提督の憂鬱   作:sognathus

295 / 404
作戦が開始して皆が部屋を退出した後、そこには提督と秘書艦の矢矧だけが残りました。
いや、残るっているはずでした。

しかし提督は二人しか残っていない筈の部屋にまだ気配を感じたのです。
しかもなにやら負のオーラを纏った黒いモノを……。
提督が気になって振り返るとそこにいたのは意外な人物でした。


第48話 「自尊心」

「で、お前達は何をしているんだ?」

 

「べ、べっつにー?」

 

「……」プイ

 

提督が振り向いた先には部屋に設えたソファーに困った顔で座っている足柄と、何故か不機嫌そうな顔をして彼女に宥められる様に頭を撫でられている大和がいた。

 

「足柄、大和、お前達は待機中だろ? なんでここにいるんだ?」

 

「部屋にいるのも退屈だったのよ」

 

「……」コクコク

 

「だからってここに来ることはないだろう」

 

「執務の手伝いくらいするわよ?」

 

「……」プイ

 

「それ、今は私の仕事なので」

 

足柄の提案に自分の立場を脅かされると思ったのか、矢矧がそれを妨げるように目の前に立つ。

 

「まぁそれもそうだが、それより大和はどうしたんだ? さっきから」

 

提督は先程から足柄の反応に無言で相槌ばかりうっている大和の様子が気になるようだ。

彼女はふくれ面をして時折何かを訴えるような目でこちらを見ている。

 

「あー……それがね」

 

「……」フイ

 

「大和さん、そろそろいいんじゃない?」コショ

 

「……」フルフル

 

足柄が声を潜めて大和の機嫌を窺うように聞いたが、大和は子供の様に首を振るだけだった。

 

「大和?」

 

「どうしたの? 大和さん」

 

「えっとね……大和さん?」

 

「……」コク

 

恐らく自分が大和の代弁をする許可を確認したのだろう、足柄の言葉に大和は小さく頷いた。

 

「……なんだ?」(大方、足柄は大和を慮って残った感じか)

 

「さぁ……」

 

提督は提督で不可解な大和の様子に戸惑うばかりの様だ。

傍らにいた矢矧も意見を求める提督の視線に困惑した顔をするしかなかった。

 

「大和さん今度の作戦に出れなくてちょっと……」

 

「ん? 拗ねてるのか?」

 

「……っ」

 

「あ」(うわ、直球)

 

「え?」(大和さんの様子が……)

 

「ん?」

 

「…………っ」ジワッ

 

提督に歯に衣を着せぬ指摘を受けて、大和は自分の行為に対する情けなさから悔し涙を滲ませた。

 

「……ふぅ、武蔵が出撃しているから余計に悔しいんだろう」

 

「……ふ……う……っく……」ポロポロ

 

「あ、だ、大丈夫ですか?」アセアセ

 

「……」(『大和型の誇』というのも時には重荷になるものだな)

 

「大佐……」

 

「分かっている」

 

泣き出した大和がいたたまれなくなった矢矧が提督に事態の改善を求めてきた。

提督も流石に放置する気はなかったので、彼女の求めに応じて大和になるべく柔らかい声で話し掛けた。

 

「大和」

 

「……っ」ビクッ

 

「お前の気持ちは解らないでもない。武蔵も最初はそうだったからな」

 

「……」

 

「最もあいつの場合はお前と違って、出撃していない間は暇潰しと称して任務に関係のない事をして遊ぶこともあったから、真面目な分お前の方がマシとも言えるが」

 

「……」

 

「大和、お前はもっと肩の力を抜けばいいと俺は思う。出撃できなかったり練度が低くてもお前は大和だ。強力な、この基地でも指折りの頼りになる存在なのは間違いないんだぞ?」

 

「ぐす……大佐ぁ……」

 

大和はようやくそこで、子供のようにしゃくりあげながら提督を見上げ口をきき始めた。

 

「悪いな。お前の自信、誇り、脆さを把握できていなかったのは俺の落ち度だ。だから今回は俺の謝罪で機嫌を直してくれないか」

 

「そ、そんな! 悪いのは私です! 戦艦なのに大人げない事しちゃって……!」

 

「ま、そういうのを含めてお前たちを管理するのが提督だ、指揮官というものだ。……ん?」

 

「大佐?」

 

自分を慰めている提督が急に何かを考えるような顔をしたので、大和は気になって声を掛けた。

 

(私の態度が悪かったから……)

 

やがて、話しかけてもまだ上の空な様子の提督を見て大和は、口をつぐんでしまった原因が自分にあるかもしれないと考え焦る。

 

だが、当の提督は実はそんな事は関係なく、こんな事を考えていた。

 

(戦艦なのに……か)

 

「ねぇ、どうしたの?」

 

「大佐?」

 

足柄と矢矧も異変に気づき、提督に声を掛けるが依然として彼は黙ったままだった。

 

提督の頭の中には大和のその言葉に引っかかる戦艦の艦娘が二人ほどいた。

 

(金剛と比叡……そういえばどうしてあの二人に限っては、なんかこう子供っぽいというか、アレなんだろうな。やはり他の奴らと違って4姉妹と数が多いから性格にも差が……)

 

「大佐!」

 

「……ん」

 

足柄の大きな声に提督は我に返った。

 

「大佐どうかされたのですか?」

 

「体調が悪いなら指示さえしてくれれば横になっててもいいのよ?」

 

「ん? ああ、いや悪い。ちょっと考え事をな」

 

「そうですか……あの、私の無礼の事でしたら改めてお詫びを……」

 

提督の言葉に安心した大和は、再び居住まいを正し彼に詫びをいれようとする。

だが提督はそれをバツの悪そうな顔で軽く笑いながら止めた。

 

「いや、そうじゃない。ああ、このくらいあいつらのおてんばと比べたらなに、可愛いものだ」

 

「え?」

 

「あいつら?」

 

「おてんば?」

 

不意を突く意外な提督の返答に大和、矢矧、足柄は疑問の声をあげる。

 

「気にするな。おてんばなのもいいが、お前達はお前達であいつらと比べて手が掛からない分、それはそれで可愛いという事だ」

 

「そ、そんな可愛いなんて……♪」

 

「可愛い……。ね、もう一度言ってくれるかしら? できれば今度は『矢矧』って明確に私に向けて」キラキラ

 

「なんか気になるのよね……。誰と比較したの? でも私ももう一度言って欲しいかしら」

 

一気に和やかな雰囲気になったと思いきや、今度は自分に甘え始めるという切り替えの早さを見せる大和達に、提督は呆気にとられた顔をして溜息を着きながらも、最後は苦笑してこう言うのだった。

 

「作戦中だぞ。元気なのは良いが、そいういうのは後だ」




E4クリアしました! ヤッタね!
仕事が忙しい時期でやる気が起こりませんでしたが、次はやっとの休みだし、イベントも無事終える事ができたので、新キャラの話も含めていろいろ書きたいですねぇ。

あ、その前に「フューリー」を観に行かなくては……(オイ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。