提督の憂鬱   作:sognathus

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そんなこんで提督達は鹿児島からフェリーに乗って難なく故郷の地に着きました。

そこは、丁度鹿児島と沖縄の間の辺り。
鹿児島よりかは寒くはなりませんでしたが、沖縄程は暖かくない丁度春や秋の初め頃と言った気温でした。

提督はその気候に懐かしさを感じながら大和達を連れて、家路へと就きます。
そして程なくして実家らしき住宅の前に着きました。

*提督(主人公)の本名バレあり


第3話 「自己責任」

「ただいま」

 

言えの前で花の世話をしていた女性は、提督の声が特に大きかったわけでもなかったにも関わらず、その言葉に直ぐに反応を示し、玄関先に佇んでいる提督を見て目を丸くして驚きの声をあげた。

 

それは、その女性が提督と親子の絆を持っている事の何よりの証拠に他ならなかった。

 

「え? あらー忠哲! はぁ……どうしたのー? 連絡もせんでー」

 

「ただてつ?」

 

秋月は見知らぬ女性が提督の事を聞き慣れない言葉で呼ぶのを不思議そうな顔をした。

提督は特に表情を変える事無く正面を向いたままポツリと答えた。

 

「俺の名だ」

 

「えっ、大佐の……」

 

「名前……」

 

秋月と大和はそれを初めて知ったようだった。

龍鳳も目を丸くして提督を見上げていた。

 

「お父さんの、名前……」

 

秋月達はその言葉に何か重大な事を知ったかというようにハッとした顔をした。

それには理由があった。

海軍にはある規則があった。

それは公式な物ではなかったが、提督と艦娘との間に暗黙的なものとして海軍が艦娘を兵器として使い始めた当初から存在していた。

 

『艦娘は、提督に本名を訊く事これ禁ず。故にこれ、知る事も不能ず。また、例え知ったとしても、その名で提督を呼ぶべからず』

 

これは提督と艦娘が例え深い絆で結ばれていたとしても、時として必要とあらば私情を捨て、兵器として扱う事を徹する為の信条のようなものだった。

良く言えば軍人としての心構え、悪く言えば人間と艦娘を同列の存在として意識しないための差別的線引きと言えた。

だが提督は、艦娘達に自分の本名を知られ、また声に出して言われてもここでは特に注意する事はなかった。

 

「気にする事はない。というか寧ろここでは大佐ではなく、名前で呼んでくれ」

 

「大佐を名前で……!」

 

秋月が目を輝かせて再度確認する様に提督を見た。

 

「そ、それはまだ早くないですか?」

 

続いて大和が何故か照れながらそんな事を言う。

 

「龍鳳はお父さんはお父さんなので……」

 

「お父さん?」

 

提督の母(*以下母親)がその言葉を聞き逃す筈が無かった。

彼女は耳聡く反応し、そこで初めて提督が連れてきた少女達に注意を向けた。

 

「……っ」

 

提督はハっとした。

しまった、散々対処せねばならない事だと解っていた筈なのにここにきて完全に失念てしまっていた。

提督は自らの油断を地獄に落ちる思いになりながら呪った。

 

「忠哲、お父さんって?」

 

「……ただの呼び名だよ母さん。だからどうか悪い誤解はしないで欲しい」

 

「ふ~ん……」

 

母親はそう言いながら改めて大和達を見た。

 

(背の高い娘は20代か手前くらい? 他の子は……どうみても中学生か小学生よねぇ……)

 

「……」

 

「忠哲」

 

「ああ」

 

「取り敢えず疲れたでしょ。入りなさい。お連れの娘達もどうぞ遠慮しないでいいよ」

 

母親は取り敢えずその場はそれ以上追及することなく笑顔になると、提督と大和達を笑顔で出迎えてくれた。

その優しさと、彼女が提督の母親だという事実に、大和が緊張しながら挨拶をしようとする。

 

「あ、ありがとうございます。お、おか……」

 

「あっ、ズルいです大和さん! お、義母様わ、私秋月って言います。どうか末永……」

 

大和にイニシアティブを握られまいと秋月が負けじと大和が挨拶を言い終わる前に横から入って来た。

 

「ちょ、ちょっと何を言ってるの秋月ちゃん!?」

 

そして、自分より秋からかに踏み込んだ発言をしようとした秋月に大和は慌て、ここに帝国最高クラスの防空駆逐艦と最強クラスの戦艦との提督争奪戦もとい、痴話喧嘩が発生した。

 

ギャー、ワー!

 

 

「……おとーさん?」キョトン

 

呆然と立ち尽くして普段より多く汗を掻く提督に、一人だけ大和達の話に着いて行けず不思議そうな顔をしていた龍鳳が提督の袖を引っ張って事の状況の説明を求めた。

 

「……」

 

だが提督はそれに対して言葉を返すことができず、頭を巡る言い訳の嵐から最適な言葉を探しながら龍鳳の気を紛らわせるために彼女の頭を撫でる事しかできなかった。

母親はその様子を見て愉快そうに笑い、改めて提督達に家に入る様に促してきた。

 

「っ、あははは。賑やかな娘達だねぇ! ほらほら、早くあがって。おかえんなさい」

 

「あ……ああ……。ただいま……」

 

提督はそんな暖かい母の言葉に感謝しながらも、これから自分を待つであろう絶望的な状況にどう対処するか考えるので精一杯だった。

この時点で彼は、既に帰郷できた事に対しての喜びを霧散してしまっており、代わりに言葉にできない程の精神的な疲労に襲われていた。

そう、地獄は今始まったばかりなのだ。

 

 

 

ピシッ

 

提督の実家のとある一室で一人将棋の駒を指して詰め将棋をしている初老の男性がいた。

 

「……」

 

男性は玄関の方から聞こえてくる賑やかな声に一瞬眉間に皺を寄せてその方を向いたが、直ぐに盤上に目を戻し続きをやろうとした。

だがどこで間違ったか遊戯はそこで詰んでしまっていた。

 

「……っ」

 

ポイッ

 

男性は小さく舌打ちして歩の駒を投げると、傍らに置いてあった酒が入った一升瓶を片手に掴んで声のする方向に投げた駒の代わりに自ら『歩』を進めた。




お待たせしまた。
帰郷辺の続きです。

さんざん日常ネタの話を投稿していた所為で実質的なナンバリングとしてはこれが実はこれが3話目という奇妙な状況となってしまいました。

E-2、Fマスでワンパン喰らい撤退しました。
やっぱりキラ付けしてても、気休めですね。
まぁ今週中にクリアできればいいか。

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