提督の憂鬱   作:sognathus

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休暇を利用して帰郷する事にした提督達は、無事本土に着いた。
だが船から外に出た時、彼は思い知る事になった。
自分の油断、迂闊さを……。


第六章 「提督の帰郷」
第1話 「失念」


「しまった……」

 

 

ビュゴァァァァ!!

 

凍てつく冬の風が吹きすさいでいた。

その冷たさは軍服のままだった提督は勿論、基地にいた時からそのままの服装だった大和達を容赦なく襲った。

 

「さ……寒……ぃ!」

 

「う……」

 

「二人とも私に身を寄せて。た、大佐もよろしければ……」ポッ

 

 

「いや、俺はいい」

 

「そうですか……」シュン

 

(しまった。日本は今冬だった。加えて大和達をあいつらの薄着の制服のままで来させてしまった。寒いどうのこうの以前に艦娘の存在はまだ機密扱いなのにこれでは……)

 

「お、お父さん寒いよ……」

 

「……っ」

 

「もっとひっついて」

 

(本部に立ち寄るのを後にしたのは失敗だったな。まさか鹿児島までこんなに寒いとはな。これなら素直に伊丹から直行便に乗ればよかった)

 

「……」ジッ

 

三人「?」

 

(この中で一番幼く見えるのはやっぱり秋月だな。こいつなら一緒に居ても親子か……歳の離れた妹くらいには見えるだろう。龍鳳は見た目が中学生くらいだから三十路の俺が連れて歩くには世間の目がきになる。大和は上着を貸してやっても足が出てしまうからな)

 

「秋月」

 

「あ、はい」

 

「悪いが船の中で二人の服のサイズを大凡でいいから計ってきてくれ。服を買って来る。秋月は計り終わったら俺に同行をして欲しい。俺の上着を羽織れ、足は少し出てしまうがお前からしたら十分に大きいからある程度寒さを凌げるはずだ」バサッ

 

「あ……は、はいっ」

 

「……え」

 

「あう……」

 

「さ、皆さん船の中に行きましょう!」

 

「え、ええ……」(うぅ……いいなぁ)

 

「はぁい……」(秋月さんいいなぁ……)

 

「なるべく早く頼むな。俺も正直この寒さは堪える」

 

「分かりました!直ぐに!」

 

 

―――数分後

 

「お待たせしました」

 

「寸法は大丈夫か?」

 

「はい。大丈夫です」

 

「よし、行くか」

 

「はい!」

 

 

 

~港近辺の街服屋

 

「わぁ……いろんな服がありますねぇ……」

 

「服屋なんだからこれくらいはな。まぁ俺もあっちでは殆ど制服しか着ていないから偶にこういうのを見ると何とも言えない気になるな」

 

「あの、大佐」

 

「ん?」

 

「私が選んでいいんでしょうか? その、センスにはあまり自信は……」

 

「大丈夫だ。少なくとも男である俺よりかはあるさ。そうだな、ここは敢えてデザインには拘らずにお前から見て防寒性がありそうなのを選んでみてはどうだ?」

 

「機能重視ですか」

 

「そうだ。それならセンスの事も少しは言い訳がたつだろう」

 

「なるほど分かりました。それでは……このコートとこのマフラーと……。あ、同じ物は流石に駄目ね。デザインが違う物で同じくらい暖かそうなのは……」

 

「……」(やっぱり女だな。服を選ぶのが楽しそうだ)

 

 

――三十分後

 

「4万680円になります」

 

「えっ」

 

「じゃぁこれで」スッ

 

「4万1千円頂戴します」

 

「ありがとうございました」

 

「……」

 

 

 

「……どうした?」

 

船へと戻る道の途中で提督は秋月が先程から落ち込んだ様子で口数が少ない事に気付いた。

 

「あ、いえ。お金を使い過ぎてしまったと……」

 

「ん? ああ、大丈夫だ。最初から俺が払うつもりだったからな」

 

「い、いえそういうわけには……!」

 

「これは強がりでも見栄でもない。単に俺が普段から金を使わないからこれくらい出費する余裕は十分にあるんだ。だから気にするな」

 

