提督の憂鬱   作:sognathus

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本部の少将こと彼女から大佐個人の携帯に電話がありました。
提督は仕事でもあまり携帯を使わないので、発信者が彼女だと分かった時は「半分置物と化している携帯+意外な相手」という事もあって最初は戸惑います。
しかしスピーカーから聞こえたのは間違いなく彼女の声だったので提督は安心しその声に傾けているですが、そんな彼に声の主はある事を伝えてきました。


第46話 「災難」

「休暇?」

 

『そう、ただの休暇じゃないわよ。帰国の許可まである一週間の連休。今度の作戦終わったらあなた、それを貰えるみたいよ』

 

ただの休暇でも珍しいのに帰国の許可まである連続した休暇など、提督にとっては本当に予想外の話だった。

 

「……」

 

『どうしたの?』

 

電話口で何か息をのんで考えている雰囲気を察した彼女が提督に訊く。

 

「休暇の件は取り敢えず置いておくにしても、作戦の事を携帯で伝えるなんて君らしくないじゃないか」

 

そう、名実ともに優秀な軍人である彼女が軍の通信を使わずに、直接このような方法で自分に連絡を取って来た事が提督はどうも腑に落ちなかった。

だが彼女は、それを予測していたように特に気にもしていない声色でこう言った。

 

『別に公私混同はしてないわよ。休暇の件は上の人たちの特別な取り計らいなの』

 

「上の? 親父たちか?」

 

『まぁ、そんなとこ。だから公式の手段で伝えるのも気が引けるでしょ?』

 

「ふむ……」

 

『そういうワケなの。だからありがたく受け取りなさい』

 

「まぁそういう理由なら、作戦が終わった時にありがたく頂戴しよう」

 

親父絡みなら十分に考えられる事だ。

特に何をしたわけでもないが、自分にこのような処遇を与するという事は何か考えあっての事だろう。

これは帰郷は必ずしなければならないし、帰った際は本部にも顔を出すべきだ、提督はそう考えて納得した。

 

『ええ、そうしなさい』

 

それに対して電話口の向こうにいる彼女は、どこか安心したような声でそう言った。

 

「しかし急だな。特に今は故郷に帰る用もないから、帰ったとしてもどう過ごしたらいいものか」

 

『なにー? 作戦開始する前からもう完遂した気でいるわけ? やるわねぇ』

 

「ん? はは、まぁやる気があるのは良い事だろう?」

 

『ふふ、そうね』

 

「よし、作戦の件、休暇の件は分かった。作戦の詳細は近い内に通達があるんだろう?」

 

『ええ、翌朝までには来るわ』

 

「了解した。じゃぁこれで……」

 

『あ、待って』

 

提督が話を切り上げようとした時彼女がそれを止める。

 

「うん?」

 

『休暇、取るつもりなのよね?』

 

先程とは打って変わってどことなく緊張しているような真剣な声だった。

 

「ん? それはまぁ、せっかくの厚意だしな」

 

『そう。なら……さ、あなたが休暇の間の何日か私の休みも被ってるの。帰郷するって事は私が居る所に来るって事でしょ? だから都合がつけば久しぶりにちょっとデ……』

 

彼女が提督に自分の真の目的を告げようとした時、彼の近くで大きな声がした。

 

タイサァー!

 

『え?』

 

その声は電話口の向こうの彼女にも聞こえたらしく、久しぶりに二人きりで会話をしていた穏やかな雰囲気を破る大きな声に驚いた声をあげた。

 

タイサァー!!

 

また聞こえた。

しかも今度は先程より明らかに近い距離だ。

どうやら自分を呼んでいるらしい。

提督は声の主と状況を確認するために一度、携帯を置いてその場を離れることした。

 

「ん? 悪い、ちょっと待ってくれ」

 

『あ、ちょっと――』

 

彼女は彼女で何があったのか確認しようとしたが間に合わず、代わりに提督が置いた携帯を通して少し声が遠いがこんなやりとりが聞こえた。

 

 

ドウシタ? トキツカ?

