提督の憂鬱   作:sognathus

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長門が食堂に向っていた時に赤城を発見しました。
赤城も丁度向かうところだったらしく、後ろから掛けられた長門の声に振り返ります。
しかし彼女はそこでとんでもない、あるいはあまりお目に掛かりたくないものまで目にするのであった。

*登場人物がちょっと多いので一部キャラにセリフの前に名前を入れてあります。


第44話 「提案2」

「赤城」

 

「あ、長門さん」

 

「これから昼か?」

 

「ええ」

 

「そうか。なら一緒にいいか?」

 

「ええ、構わないですよ」

 

「そうか。良かったなお前達」

 

「え?」

 

長門一人しか認識していなかった赤城は、この言葉に疑問の声を上げる。

後ろを振り返った時は彼女しか見えなかった。

つまり『お前達』というのは彼女の後ろにいる人の事なのだろう。

赤城が少し視線をずらして彼女の後ろを覗いてみると……。

 

レ級「やったー!」

 

ヲ級「ご飯♪ ご飯♪」キャッキャ

 

ル級「はぁ……またあのお味噌汁飲めるんだぁ」キラキラ

 

タ級「……」

 

すっかりお馴染みになった深海棲艦四人組が、一人を除いてにこやかな顔でそこにいた。

 

「……」

 

「ん? どうした赤城」

 

黙り込んだ赤城に気に掛けるような声色で声を掛ける長門。

 

「え、あの……」

 

「ん?」

 

「なんで……」

 

「ああ」

 

「なんですかこの人達」

 

「レ級達だ」

 

赤城の疑問に長門はこともなげに答える。

それに呼応するようにレ級達もタイミングを合わせてきた。

 

レ級「だぁ!」

 

ヲ級「だー!」

 

ル級「え、えっと……」オロオロ

 

タ級「……」ハァ

 

訂正、レ級とヲ級のみがノリ良く合わせてきた。

 

「そんな事分かってるわよ!!」

 

赤城の悲鳴に似た怒声が廊下に木霊した。

 

 

「……」ブス

 

レ級「ねー長門」

 

「うん?」

 

レ級「なんで赤城怒ってるの?」

 

「分からないか?」

 

レ級「分からない!」

 

ヲ級「わからなーい」

 

ル級「いや、ヲ級は分かってるよね?」

 

タ級「……わざとに決まってるでしょ」

 

「……」ビキビキ

 

「落ち着け赤城、別に無断で来たわけじゃない。一応私に断ってはある」

 

「長門さん……でも……」

 

長門の言葉に赤城はなんとか苛立ちを収め落ち着きを取り戻そうするが……。

 

レ級「ねぇ赤城ー、何が気に入らないの?」

 

ヲ級「のー?」

 

タ級「ヲ級、いい加減にしないと怒られるわよ」

 

ル級「そ、そうだよ」

 

能天気なレ級とヲ級の言葉に再び機嫌を損ねて、ムスっとした顔のまま答えた。

 

「……っ、不戦の協定を結んでいるとはいえ所詮は公式なものではない口約束だし、それになによりつい最近まで敵同士だったあなた達といきなり仲良くできるわけないでしょ!?」

 

レ級「えー、でも僕赤城たちとは戦った事ないよ?」

 

ヲ級「ちょっと前までやってた競争はいつも大佐たち時間守ってたしね」

 

「直接的に敵対してなくても勢力的には未だに深海棲艦は海軍の、世界の敵でしょ!」

 

レ級「でも、僕たちの一派はもう暴れるのやめて大人しくしてるもん」

 

ル級「うん……おかげで楽……じゃなかった、のんびりできて嬉しい♪」

 

タ級「二人とも、赤城はそういう事言ってるんじゃないの……」

 

タ級は呆れ顔で新たに能天気組に加わったル級も含めて注意する。

 

「そうです!タ級さ……タ、タ……」

 

タ級「別に呼び捨てで構わないわよ?」

 

「う……た、タ級……サンが言ったとお……」ゴニョゴニョ

 

レ級「え? なに?」

 

ヲ級「聞こえなーい」

 

「う……う……」プルプル

 

「赤城、もういいだろう」ポン

 

「な、長門さぁん、でも……」グス

 

