提督の憂鬱   作:sognathus

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秋月が提督に添い寝してもらった話の続きです。

一緒に寝てもらった秋月ですが、どうやらまだ不安そうです。
提督は彼女がまだ僅かに震えていることに気付きます。


第56話 「可能性」

「秋月、まだ怖いのか?」

 

秋月まだ先程見た悪夢が忘れられないようで、提督にしがみつく形で寝ていながらも、その身体は小さく震えていた。

 

「あ……そ、その……申し訳ございません……」

 

「謝る事はない。だがまだ気になるか」

 

「はい。少し印象に残ってしまっていて……」

 

「……なぁ」

 

「?」

 

「よかったら。夢の内容を話してくれないか?」

 

「え……」

 

提督の頼みに秋月は戸惑った顔をする。

悪夢の内容が内容なだけに、それを思い出すというのも気が重かったし、何より提督に話すのが躊躇われた。

 

「あ、あんまりいい内容ではないので……」

 

「悪夢なのだからそれはそうだろう。秋月、俺が言いたいのはな、悪夢を自分だけ抱え込まない方がいいという事なんだ」

 

「え?」

 

「人は自分にとって不快な事は忘れようと努めるものだが、逆にそれが自分の中で印象が強く残ってしまう事がしばしばある。今のお前がそれだ。ここまで解るな?」

 

「……はい」

 

「ん……忘れたい故に口に出さないでいると、結果的に自分だけで悪夢を処理する事になる。しかし、そこで結局忘れる事ができなければ、それは一生のトラウマになってしまいかねないだろう?」

 

「そう……かもしれませんね」

 

「ならその悪夢を信用できる人と共有すればいい。内容を理解してくれる人が自分以外に一人でもいれば、それは自分の負担の軽減になる。そうは思わないか?」

 

「……」

 

秋月は提督の話を考えた。

確かに未だに悪夢は忘れられずに自分を苛んでいる。

忘れようと必死になればなるほど、二度と見たくないという思いの所為でかえって眠るのが怖くなっている始末だ。

提督の話は一理ある。

秋月はそう思った。

 

「……怒らないでくれますか?」

 

秋月は消え入りそうな声で不安気に訊いた。

 

「夢の内容か? ……ここの夢か?」

 

「はい。大佐は出てきませんが、それでも艦娘が提督を拒む内容なので……嫌われたくないんです」

 

「その夢の中に出てくる提督はひどい奴だったのか?」

 

「……少なくとも私には耐え難い性格でした」

 

「……そうか、なら心配ない。その提督より恐らく俺はマシな奴だと思うからな」

 

「え……」

 

秋月はちょっと意外そうな顔で提督を見た。

彼なりに自分を安心させるための軽口のつもりだったのだろう。

提督は秋月に優しく微笑んでいた。

 

「大丈夫だ。決して怒りはしない」

 

「大佐……分かりました。お話します」

 

秋月は提督の笑顔に安心し、拙いながらも少しずつ話し始めた。

 

「こんな夢でした……」

 

 

 

「……なるほどな」

 

話を聞き終えて提督は考えるように天井を見つめていた。

 

「私はその提督が怖くて……そ、その……い、嫌な人だと思いました……。そして二度と大佐に会えないと思うと、もう……」グス

 

「……」ナデナデ

 

「大佐っ」ギュッ

 

夢の内容を話した事によってその内容を鮮明に思い出したのだろう、秋月は自分を撫でる提督の手を抱きしめた。

 

「秋月、俺が思うにな」

 

「はい」

 

「お前を不安がらせるつもりはないが、現実を教える為に敢えて言うが」

 

「はい」

 

「恐らくお前が話したような提督がいる可能性はあると思う」

 

「……っ」

 

認めたくはなかったが可能性の上では否定できない現実を指摘する提督の言葉に、秋月は言葉にできない恐怖を感じ、再び彼の手を強く抱き締めた。

 