 

タイサー! リュウホウチャンガハダカデオフロカラ!

 

ナニ?

 

『え?』

 

彼女はまた驚いた。

裸?

リュウホウって、あの軽空母の龍鳳?

状況が掴めず混乱する彼女に少し焦った様子の提督が電話に再び出てこう告げてきた。

 

「少将、悪い。今日はこれで」

 

「あ、待って! 少しだけd」

 

ピッ、ツー、ツー、ツー……

 

呼び止めようとしたが駄目だった。

電話は一方的に切られ、彼女の耳には虚しくも不通を告げる音のみが響いていた。

 

「……」

 

「……」プルプル

 

「……っ」

 

彼女は呆然とした様子で暫く立っていたが、やがて小さく肩を震わせると口惜しそうな顔をして心の中に不満を漏らし始めた。

 

(もう! なんなのよ! 後ちょっとくらいいいじゃない! せっかく私が中将たちに口添えをしてあいつの休み用意したってのに、これじゃ私の休みをあいつに合わせた意味がないじゃない!!)

 

「……」(もう一度電話を……)

 

彼女が提督に再度電話を掛けようとした時、執務室に入って来た武蔵が彼女に声を掛けてきた。

 

「おい少将、そろそろ行かないと」

 

「待って、ちょっと電話して要件を済ますから」

 

「いや、今日は遅れるのはマズイだろ。何しろ作戦の成功を祈った総帥主催の晩餐会だ」

 

そうだった。

今日は新しく発令される作戦の成功を祈って、総帥自ら本部の提督たちの士気向上と忠勤に対する労いを兼ねて軽い晩餐会を開くのだった。

 

「……そう、ね」

 

彼女は何とか落ち着き払って視線を落とすと携帯を持った手を下げた。

 

「何かあったのか?」

 

武蔵が彼女の異変に気づいて声を掛ける。

 

「……別に」フイ

 

「ふーん」ニヤ (大佐と何かあったな)

 

「なに?」

 

「ん、いや?」

 

「……行くわよ」

 

「ああ」

 

(……あいつ、携帯で話してる時くらい私の事名前で呼んでくれたっていいのに……。そういうところも堅物なんだから、これは絶対に休暇に入ったら逃がさないわよ)

 

彼女の珍しい痴態を面白く思って含み笑いをしている武蔵を尻目に、少将は今回の失敗の挽回を早くも心の中で誓うのだった。

 

 

 

――ところ変わって提督の鎮守府。

 

「お父さん!」

 

バンッ

 

パタパタ、ダキッ

 

恐らく入渠所からそのまま来たのだろう。

素っ裸で勢いよく執務室に入って来た龍鳳は大佐を見つけるや、そのまま彼に抱き付く。

提督はそんな彼女に少し呆れた顔をしてこう言った。

 

「龍鳳お前、軽空母になったら一人で風呂に入るって言ったろ」

 

「やっぱり嫌です! 時々は一緒に入って下さい!」ギュー

 

少し前に潜水母艦から軽空母に生まれ変わっていた大鯨もとい龍鳳は、その際に提督に改造と共に自分の人間的な成長を約束し、その証に風呂は彼とは一緒に入らないと約束していた。

龍鳳の提督に対する依存体質に困っていた彼にとって、その申し出はとてもありがたいものだった。

 

「取り敢えず風呂に戻るか服を着ろ」

 

「一緒に入る約束をしてくれたら戻ります!」

 

「いや、お前……」

 

「あ、龍鳳ちゃん発見!」バッ

 

「 」

 

龍鳳を追って来たと思われる時津風が現れた。

提督は彼女に龍鳳を何とかする為に協力してもらおうと考えていたが、その考えは時津風の部屋に現れた際の姿を見た瞬間に霧散した。

 

「あ、大佐」

 

「なんでお前まで服を着てないんだ」

 

提督の言う通り時津風は龍鳳と同じく素っ裸だった。

しかもたちが悪い事に彼女も龍鳳と同じく、裸を見られることに対して羞恥心を感じていないようだった。

何故だ? やっぱり見た目通り精神状態が幼子とそう変わらないからか?

