提督の憂鬱   作:sognathus

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提督と一緒に寝て貰った秋月は、日が昇る前に目を覚まし、彼を起こさないようにそっと部屋を出ました。
それは彼女なりの提督への配慮だったのは言うまでもありません。

ですが秋月は、周りの目を気にすることなくいつか提督とこんなふうに自然に一緒に居られる関係になりたいと、密かに想いながら自室へと戻ったのでした。

そして日が昇り、朝になりました。


第57話 「協定」

「秋月、おはようございます」

 

「あ、不知火。ええ、おはよう」

 

秋月は自分と同じく朝早くに目覚めている不知火と廊下で出会った。

それはなんの変哲もない挨拶のしあいだったが、不知火は挨拶を交わして彼女とすれ違った瞬間、何かに気付いたのかピタリと足を止めて秋月の肩を掴んだ。

 

「……」

 

「なに?」

 

クンクン

 

「えっ!? ちょ、な、なに!?」

 

「……大佐の匂いがしますね」

 

「 」

 

「ちょっとこっちに来てくれませんか?」

 

「え」

 

「来てください」

 

「い、いきなりそんなこと言われても……」

 

「早く」

 

「だ、だから」

 

「来い」

 

「……っ!?」ゾクッ

 

ガシッ

 

「え、やっ……ちょっ、離してー!!」ズルズル

 

 

秋月は不知火に引きずられるような形で捕獲され、まだ誰もいない入渠ドッグに連れてこられた。

 

「さて、先ずは単刀直入に訊きます」

 

「……」

 

「大佐とヤりましたか?」

 

「え……!?」

 

「秋月には少々直球過ぎましたか。では、少し表現を和らげましょう。大佐と寝ましたか?」

 

「ね……あの、それって……」カァ

 

「意味は流石に解りますよね? どうなんですか?」ズイ

 

「寝たかどうかという事なら、それは……」

 

「別に私はあなたが提督の名誉を傷つけるような後ろめたい事をしているとは思っていません。だからこの質問には、ただはっきりと事実だけを答えて頂けてたら結構です」

 

「……寝たわ。いえ、寝てもらいました。ただ、本当に寝ただけよ」

 

「……何故か訊いても?」

 

「寝て貰った理由? そ、それは……」

 

「笑いません」

 

「……怖い、夢を見たの」

 

「……なるほど。理解しました」

 

「不知火、あなたは大佐と私たちがその……そういう関係になるのが気になるのですか?」

 

「嫉妬ですか? まぁそれに近いものだとは思いますが、それでもお互いに相思相愛かケッコン済みの関係なら流石にそれに水を差すような事はしません。私があなたに伝えたいのは……」

 

「……」

 

「この駆逐艦同盟に加入してもらい、誓約を尊守して欲しいという事です」スッ

 

「え?」

 

不知火はそういうと秋月に一冊の小冊子を渡した。

 

『駆逐艦同盟』

 

冊子の表紙には達筆な文字でそう書かれていた。

 

「あの、これは……?」

 

予想外な展開過ぎて秋月は戸惑うばかりだ。

 

「この同盟は駆逐艦のみを対象とし、かつ大佐に特に好意を持っている事が加入条件です」

 

「は、はぁ……え? こ、好意って……」カァ

 

「そうですよね?」ジッ

 

「は、はい」

 

「素直ですね。良い事です」

 

「あ、ありがとう……」

 

「この同盟の目的は単純に本人、大佐の意思に反してあの人を籠絡しようとしないこと、そしてそういった抜け駆け行為の自粛を促す為です」

 

「な、なるほど。だからケッコンや相思相愛は……」

 

「そういう事です。だからこの同盟の加入者の中には、叢雲さんや初春さんといった方もいます」

 

「叢雲、はつは――」

 

「さん」

 

「え?」

 

二人の名前を挙げようとしたところで唐突に不知火が口を挟んできた。

 

「その二人には『さん』と、敬称を付けるように」

 

「え、な、何故?」

 

「その二人は大佐との付き合いが最も古いからです。そして誰よりも最初にあの人に好意を持っていたからです」

 

「なるほど」

 

「まぁ私も古参と言えなくもない頃からここにいますが、それでも私の前には十人以上の『先輩』方がいます。ですからその人たちに関しては、艦種に関係なくこの基地では特別な存在だと思って下さい」

 

「……了解」

 

「勿論その先輩方は自分からその事を主張するなんて事は基本的にありませんから、仲間としての接し方には変わりはありませんけけどね」

 

「配慮、ね?」

 

「そうですね。あからさまに行う必要はありませんが、その人達と大佐が触れ合っているときは少し気を遣って欲しいという程度です」

 

「分かったわ。でも、気付けない時は仕方ないわよね」

 

「ふふ、そうですね。こちらもそこまで厳しくするつもりはありません。ですが……」

 

「?」

 

「解るものなんですよ意外に」

 

「そうなの?」

 

「ええ、何となくですが、雰囲気的に」

 

「そう……」

 

「それで」コホン

 

「あ、うん」

 

「加入してもらえますか?」

 

「ええ、加入するわ。こういう仲間意識も悪くない、ものね」

 

「理解が早くて嬉しいです」

 

「ううん、話を聞いていてこういうのもいいなって思えたから」

 

「そうですか。では、ここに署名を」

 

「ここ? 血判とかいる?」

 

「え? 血判ですか? そこまではやってないのでいりませんが、やりたいのなら」

 

「そう? じゃ、せっかくだしやろうかな。何かこれはこれで特別な感じがするし」

 

「……なるほど」

 

グッ

 

「……と、これでいいわね」

 

グッ

 

「え、不知火?」

 

秋月が署名と血判を終えると、その隣で不知火も自分の名前の下に彼女と同じく血判を押してきた。

 

「……なんかそれを見てたら私もしたくなったので」

 

「え? ふふ、そうなんだ」

 

「……ふむ、確かにこう見ると私達だけ何か特別な感じがしますね」

 

「なら私と不知火は特別な仲間という事ね」

 

「そう、ですね」クス

 

「あ、それじゃあもう用が済んだのなら私は行くけど」

 

「あ、待ってください」

 

「?」

 

「一つだけ訊きたい事があるのですが」

 

不知火は、少し頬を染めながら真剣な表情で戻ろうとした秋月を呼び止めた。

 

「何?」

 

「その……あなたが大佐に添い寝をしてもらった時、どうやってお願いしたか教えてもらえませんか?」

 

「え?」




秋月出番多いですね。
が、話の流れ的には仕方ないし、別にそれが嫌とも思ってないのでいいのですがw

古鷹改二来ましたね。
うちはあと20くらいレベル上げないといけませんが。
ま、それ以前に新しく入った子たちのレベルを先に上げたいので、今度の改二はちょっと先になりそうです。

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