「提督にもいろいろいるだろうからな、ショックかもしれないがまずはこれを理解してもらったうえで続けるが、いいか?」

 

「……」コク

 

「お前が夢で見たような提督が実際にいたとする。だが、何故かその提督が居る基地に限って意外にもそこで艦娘の目立った反抗は見られず、本部もそんなに問題視しなかったりする。何故か分かるか?」

 

「……」

 

秋月は提督の質問に悩んだ。

艦娘にとって提督との絆は任務は勿論、基地での日々を送るうえで絶対に疎かにできないものだ。

だが、自分が見た夢に出てきた提督は、彼女が考える限りその絆を到底維持できる人物には思えなかった。

では何故そんな提督がいる基地で問題が起こらないのか。

秋月はいろいろ考えてみたが、結局分からなかった。

 

「分かりません……何故ですか?」

 

「ん、それはな。そういう提督に限って性格に難はあるものの、任務を遂行する手腕に掛けては有能ないし、優秀だったりするからだ」

 

「……どういう事です?」

 

提督の答えを聞いて、秋月は余計に分からなくなった。

いくら優秀でもそれだけで艦娘との絆は維持できない、そう考えたからだ。

 

「秋月、艦娘というものはまぁ言ってはなんだが、戦闘が主な仕事だ。そんな彼女たちは日々戦いの中で任務をこなしながら徐々にその心の中にあるものを育んでいく。それは何分かるか?」

 

「……自尊心……誇り?」

 

今度の質問は秋月にも何となく予想ができた。

それは間違いなく自分の中にもあったからだ。

 

「そうだ、誇りだ。艦娘もそうだが、軍人というものはその職務柄名誉や誇りに重きを置き易いものだ。さて、ここでまた質問だが」

 

「はい」

 

「そんなお前達を指揮する提督が、性格が悪くてもその指揮能力は抜群で、バンバン成果を上げる優秀な指揮官だったとする。そんな提督をその人の下で働いてきた艦娘達はどう思うか?」

 

「……従います。この指揮官ならと」

 

秋月は今度も迷いなく答える事が出来た。

彼女には段々と提督が言いたい事が解ってきた。

 

「そうだな、俺もそう思う。恐らく余程の事が無い限りお前達はその提督の下で数々の名誉を授かる内に、性格の事は気にしないまでとは言わないが、自主的にあまり深く考えなくなるだろう」

 

「……だから反抗もなく本部も問題視しない、あるいは深刻な問題があったとしても気付かない……?」

 

「そうだ。お前が見た悪夢は、お前が知らない基地の艦娘達にとっては案外慣れた日常だったりするのかもしれない」

 

「……」

 

秋月は再び考える顔をした。

まだ完全とまではいってなかったが、その顔からは最初と比べれば大分恐怖感は減っているようだった。

 

「……優しく慰めてやれなくて悪いな。だが、俺はお前ならこう話した方が一番いいと思った」

 

そう口にする提督の顔は言葉の通り、彼女に対して申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「大佐」

 

「うん?」

 

「ありがとうございます。おかげで大分最初と比べれば気分は楽になりました」

 

「……そうか」

 

「でも」

 

「ん?」

 

「私はそれでも、この基地が、大佐がいいと思います。初めて来たのが此処だったというのもあるかもしれませんが……。もう、私は大佐の、あなたの艦娘になってしまったから……多分他の提督では……」

 

秋月はまるで告白する様に顔を赤くして俯きながらただたどしく言葉を紡いでそう言った。

そんな彼女に、提督は微笑みながら優しくその頭に手を置いた。

 

ポン

 

「あ……」

 

「その決心、確かに受け取った」

 

「大佐……!」ギュッ

 

「改めてよろしくな秋月」

 

「はい……! よろしくお願いします!」

 

提督の身体に抱き付きながら秋月は本当に嬉しそうにそう言った。




秋月に当てられたわけではなありませんが、思いついたものは仕方ないですよね。

関連の同人誌を読んでて、いろんな提督見ている内になんとなく思いついた話ですw

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