慣れ合いを受け入れきれる事が出来ず、言葉をなかなか紡ぐことができないでいた赤城に長門が苦笑しながら彼女の肩に手を置く。

 

レ級「ね、なんで赤城泣いてるのかな?」ヒソ

 

ヲ級「わ、分かんない。な、何かしたのかなわたし達……」ヒソ

 

タ級「取り敢えずあなた達はこっちで大人しくしてさい」グイッ

 

レ級「あっ、ちょ……むー、むぅー!」

 

ヲ級「ひゃわっ!? んー、んんぅ!?」

 

タ級「ル級、ちょっと頼んだわよ。あの事も伝えておいて」ズルズル

 

ル級「う、うん……」

 

そう言うとタ級は二人の口を両腕でそれぞれ塞いだまま、何処かへ連れて行った。

 

 

「それで、話というのは?」

 

「あ、はい。今日はちょっと……急に来て悪いとは思ってるんだけど……」チラ

 

「……もう気にしなくていいです。どうぞ続けて」

 

自分を気にする目に、レ級達とは違ってル級が気遣いができる性格だと判断した赤城は、軽く溜息をついて長門と同じく先を促した。

 

「は、はい。え、えっとね」

 

「ああ」

 

「私たちまだ海軍とは正式に不戦協定結べてないけど、あくまで私たちの間だけの認識にはなるけど、大佐とは一度ちゃんと皆の前で約束がしたくて……」

 

「ほう」

 

ル級の提案に興味深そうな顔をする長門、対して赤城は僅かに警戒する雰囲気だ。

 

「……それで?」

 

「え、えっとだから……わたしたちの上司……姫に会ってくれないかなぁって」

 

「姫……」

 

「えっ」

 

「……姫は一応大佐が承諾してくれたら会うつもりはあるみたいなの」

 

「待て、姫というと姫級の深海棲艦の事か?」

 

珍しく少し動揺して強張った顔で長門はル級に質問した。

 

「姫は……一応海軍の人たちからは鬼姫級に分けられてるって言ってた気がするけど……」

 

「鬼姫……!」

 

「え、それって……」

 

長門は今度は明らかに驚きの表情する。

赤城も信じられないといった顔だ。

 

「確認例が少なくて公式のデータには詳細は記録されていないが、未確認要注意事項に警告を促す形で存在をほのめかす程度だが載っている。鬼級や姫級を凌ぐ化け物だ」

 

「え、でもそれって大分昔に本部の中将が討伐したんじゃ……」

 

「一体じゃなかっただけだろう。まあそれから暫く海が穏やかになったのは、それだけ配下の連中に及ぼしていた影響力が大きかったという事だろうが」

 

「あ、あの、一応断っておきますけど、その姫と私たちの姫は別です。私たちの姫は生まれたのはそんなに昔じゃない筈だから……」

 

「ふむ」

 

「でも危険な存在には変わりないのよね。そんなのと大佐を安易に会わせるわけには……」

 

警戒と緊張を明確に表に出した赤城がここでル級の提案に異議を唱える。

そんな様子にル級は慌てた様子でこう言ってきた。

 

「あ、ちゃんと武装は解除します! それでも確かに人間よりかは強いけど……な、長門さ……んたち総出なら抑える事はできると……思います。多分だけど……」

 

「……でもねぇ」

 

「……確かに危険だ」

 

「っ、お願い姫を信じて! 姫はあなた達が危害さえ加える気がないなら彼女も何もしないから!」

 

「でも確約は? 保証はできないでしょう?」

 

「……」

 

「そ、それは……」

 

「保証する」

 

返答に困って俯くル級に背後から援護する声がした。

 

「む」

 

「タ級!」パァッ

 

「あなた……」

 

「保証する。その証拠として私は私の命をあなた達に預ける」

 

「えっ」

 

「……」

 

「ちょっとタ級!?」

 

予想外の提案に赤城と長門とル級は三者三様の反応を示す。

だが三人ともタ級のその提案が彼女の覚悟の程を示すものである事は

理解している様だった。

 

「これぐらいはしないと信じてもらえないでしょう?」

 

「でも、でもそんな事レ級は……!」

 

「勿論、内緒。いい?」

 

「あ……う…………ん」コク

 

