提督の憂鬱   作:sognathus

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実家に戻ったら更に一難待っていた。
それも最も厄介な災難が……。

*一部登場人物の個人名が出てきます。


第7話 「真・災難」

「……」

 

黒いワンピース姿に滑らかな長髪をなびかせながら不機嫌そうに腕を組んで要と対峙しているのは、最近提督と復縁した元彼女、もとい現彼女。

日本帝国海軍本部第4司令部司令官、上級少将の周防鐸(すおう さなき)だった。

 

「……」

 

二人は提督が実家に戻ってきたところで偶然出会い、そして今、彼を間に挟んでにらみ合うという事態になっていた。

 

「……」ダラダラ

 

「ねぇ」

 

目はしっかり要を見据えたまま、鐸が提督に話し掛ける。

 

「はい」

 

「こちらは?」

 

「……知り合いです」

 

「ちょっと」

 

要が直ぐに割り込んできた。

紹介の仕方が気に入らないらしい。

提督はここは気を遣って謙虚になって欲しかったが、直ぐに諦めて改めて言い直した。

 

「……元陸軍の……」

 

「そうじゃないでしょ?」

 

「……信条さんです」

 

「……」ジッ

 

「要。元陸軍将校の俺のしり……極めて親しい友人だ」

 

「よしっ」

 

「待って。今のは誘導じゃないかしら? 彼に自分の名前を言わせて親しく見せる為の」

 

「元々あたし達は親しいわよ?」

 

「え?」

 

「はい?」

 

秋月・龍鳳(怖い……)ブルブル

 

「ねぇ、どういう事?」

 

冷たい目で鐸が提督を睨む。

提督は要との馴れ初めと今のような関係に至るまでの事の発端を話していいか、許可を求めるように彼女をチラリと見た。

 

「……」チラ

 

「いいよ、話して」

 

「実は……」

 

了承を得た提督は粛々と話し始めた。

 

 

 

「……なるほど」

 

話を聞き終えた鐸は神妙な顔でまだ腕組みをしたままそう一言呟く。

その顔は当初の険悪な雰囲気の時と比べれば、幾分柔らかくなってる様な気がした。

要はその場にいた人間に大体の話が行き渡った事を確認すると、半歩前に出て今度は鐸だけでなく、その場にいる自分以外の全ての人間に聞こえる様に大きな声で言った。

 

「そういうわけ。で、丁度ど良いからちょっと宣言させてもらうね」

 

「え?」

 

「……」(胃が……悪寒が……)キリキリ

 

「皆聞いてください。あたしも忠哲の恋人の候補になります! 勿論、結婚前提で!」

 

大和・秋月・龍鳳「!!」

 

「あらあらぁ♪」

 

「……」ミシミシ

 

大和達が驚きに目を見開き、母親がどことなく楽しそうに笑顔で、そして父親が手に握ったグラスにヒビを入れる中、鐸も焦った様子で直ぐに抗議してきた。

 

「な、こ、恋人って……。聞かなかったんですか? 彼は私と……」

 

「復縁したんでしょ? 知ってるわ。でもあたしが見た限りまだ昔付き合っていた時ほど寄りは戻っていないんじゃない?」

 

「それは……」

 

鐸は口ごもる。

それは仕方のない事だ、同じ職業とはいえお互いの勤務地は大分離れている。

士官学校時代とは違ってお互いの時間などそう簡単に取れないのだ。

 

「ね? あたしにもチャンスあるよね?」

 

「……」(不純異性交遊を理由に否定はできないわね。だってもう艦娘の提督をシてるという時点で彼も例に漏れず……)チラッ

 

鐸の視線で何かを察した提督は、まるでその場にだけ見えない重力があるかのようにうなだれていた。

彼は今、この状況を招いた罪とお互い同意の上だったとは言え、基地での部下の艦娘との情事を思い出し、激しい自責の念に襲われていた。

 

「……」ズーン

 

対して要は要で、ライバル宣言をしたものの自分の現在の状況を冷静に分析して、次なる手を思案していた。

 

「……」(このまま一対一でもいいけど、やっぱり元彼女という立場は有利よね。とすれば敢えてこの場はより状況の混迷を図るのも一興、かな?)チラ

 

大和「え?」ドキン

 

予想外の視線を要から感じた大和は驚いて身を震わせた。

鐸は彼女が自分から視線を外している事に気付き、軽く咳払いをして再び自分に傾注させて色々考えた末、要を見ながら言った。

 

「こほん、どこを見てるんですか? まぁ、いいでしょう。その勝負受けて立ちます」(相対する恋敵はぶつかって勝つに限るわ。その方が後腐れないもの。それに、復縁、職業が一緒という点ではやはり私が有利なのは変わらないし)

 

「あ、ごめん。一個だけお願いいいかな?」

 

「? なんです?」

 

この期に及んで更にお願いとはなんだろう?

鐸は不審そうに眉を寄せながらも、その答えを促す。

 

「どうも忠哲が好きなのはあたし達だけじゃない気がするの。だからここは、よりその機会を公平に与える為に彼女にもこの闘いに参加してもらうかなって思うんだけど?」ビッ

 

そう言って要は今度は視線だけでなく指で直接大和を指した。

いきなりそんな指名を受けた彼女は当然慌てふためく。

 

大和「わ、私ですか!?」

 

「え? 大和……?」(あの子も彼が好きなのは何となく解る。でも、この人の提案はその意を汲んでるとは思えない。とすれば……)

 

「ね、大和さん。君も忠哲の事が好きだよね?」

 

自分より背が高い大和に“上目使いの様な視線”で圧力を掛けて答えを促すと言う器用な真似で迫る要に、大和はまんざらでもなさそうな様子で頬を染める。

 

「えっ、えっ、わ、私は……」カァ

 

 

パリンッ

 

何かが割れる音がした。

 

「……!」ビクッ

 

音がした方を提督質が見ると、そこには顔を真っ赤にして青筋を立てている提督の父親、刻哲がいた。

割れたグラスの欠片の幾つかが手に刺さって血が流れているが、彼は怒りで気にならない様子だった。

 

「……」ピクピク

 

秋月・龍鳳「ふ、ふぇぇぇん!」

 

その圧倒的な気迫に、その場にいた人間の中では見た目が一番幼い二人が、遂に恐怖に耐えられず泣き出した。

母親のはなえが直ぐにそれをあやすように笑いながら優しく二人に言葉を掛ける。

 

「はいはい、ホント怖い人達よねぇ? ほら、おばさんと一緒に台所にいきましょ。ふてぃもちあるよ」

 

秋月「ふ、ふてぃ……?」

 

「甘くて美味しいのよー。食べんね?」

 

龍鳳「甘い……? うん……食べたい……ぐす」

 

秋月「わ、私も……ぐす」

 

「ほな行こうね。ほらほら、怖い人達がなんか騒ぎ出したからねぇ」

 

「……」

 

提督は、はなえが二人を台所に連れて避難する背中を見送りながら、今から起ころうとしている地獄に自らの死を確信するのだった。




なんか思い返してみれば、前の話一人も艦娘出てこなかったんですよね。
艦これの話なのに。

クレームは当然受け付けますw

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