提督の憂鬱   作:sognathus

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朝雲と野分の面談が終わり、続いては秋月と浦風です。
先の彼女達と同じく性格が少し対照的に思えるこの二人、さてどういう展開になるのやら。


第52話 「交流⑥」

コンコン

 

「浦風、来たよ」

 

「秋月、参りました」

 

『いいぞ、入れ」

 

ガチャ

 

「失礼しま――」

 

「……」

 

「大佐、どうかしたん? 何か凄く疲れた顔してるよ?」

 

部屋に入った瞬間にソファーにうなだれて座っている提督を見て浦風が驚いた顔をして心配そうに言う。

 

「……なに、ちょっと元気がいい奴の相手をしていただけだ」

 

(朝雲かな)

 

(朝雲じゃろな)

 

「まぁ気にするな。取り敢えず座れ。ほら、茶菓子」コトッ

 

「わぁ、気が利くんね大佐」

 

「……! ど、どうもありがとうございます!」キラキラ

 

「ん? 秋月は甘いものが好きなのか?」

 

「え?」

 

「何だか目が凄く輝いているように見えるが」

 

「あ、ホントじゃ。秋月、結構可愛いとこあるねー」

 

「あ、や……」カァ

 

「別に隠す必要はないと思うが」

 

「うぅ……」

 

「そうよ? 女の子が甘いもの好くんは普通やとうちも思うよ?」

 

「ですけど、防空駆逐艦として隙を見せるわけには……」

 

(どういう理屈だ……)

 

(甘味くらいで突かれる戦術的隙ってなんなん……)

 

 

「……」

 

「……」

 

「え、あの……」

 

「まぁ取り敢えずここでは気にするな。お互いの親睦を深める場なんだからな」

 

「そうよー」

 

「そ、そうですか? なら……」

 

「うちも頂くね」

 

「ああ、遠慮するな」

 

パクッ

 

「はぁ……美味しい……」キラキラ

 

「ん、確かに美味しいね♪」(けど……)

 

「……」

 

「ん~~♪」パクッ

 

(秋月ちょっと喜び過ぎ?)

 

(一体どれだけ自分を抑制してたんだ……)

 

 

――数分後

 

「失礼しました」ペコ

 

「いや、別に謝る必要は……」

 

「そうよ? お菓子食べてただけじゃけん」

 

(秋月はある意味、真面目さでは朝潮や野分を上回るな)

 

「菓子ならまだあるぞ。お代わりいるか?」

 

「あ、うん。もらお――」

 

「はい!」キラキラ

 

「……」

 

「……」

 

「あ」

 

 

「大佐」

 

「ん?」

 

「どうするつもりじゃ?」

 

「何をだ?」

 

「いや、あれ……」

 

浦風が指を指した方向には自分のはしゃぎ様に羞恥で部屋の隅でうずくまっている秋月がいた。

 

「どうすると言われてもな……」

 

「大佐の所為じゃないとは判ってるよ? でも、ここは男として、提督としてバシッと決めて欲しいな?」

 

「浦風、お前、単に面倒だから俺に押し付けようとしてないか?」

 

「ぜんっぜん! そんな事ないよ?」ニコ

 

「……」(図星だな)

 

「もー、ほらほら早く何とかする!」グイグイ

 

「分かった。分かったから押す……おい、胸が当たってるぞ。体全体で押すな」

 

「サービスじゃ」

 

「そんなものはいらん」

 

「お堅いのぉ。ほれ、いいから早く!」ポン

 

 

「秋月」

 

「……」

 

「別に慰めるつもりで言うわけじゃないが、この基地にはお前と同じくらい真面目で自尊心が強い奴が何人かいる」

 

「……」ピク

 

「そいつらも最初はお前と同じように体面を気にしていてな。人から見れば何でもないが、お前の様な個人的嗜好を隙だと考えてなかなか素直になれなかったんだ」

 

「……」

 

「だが、そいつらは今どうしていると思う?」

 

「……どう、してるんですか?」

 