ル級は諭すような懇願するような、そんな目でタ級に見つめられ、やがて困った顔をしながらも小さく頷いた。

それを確認したタ級は満足そうに微笑んで、今度は赤城達の意思を確認する為に再び彼女たちの方を向く。

 

「どうかしら?」

 

「どうかしらって言われても、いきなり過ぎて……」

 

「……もし仮にお前たちが約束を破ってその代償として私たちがタ級を葬ることがあれば、姫はともかくレ級や他の仲間たちが黙っていないだろうな?」

 

長門が無表情で半ば確信のこもった声でタ級に訊く。

 

「……その時はル級が全力で止めるわ」

 

「ええ!? わ、私!?」

 

「何驚いているのよ? 私達四人の中でレ級の次に強いのはあなたじゃない」

 

「で、でもぉ……」

 

「大丈夫、私を、長門たちを信じなさい」

 

「えっ」

 

「ほほう?」

 

タ級の言葉に赤城は目を丸くして驚き、長門は面白そうににやりと笑った。

タ級は背後のそんな彼女達の顔を知ってか知らずか、タ級自身もまた微笑みながらル級を安心させるように言った。

 

「ね?」ニッ

 

「……信じていいの?」ジッ

 

ル級の心配そうな視線に赤城はしどろもどろする。

 

「え? あ……え? ああ、いや……えぇ……」

 

「ははは、赤城もういいじゃないか。信じよう」

 

そんな赤城達の様子が可笑しくてついに堪え切れなくなって声高く笑いだした長門が赤城に言った。

 

「長門さん……」

 

「ここまで言ってきたんだ、私たちとて相応の態度で示すべきだろう」

 

「……はぁ、分かりました」

 

「ホント!?」パァッ

 

赤城の言葉にル級は心から嬉しそうな顔をする。

 

「ありがとう。信じて……いいの、ね?」

 

タ級もル級ほどではないが、どこか安心した声で改めて念を押すように赤城に聞いた。

 

「大佐には私から伝えます。恐らくあの人の事だから了承するとは思うけど……返事はまたあなた達が来た時にでも。もし了承なら、その時に改めて日取りをこちらから伝えるわ。それでいいですか? 長門さん」

 

「ああ、異論ない」

 

「だそうです。そちらは?」

 

「文句なしよ。ね? ル級」

 

「う、うん!」

 

「じゃぁそろそろ……」

 

お開きにしたかったのだろう。

赤城が解散の合図を取ろうとした時、最後にタ級から衝撃の事実が告げられた。

 

「そうね、レ級達そろそろ連れてこないと食堂の食材がなくなるかも」

 

「え?」 「は?」

 

この言葉には赤城だけでなく長門も目を丸くした。

 

「タ級、レ級とヲ級何処に連れて行ったの?」

 

「食堂よ。元々ご飯を頂くつもりだったんでしょ? 連れて行ってる途中で自分から目をキラキラさせて食堂に走って行ったわ」

 

「おい、あか……早いな」

 

長門が赤城に警告しようとした時には既に彼女がいた場所には姿がなかった。

 

「……っ!!」ダッ

 

(鳳翔さんにお情けでご飯だでも追加で貰っていたのに、あの二人の所為でそれがなくなるかもしれないなんて、私は絶対に……防ぐ!!)

 

 

「……騒がしくてすまんな」

 

「いえ、何処にも似たようない人がいるのね」

 

「いや、赤城とレ級は大分違うと思うぞ? まぁそれでも今あいつが必死なのは間違いないが」

 

「そ、そうなんだ……」

 

赤城が残していった気迫を感じたのだろう、ル級は少し怯えていた。

 

「なぁ」

 

「うん?」

 

「飯、食って行くんだろう?」

 

「ふっ……そう、ね。せっかくだし私も頂いて行こうかしら」

 

「う、うん! お腹空いた!」

 

「はは、じゃぁ行こうか」

 

長門は、まるで気心のしれた友人をもてなすようにタ級とル級を笑顔で食堂へと促した。




姫や鬼以上の敵って出るんですかね。
単純な思考で『鬼姫』なんてオリジナルを作ったりしましたが。

あとまだ筆者は未だにレ級とはあいまみえた事がないです。
出現するマップは俺提督のレベル的にアレ過ぎるので絶賛尻込み継続中です。
彼女の強さは解説だけで十分すぎる程伝わるので……できれば戦いたくないなぁ。

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