提督は呆れ返った頭でそんな事を考えていた。

 

「んぅ? あ、直ぐにお風呂に戻るから大丈夫だよ」

 

「……もういい。早く龍鳳を連れていってやれ」

 

「はーい。さ、龍鳳ちゃんいこー」

 

「嫌っ!」

 

「いこ!」

 

「やっ!」

 

「頼むから執務室で裸で騒がないでくれ」

 

「約束してくれたら行きます!」

 

「約束? なんの約束?」

 

龍鳳の言葉に興味を惹かれた時津風が彼女の手を握って引っ張っていた力を緩めて訊く。

 

「お父さんとお風呂に入るんです」

 

(あ、何か嫌な予感が)

 

提督は全身に寒気が走るのを感じた。

 

「大佐! 時津風も一緒に入りたい!」

 

「だめだ」(やっぱりか)

 

提督は当然却下した。

 

「なんで!?」

 

「俺は子供と風呂に入る趣味はない」

 

「親子なら問題ないです!」

 

「お前もういい年だろ」

 

「生まれてから経っている時間はそんなに長くないです!」

 

「それを言うなら時津風もだよ!」

 

(埒が明かん)

 

子供の屁理屈ほど諭すのに苦労する問題はない。

提督はウンザリした顔でどう収拾を着けたらいいものか考えていた。

そんな時――

 

 

「……何をやってるんだ」

 

凛とした大人の声がした。

三人が振り向くと開きっぱなしとなっていた扉の向こうから那智が険しい顔で提督達を見ていた。

 

「あ、那智さん」

 

「那智おねーちゃん」

 

「……」

 

「大佐……」

 

那智の冷たい視線に、既に言い訳する気も失せる程にこの混沌した状況に精神的に打ちのめされていた提督は、それでも何とか言葉を絞り出してこう言った。

 

「信じろとは言わん。ただ、何とかしてくれ」

 

言い訳もしないで自分に助けを求めてきた提督に何か感じるものがあったのだろう。

那智は黙って彼の視線と言葉を受けると龍鳳と時津風に向き直って言った。

 

「……ほら、二人とも風呂に戻れ」

 

「えー」

 

「嫌です!」

 

「大佐はそんな風に駄々をこねる子が一番嫌いなんだぞ?」

 

「「え」」

 

『嫌い』という言葉に龍鳳と時津風は固まる。

那智はその機を逃さず更にこう続けた。

 

「大佐は人前では滅多にそういう事は言わないが、この人も人間だ。自分の主張ばかりして人の話には聞く耳を持たない、そんな我儘な子を疎ましく思うのは普通じゃないか?」

 

那智の追撃に今度は二人は沈鬱な表情で下を向いて黙った。

子供を躾けている親のように見えなくもないが、残念ながらその怒られている二人が幼い外見と言っても小学校高学年以上の身体でしかも全裸、加えてすぐ近くに成人の男性(提督)がいるという状況の所為で些かしまらない雰囲気となっていた。

 

「「……」」

 

「お前達は方法が間違っているだけだ。私は今は大佐の言う事をちゃんと聞いて改めてきちんとした姿勢でお願いした方がいいと思うぞ?」

 

「……」

 

「……龍鳳ちゃん行こ」

 

時津風がポツリと言った。

 

「……トキツちゃん」

 

「わたし大佐に嫌われたくないもん。だからここは大佐の言う事を聞いて良い子にしよ」

 

「……分かりました。大佐、後でまたお願いに来てもいいですか?」

 

時津風の言葉に反省し、思い直した龍鳳は、すっかり落ち着いた真面目な顔に戻っていた。

 