秋月は体操座りをして俯いていた状態から、顔を僅かに上げて目だけ提督に合わせてきた。

 

「自分からある程度素直にならないと、相手に誤解や不快感、そして……まぁ、慕っている相手にも気に入ってもらう事ができないと自分で気付き、今は大分素直になっている」

 

「素直……ですか」

 

「そうだ」

 

「でも私、いきなりそうなる事は……」

 

「それは当然だ。今言ったそいつらだって直ぐに直せたわけじゃない。時間を掛けて徐々に良くなっていったんだからな」

 

「……」

 

「秋月、お前はまだここに来たばかりだ。第一印象を大事に思う気持ちも解るが、無理にそれを通すことで自尊心に自分自身が潰されては意味がないぞ?」

 

「大佐……」

 

「そう硬くなるな。力を抜け。此処には素のお前を見て幻滅する奴なんていない。何故なら無理して体面を取り繕っているお前を知っている奴は、今日仲間になったあいつらと此処にいる俺達だけなんだからな」ポン

 

提督はそう言うと、秋月の目の前で屈み、彼女の頭に手を置いて優しく撫でた。

 

「あ……」

 

「あ、悪い。駆逐艦だからといって気軽に頭を触ってしまったな」

 

提督は馴れ馴れしい事をしてしまったと手を引こうとしたが、その手を少し頬を紅く染めた秋月が握って引き止める。

 

「ん、秋月?」

 

「大佐……分かりました。私、この暖かさに触れて、素直になることがどれだけ大切なのかを」

 

「……」

 

「だから謝らせてください。先程の事、申し訳ございませんでした。これからは大佐や仲間の前ではもう少し自分を偽らずに行こうと思います」

 

「そうか。なら、よかった」ニッ

 

「……っ」(大佐、こんな風に優しく笑えんだ)

 

「? どうした?」

 

「あっ、いえ! な、なんでもありません」

 

「そうか? じゃぁまあ仕切り直しといこうか。まだ時間も菓子も残っているしな」

 

「あ、はい。頂けるな……いえ、是非」

 

「ああ。遠慮するな。浦風はどうする?」

 

「……」

 

提督がようやく秋月を説得できた事に安堵して浦風の方を振り向くと、そこには何か真剣な顔してこちらを黙っままこちらを見ている彼女の顔があった。

 

「浦風?」

 

「あ? ああ、うん。うちも貰うよー」

 

「どうかしたのか?」

 

「……何でもない」(確かに秋月を何とかしてって言ったけど、あそこまで優しくしてるのみたら……ちょっと妬けるよ)

 

(浦風……? っ! もしかして……いや、そうならここは私が素直になった事を二人に示す絶好の好機!)

 

ギュッ

 

「ん?」

 

「え?」

 

提督が腕を圧迫される感触に、そこを見ると秋月が彼の手を両腕で抱き締めていた。

 

「秋月、どうした?」

 

「いえ……ダメですか?」

 

「駄目とは言わないが、このままだと茶屋菓子の用意ができないんだが」

 

「……今はこれでいいので」

 

「? ああ、まぁそれがいいなら」(何だ?)

 

(浦風、見ましたか。私の成長!)

 

(いくらなんでもそれはズルイ! ちゅーか反則じゃぁ!)

 

ギュー

 

「あっ」

 

「浦風、お前まで何だ? というかちょっと痛い」

 

「うちも!」

 

「は?」

 

「うちもしたいんじゃ!」

 

「……! 浦風、負けませんよ」

 

ギュッ

 

「……っ。秋風お前も少しいた……」

 

「うちも負けんけんね!」グッ

 

「お前ら、なんなんだ? 痛い、加減しろ」(どうしてこうなった?)




浦風可愛いですね。
素晴らしい。
秋月も良いのですが、何かステが最早……暁型の皆が不憫に感じてしまう程の性能に吃驚です。

最近の駆逐艦は最初の改造も結構要求レベルが高めですね。
その点、島風と雪風やっぱりチート的存在だなと改めて思いましたw

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