提督の憂鬱   作:sognathus

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提督の執務室で何やら飛龍が蒼龍に自慢をしていました。
蒼龍はそんな飛龍に対して悔しそうな顔をするものの、言い返す事ができないようで口から言葉を出すことなく飲み込んでいます。

提督はそんな二人を執務をしながら少し呆れた顔で暁と見ていました。


第59話 「大人」

「どう? どうっ? 羨ましいでしょう?」

 

「う……うぅ……」プルプル

 

 

「……暁」

 

「なに? 大佐」

 

「飛龍は何を蒼龍に自慢してるんだ? というか何故ここにいる?」

 

「やっぱり本人の前で自慢したかったじゃないかしら」

 

「本人?」

 

「そうよ。飛龍さんが自慢しているのはね大佐。ゆ――」

 

「指輪よ」ヌッ

 

「ひっ!?」

 

「雲龍、どうした?」

 

「呼ばれた気がしたの」

 

「呼んでないわ!」

 

「そうだな。呼んでない」

 

「……二人とも冷たいのね」

 

提督と暁の冷静な返しに雲龍は不貞腐れた顔をする。

 

「機嫌が悪そうだな」

 

「……別に」プイッ

 

「指輪でしょう? 雲龍さん」

 

「……」ピクッ

 

「ん? ああ、飛龍もこいつももしかしてそれで?」

 

暁の言葉で事態を察した提督は手をポンと叩いた。

 

「そうだと思うわ」

 

「……別に。私はまだ練度が足りない事くらい分かるもの。気にしてない」

 

「雲龍さん、だったらなんで大佐の目をちゃんと見て言わないのかしら?」

 

「……」ジト

 

「……っ」ダキ

 

暁は半目の雲龍の視線を受け、そのプレッシャーに耐えかねて提督に抱き付く。

 

「雲龍、大人げないぞ」

 

「……だ、大丈夫。暁は平気よ」ブルブル

 

「震えながら言うな」ナデナデ

 

「ごめんなさい、暁の言う通りよ。やっぱり自分以外の誰かが、それも近くで指輪を自慢してるのを見ると嫉妬しちゃうものね」

 

「そうか?」

 

「そうよ。どうしてそんな事を改めて訊くの? 私を見て解らないかしら?」

 

提督が意外そうな顔で訊き返してきたので雲龍は少し怒ったような声を出した。

今までの会話を聞けば誰だって、ましてや提督くらいの人間なら察する事はできるというのにどうしてそんな事を言うんだろう?

雲龍は自分を突き放すような提督の言葉が気にいらなかった。

 

「いや、機嫌を損ねてるのは分かる。が、お前の言う通りそれが指輪が原因なら、何故お前と同じで指輪をもらえていない暁はこんなに落ち着いているんだ?」

 

「ん……」

 

雲龍はその問いに考えるように口に手を当てる。

 

「大佐……」

 

暁は自分を褒めるような事を言う提督を見上げ、感激した様な顔をする。

提督はそんな暁の頭に手を置いてこう言った。

 

「暁、雲龍に説明してやれ。レディ……淑女らしく、な?」ポン

 

「……! 任せて!」パァッ

 

 

「雲龍さん」

 

「うん」

 

「わたしたち駆逐艦は、雲龍さんたちとは違って夜戦以外ではあまり目立った活躍を見せる事が少ないわ。演習も大佐の方針故にあまり出る事がないしね」

 

「……」(さり気に俺への皮肉も混ぜてきたか。上手いな)

 

「……」

 

「だから練度も上がり難いし、結果として同じくケッコンしている人が一人もいない軽巡や重巡回、潜水艦の人たちよりも更に指輪への道のりが遠いの」

 

「……」(耳に痛いな。ここで自分以外の艦種のやつらへのフォローも忘れないとは)

 

「……」

 

「ならどうしてわたしたちは平然としているのか。別に平気なんかじゃないのよ? わたしや他の子だって早く大佐とケッコンしたいって思ってるもの」

 

「……なら、どうして?」

 