「ああ。今度はちゃんとした格好でな」

 

「はい!」

 

「りょーかーい!」

 

「よし、良い子だ二人とも。じゃぁ大佐に挨拶して早く風呂に行け」

 

「はい! 大佐失礼しました」

 

「大佐、ばいばーい」

 

バタン

 

 

こうして事態は那智の活躍によってなんとか収拾した。

だが、部屋に残った二人に立ち込める雰囲気は何処か重かった。

提督と那智は暫く何も喋らずお互い無言だった。

 

「……」

 

「……」

 

 

「那智、助かった。礼を言う」

 

沈黙に耐えかねたのか提督から切り出す。

 

「なに、このくらい」

 

「いや、本当にたすか……那智、なんだその目は?」

 

「ん? いや……もしかしたら邪魔をしてしまったのか、とな」

 

「頼むからそんな目で見るな。徐々に離れるな」

 

態度こそ普段通りだが、間合いを取るようにじりじりと自分から距離を取る那智を提督は悲痛な思いで止める。

 

「あ、ああ……」ジリジリ

 

(一体どうしたら)

 

「証拠」

 

提督が新たな局面を乗り切る策を考えていた時だった、那智の方から彼に提案をしてきた。

 

「ん?」

 

「大佐が変質者でない証拠を提示してもらいたい」

 

「変質……どうすればいい?」

 

那智の言葉に内心ショックを受けるも提督は何とか平静を装って条件の詳細を求めた。

すると那智は少し頬を染めてもじもじしながらこう言った。

 

「わ、私を女として扱ってくれ」

 

「は?」

 

予想だにしなかった言葉に抵当は目を丸くする。

 

「な、なんだその顔は?」

 

「いや、俺はお前の事を女としか思ったことがないんだが……。今更女として扱えと言われてもな」

 

どこか見当違いな提督の答に今度は那智が目を丸くする。

 

「え?」

 

「ん?」

 

「……」

 

「……」

 

二人はお互いの言葉に混乱し、真意を探る為に暫し見つめ合っていたが、やがて那智の方から何かを堪え切れなくなったように笑い始めた。

 

「……ふっ、はははは。やっぱり大佐は大佐だったな。申し訳ない、今の言葉は忘れてくれ」

 

「……?」

 

提督はただただ那智の言葉の意味が理解できず顔をしかめるだけだった。

 

「そんな顔をしないでくれ。全部私の誤解だと認める」

 

「ならいいんだが」

 

「腑に落ちないという顔だな。ならちょっと大佐のお酌でもさせてもらおうか。それで私はいい」

 

「酌をしたいのか? 普通逆じゃないのか?」

 

「私はそれでいいんだ。大佐、私を女として見てくれているのは嬉しいが、まだ私個人の事は解っていないようだな」

 

「……む」

 

「ほら、いい加減そんな顔はよしてくれ。今夜は飲もう」

 

「ああ、分かった。お前の話、いろいろ聞かせてもらおう」

 

こうして意外な展開で二人の晩酌が始まった。

きっかけこそ良かったとは言えないが、それでも二人が交わした酒は話に花が咲いたこともあり美味しかったという。




秋イベ、E-3まで終わりました。
続きをやるかどうかは現在検討中です。
が、新キャラはしっかり何人かゲットしたので話のネタも確保できました。

と、ここでまたちょっと告知します。
まだ先の話になりますが、提督が日本に帰る時艦娘も何人か連れて行く流れにしようと考えています。
その時に連れて行くメンバーで「誰がいい!」という希望があれば 活動報告の「はじめまして」に返信か、ダイレクトメッセージ適当にどうぞ。

偶にある完全な気まぐれなので、しっかりアンケートを取る為の場は敢えて設けませんw

もう一つついでに。
初R-18絵投稿しました。
詳しくは活動報告の「挿絵始めました」をご覧ください。

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