提督の憂鬱   作:sognathus

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提督は要を連れてとある公園にやって来ていた。
彼は彼女を前にすると突然その場に膝を突き、懐から何か箱のようなものを出してその中身を自分の前に並べると、深々と頭を下げたのだった。

*一部登場人物の個人名が出てきます。


第6話 「謝罪」

「なるほどねー」

 

「……本当に申し訳ない」

 

提督は要の前で深々と土下座をしていた。

 

時刻は昼過ぎ、場所は公園。

元々町の住民の数が少ないという事と平日という事もあり、この一見舞台のワンシーンのような様子に気付く者は幸いにも誰もいなかった。

 

「……」

 

要は何とも言えないというような複雑な表情で頭を下げる提督を見ていた。

 

公園に連れてこられた時はこれから甘い時間を過ごせるものかと彼女は期待していたが、待っていたのは衝撃の事実と提督の心からの謝罪だった。

彼女は彼から今は過去に別れたた元恋人と復縁している事、加えて艦娘の何人かとケッコンを行っており、既にその内の幾人とは情事も交わしている事など、赤裸々な事実を包み隠さず伝えられた。

 

(はぁ、まぁ、らしいと言えばらしいけどね)

 

正直失望の気持ちは大きかったが、要は目の前で頭を下げ続ける男にそれでも強く責める気は起きなかった。

それは提督に好意を抱いたその日から彼の率直で真面目な性格を理解しており、今回このような事実を既に行っていたとしても決して軽率な気持ちからきたものではないと信じる事ができたからであった。

 

「……それで、て・い・と・く君は一年もの間、あたしがあげた認識票の裏の事に普通に気付かなかったんだ?」

 

重い雰囲気の中、ようやく彼女から掛けられた問い掛けに、提督は尚も頭を下げたまま真摯に答えていった。

 

「……はい」

 

「で、更にあの認識票、部下の艦娘にあげちゃったんだよね?」

 

「……そうです。君からあの時聞いた言葉を考慮した結果、彼女ならぞんざいには扱わないだろうと判断して、その希望を叶える形で譲りました」

 

「ふーん……」

 

要は腕組みをしながらジトーっとした目で提督を見ていた。

その顔は、表情こそ不機嫌そうだったがその内心は、実際は彼に対する憤りではなく別の事を考えていた。

 

(その認識票が欲しいって言った子、本当に純粋に欲しかっただけって感じはしないな。やっぱり……アレよね。ま、それだけ慕われているとも言えるけど)

 

「それで、そのあたしの前に置いてある物はどういうつもりなの?」

 

「それは……」

 

要の言う通り、提督と彼女の間には、何処に忍ばせていたのか懐刀と拳銃が並べて地面に置かれていた。

提督はそれを見ながら説明した。

 

「俺は君に本当にひどい事をしてしまったと心から思っている。それは君が希望するなら死をも受け入れると言う意志表示だ」

 

「し、死って……」

 

「だが俺は出来る事なら君を殺人犯にはしたくないから、もし希望をされればそれを使って自決するつもりだ」

 

「じ、自害するつもりなの? それで?」

 

「ああ、それで腹を切って、介錯の代わりに自分の胸を撃つ」

 

「……」

 

とんでもない事を目の前で言い切る提督に要は割とドン引きしていた。

真面目だとは思っていたが、ここまで自分に厳しい人間が現代にどれだけいるだろうか?

彼はもしかしたら生まれる時代を間違ったのではないだろうか?

彼女はそんな事を考えながら、短いため息を一つ吐いた。

 

「はぁ……」

 

「……」ゴツン

 

「あ、ちょっと」

 

溜めわ息を聞いて額を地面に打ち付けた提督に要は慌てた様子で声を掛ける。

 

「もう、やめてよ。怒ってないからさ。顔、上げてよ、ね?」

 

「だめだ。例え許しを貰ってもまだ俺は自分を許せない」

 

「いや、確かにいろいろショックだったけどさ、でもまぁ……うん。忠哲は忠哲のままだったわけだしさ。まずは、それが嬉しかったよ」

 

「……」

 

「ケッコンや元カノと寄りを戻してたのはまぁ……」

 

「……」

 

「や、やっぱり今も付き合ってるの?」

 

「俺はそのつもりだ」

 

「……それって結婚が前提?」

 

「……」

 

その問いにかなり重要なものを感じ取ったのだろう。

提督はどう答えたらいいものか考えた。

この問いには慎重に慎重を重ねた上で答えねば。

 

「変に気を遣わないで事実だけを言って。彼女の気持ちじゃない。忠哲はそのつもりだったの?」

 

「……ハッキリ言って、そこまでは考えていなかった」

 

「……そう。彼女からは?」

 

「ない。が、自分から復縁を申し出てきたんだ、その考えがある可能性は十分に有ると考えている」

 

「……もうそのお願いされた?」

 

「……いや」

 

「……そっか」

 

「……」

 

「いいよ」

 

「……?」

 

提督は上から掛けられた短い言葉に僅かに顔をあげた。

『いい』とはどういう事だろう?

その言葉だけでは肯定とも否定とも取れる。

ましてや自分が犯した罪をそんな短い言葉で決着が付けられるもんどろあうか?

そんな事を考えてい彼に、要は更に続けてこう言った。

 

「許す」

 

「……いい、のか?」

 

「うん。もう怒ってないし、許すよ」

 

「しかし……」

 

「そんな顔しないでいいって。もう大丈夫だから」

 

「……」

 

「まっ、まだあたしにもチャンスはあるみたいだしね」

 

「は?」

 

自分の罪に未だに苦悩していた提督はそこで、ハッとした顔になって要を見た。

そんな彼を見返す彼女の顔はいつも通りの元気な笑顔を既に称えていた。

提督はその笑顔を見て何故か全身に凄まじい悪寒が走った。

 

(なにか……とんでもなく、嫌な予感が……)

 

「確かに寄りを戻して付き合ってても、結婚が決まってないならまだあたしにも忠哲を奪えるチャンスはあるよね。せっかくだから今日はこの機会を利用して彼女との縮めさせてもらうよ!」

 

「待て、し……要。それはうわ……」

 

「違う。これは闘い、女のね。ついでに艦娘の事も決着つけるからね! あの背が高い子凄く忠哲好きそうだったもんね。ケッコンはまぁそういう仕組みだから仕方ないけど、でも好意はあたしが一番ってのは伝えないと、だしね!」

 

「要、それだと俺の尊厳が地に落ちて欠片も残らないんだがそれは」

 

「大丈夫。彼女が来たときはあたしが前に出て堂々とあたしも忠哲が好きだから、って宣言するから」

 

「いや、だからこそには俺の意思が……」

 

「だから今日は会えなかった分差を詰めるからね?」

 

「……」(その差を詰めている間に当の本人が来るかもしれないんだ)

 

「大丈夫心配しないで! 忠哲はあたしが守るから!」

 

(死にたい……)

 

頼もしい笑顔でそう宣言する彼女の顔を見ながら提督は、自分が招きつつある更なる混沌に絶望感から心が折れそうになるのだった。

 

 

丁度その頃、提督の実家では……。

 

「すいません、ごめんください」

 

若干疲弊した様子のもう一人の彼女が提督を追って、早々に目的地に着いたところだった。




話のペースちょっと遅いですかね。
でも楽しみながら書けてるので個人的にはOKです。

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