのよ……)
はなえの発言に秋月と龍鳳は満更でもない反応を示し、大和は大人げなくショックを受けた顔をしていた。
対して鐸と要は流石に然程気にした風もなく余裕がある様子だったが、鐸だけは同型の艦娘が自分の職場の近くにいる事もあり、一人微妙な表情をしていた。
そしてはなえが最後にこんなとんでもない発言をしてきた。
「さって、時間ももう良い感じだしお風呂入って来なさい。忠哲、あんたこの子達入れてあげなさい」
「……ごふっ」
「え……」
「は?」
「娘じゃない……」ズーン
「ぐーがー……」zz
きっとはなえ自身は半分冗談のつもりだったのだろう。
だがその気持ちも流石に心から提督に心を寄せるその場の娘達には質の悪い本音に聞こえた。
その時、落ち込んで彼女の言葉には気付いていない大和と酔いつぶれて寝てしまった刻哲は蚊帳の外だった。
だが、一緒に風呂に入って来いと言われて満更でもない顔をしていた龍鳳と秋月以外は、青い顔をした提督にそれぞれ微妙な視線を注いでいた。
そう、災難はまだ続いていたのだ。
帰郷編まだ続きますよ!