雲龍は依然として駆逐艦らしからぬ毅然とした態度で論じる暁を興味深そうな顔で見る。

そんな彼女に対して暁は自信に満ちた声で断言した。

 

「いつか必ずできるって信じてるからよ。大佐を信じているから」

 

「……」

 

「……」

 

「今は戦艦や空母優先だけど、その人たちが全員ケッコンまで到達すれば、次は重巡、軽巡……そしてやっとわたしたち駆逐艦の出番じゃない!」

 

「……随分気が長いのね。よく待てるなって思う」

 

「んー、これでも遠征の主力だしね。ゆっくりだけど今まで何回も遠征に行ってきた結果、わたしたち駆逐艦の平均レベルは実は重巡や軽巡の人たちを上回ってるの」

 

「だから自分たちの番が来た時はある程度ケッコンへの道も近づいていると?」

 

「希望的観測だけどね。その頃には全員70くらいにはいってるんじゃないかしらって思うわ」

 

「……」

 

雲龍はここまで語って聞かせた暁を前にして素直に感心していた。

彼女たちを甘く見てはいけない。

駆逐艦だからと言って、自分たちより能力が劣るからといって、決してその存在を軽んじてはいけない。

彼女たちは自分たちの力を把握した上でその役割を理解し、文句も言う事なく今までずっと大佐や基地、自分たちを支えてきてくれたのだ。

 

「……偉いのね暁は」ナデナデ

 

「わ……ん……ありがと……♪」

 

暁は雲龍の柔らかい手で頭を撫でられて気持ちよさそうに目を細める。

 

「意外ね。撫でられるのは嫌がられると思ったんだけど」

 

「昔はね。嫌というより恥ずかしかっただけだけど。でも今はそうじゃないわ。だって褒めてくれてるのにそれを嫌がるなんておかしいじゃない」

 

「今は恥ずかしくないの?」

 

「恥ずかしがって褒めてもらえない事の方が損だって考えられるようになったもの。レディは『大人』の女なのよ? だから暁は損得勘定もしっかりしてるの」フンス

 

「……」(それはある意味開き直りとも思うんだがな)

 

「暁……」(可愛い……)ホワァ

 

 

「ね」

 

「っ、なに?」

 

暁はいつの間にか目の前まで近づいていた雲龍に小さく驚く。

 

「ぎゅってしていい?」

 

「え?」

 

「暁が可愛いから抱きしめたいの」

 

「え、いや……褒めてくれるならいいけど……か、可愛いからっていうのはちょっと……」

 

「褒めるわ」ズイ

 

「え、ちょ……」

 

ポフ

 

「~♪」スリスリ

 

「ん~! んー……!」ジタバタ

 

ムニュゥ

 

「!!」(や、やわらかい……)

 

雲龍に抱き締められて若干抵抗していた暁はその時、自分にはない圧倒的なボリュームと言葉にできない感触を感じた。

 

「……」

 

「……?」(大人しくなった? なんで? ……まぁいいか)ギュー

 

(いいなぁおっきくて。わたしなんて……)ペタペタ

 

 

「……」(さて、仕事するか)

 

提督はそんな二人の和やかな雰囲気に満足し、手を止めていた執務の続きに向かうことにした。

ところがその時……。

 

「あれぇ? 雲龍、暁を抱きしめて何やってるんですか?」ヒョイ

 

「大佐! 早くわたしともケッコンしてよ! 飛龍に負けたままなのが悔しいの!」

 

「ダメダメ。次はレベル的には比叡だから。蒼龍はその後よ」

 

「いや! 次はわたし! ね、お願い大佐ぁ!」

 

「……」(忘れていたこいつらがいた)

 

提督は仕事が遅れそうな予感に溜息を付きながら、蒼龍をどう説得したものか考え始めた。




飛龍とケッコンしました。
帰港時のケッコン後の専用のセリフが短いので、いつかアップデートで変わる事に期待ですね。

12月は忙しいですね……。
お金も彼女もいらないから時間が欲しいですねぇ……。

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