「で、でも」

 

「今はいくら安く買おうとしても需要がある時期だからな。そう簡単にはいかないものだ。ならここは開き直って質を重視するのも選択肢の一つだ」

 

「は、はい……」

 

「……ところで」

 

「はい?」

 

「まだ寒いか? 俺の服……」

 

「あっ」

 

「……服が大きいから歩き難いと思ったんだが、大丈夫か?」

 

「あ、はい。大丈夫です! これ全然邪魔じゃありません!」フリフリ

 

「そうか。ま、俺も今は着替えたしな。使わなくなったら袋に入れておいてくれればいい」

 

「分かりました。ありがとうございます!」

 

「ああ」

 

 

 

~港

 

「悪い、待たせた。服を買ってきたぞ」

 

「お待たせしました」

 

「あ、おかえりなさい。わざわざありがとうございます」(あ、まだ大佐の服着てる……)

 

「わぁ、これわたしの服ですか。暖かそ~♪」(いいなぁ、お父さんの服……)

 

「それじゃ、俺は外で待っているから。準備ができたら出てきてくれ」

 

「「「分かりました」」」

 

 

~船内

 

「秋月ちゃん」

 

「はい?」

 

「その……もし良かったらなんだけど」

 

「? なんでしょう?」

 

「その大佐の服、私にもちょっとだけ貸してくれない?」

 

「っ! あ、秋月さん! わ、わたしも! 龍鳳にもお願いします!」

 

「え? これですか?」

 

「うん。私もそれを着ればより大佐を身近に感じられる気がして……」ポッ

 

「わ、わたしも! わたしもお父さんの服着てみたいです!」

 

「ふふっ、勿論いいですよ」

 

「ありがとう!」パァッ

 

「ありがとうございます!」パァッ

 

 

――数分後

 

「大佐、お待たせしました」

 

「お待たせして申し訳ございません。これ暖かいですね。ありがとうございます♪」

 

「似合いますか?」クルリ

 

「ああ、似合ってるぞ。ん? 秋月、もう服はいいのか?」

 

「あ、はい。ありがとうございました。服はもうこの袋に大佐のズボンと一緒に入れてあります」

 

「そうか」(気のせいか大和と龍鳳の顔が少し赤い……? 服が暖かくて嬉しいんだろうな)

 

「よし、それでは行くか」

 

「ここが大佐の故郷ですか」

 

「いや、違う」

 

「「「え?」」」

 

「俺の故郷はここから更にフェリーに乗る」

 

「フェリー……鹿児島本島ではないのですね」

 

「そうだ。実は大阪で飛行機に乗れば直行だったんだが、今の日本の気候の事をすっかり忘れて旅行気分を重視してしまってな」

 

「ああ、それで港に着いた時あんなに驚かれていたんですね」

 

「まぁそもそも最初から本部に寄る予定もなかったというのに、俺はともかくお前達に私服に着替えさせてなかった事自体が間違いだったんだがな」

 

「んー、でも結局私服でも服はあっちの気候に合わせて夏用だったから寒さは変わらなかったかも?」

 

「あ、それは言えてますね」

 

「とは言ってもあっちでは冬物の服は買えなかっただろうな。結局ここで買う事になるのは変わらなかっただろう」

 

「お父さんの故郷はなんていう所なんですか?」

 

「ああ、俺の実家があるところはな。ん? 実家……」

 

提督は実家と言う言葉に何やら言いようのない不安を覚えた。

自分は何かを忘れている。

まとまった日数の休暇だ。

それを帰郷に使うこと自体は間違いではない。

問題なのは……。

 

「……」(こいつらを親にどう紹介すればいいんだ?)

 

「大佐?」

 

深刻な顔で悩む顔をし始めた提督を大和達は不思議そうな顔で見つめていた。




相変わらず投稿ペースが戻らなくて申し訳ないです。
ちょっと本文の作文スタイルを前に近くして投稿ペースをマシしようかなと考えてみたり。
古鷹を早く改二にしてまた駆逐艦の養成に戻りたいなぁ……。

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