提督の憂鬱   作:sognathus

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大和が悩まし気な溜息を吐いて砂浜に座っていました。
大和型は燃費の関係で演習以外ではあまり出番がないので実務がないと結構暇を持て余しています。
武蔵も当然同じ境遇であり、そんな大和を見掛けて雑談に興じる事にしたようです。


第42話 「悩み事」

「……はぁ」

 

「どうした大和、浮かない顔だな」

 

「武蔵……」

 

体操座りをして俯いていた大和が顔を上げた。

 

「何かあったのか?」

 

「うん、まぁ……」

 

「どうした?」

 

「……私って」

 

「うん」

 

「私の練度なんだけど……」

 

「ああ」

 

「他の戦艦の人たちがレベル75以上なのに、どうして私だけ60で止まってるのかなぁって」

 

「ん? そうなのか?」

 

「ええ、改造を受けてからずっとこのままなの」

 

「へぇ……」

 

「私、一応大和だから、自惚れのつもりはないけど戦力にはなるでしょう?」

 

「そうだな」

 

「なのに、なんで60から育てて頂けないのかなぁって……」

 

「ふむ……」

 

大和がこの鎮守府に来てまだ間もない事は事実であった。

しかし、大和型はその火力が示す通り艦隊の切り札とも言える貴重な戦力、その彼女が自分のレベルが高くないことを気にしているのはある意味当然のことと言えた。

 

「燃費の事は理解しているつもりよ? だから活躍の場は演習だけだったとしても不満はないの。でもそれもない……」

 

「大佐の事だからお前が懇願すれば育ててくれるとは思うが……」

 

「何か意図があってそうしているのなら私からそんな事をするのはちょっと気が引けるかな……」

 

「……ふむ」

 

「なんでだと思う?」

 

ちょっと泣きそうな顔で大和は武蔵に聞く。

そこまで思い詰めていたのか、顔には出さなかったが武蔵は大和の意外なナイーブさに内心驚いていた。

 

「そうだな、単純に」

 

「うん」

 

「取り敢えずお前を最低でも改造の域には達しておきたかっただけなんじゃないか?」

 

「最低でも……まぁそう考えるとちょっとは気が楽になるけど……」

 

武蔵の言葉に大和は少し考えるような顔をする。

 

「私が推測するに、大佐の今の育成優先度は駆逐艦の全体的な練度の底上げと、次いで成長限界に近い艦娘、つまり戦艦の育成だと思う」

 

「なる……ほど。それなら確かに駆逐艦は別としても私以外の戦艦の人たちが演習に加わっているのは説明が付くわね」

 

「空母とかも軽空母じゃなくて正規空母を優先しているのは、今はこれ以上改造できる艦がいないからであって、結局は練度の差と戦術的な意味合いも含めて演習に参加させているだけだろう」

 

「……」

 

「ま、あくまでこれは私の推測だがな。個人的にはこんなところだと思っている。納得できたか?」

 

「……うん。武蔵の説明を聞いて改めて自分で考えてみるとそれが自然というか、納得できるわね」

 

大和は今度は明らかに前と比べて表情が柔らかくなっていた。

どうやら武蔵の説明にかなり納得がいったようだった。

 

「ん、そうか。まぁ理解してもらえたのならなによりだ」

 

「武蔵、大佐の事よく見ているのね」

 

「はは、一応お前よりかは先にこっちにいるからな。それに……」

 

「それに?」

 

「愛しているからだ」

 

「愛……」カァ

 

迷いのない武蔵のハッキリとした言葉に大和は顔を赤くする。

 

「まぁ艦娘だから提督に惚れ易いようにできているのかもしれないがな。でも私はこの気持ちは偽りでないと信じている」

 

「そう……」

 

「……お前は本部の大和とは随分違うな」

 

「え?」

 

「ああ、いや。海軍の本部の方にも大和がいるんだが、そいつとお前とは随分違うんだなぁってな」

 

「それは……当然じゃない。見た目は同じでも育つ環境によっては性格だって多少は変わるわよ。ましてや本部となればそれなりにしっかりして当然よ」

 

「ん? 私はまだ本部の大和の性格までは説明していないぞ?」

 

「でもしっかりしてるんでしょ?」

 

「まぁ……な」

 

「やっぱり」

 

「その、すまん」

 

「え? あっ……別に謝らなくていいわよ。大丈夫、私だって大和だもん」

 

「そうか……」

 

「うん……」

 

「あ」

 

「なに?」

 

「そういえばお前、この前大佐にケーキを作ったらしいな?」

 

「あ……ま、まぁね」

 

何か嫌な事を思い出したのか、大和は一瞬顔をひきつらせたかと思うと目を逸らしながら答えた。

 

「喜んでくれたか?」

 

「え……えぇ、いろいろあったけど結果的には丸く収まったわ」

 

「は? 丸く?」

 

「う……ちょっと事故があって作り直したのよ」

 

「へぇ」

 

「結果的には最初より更に上手くできたし、大佐もちゃんと食べてくれたから万事問題なしよ」

 

「そうか」

 

「うん」

 

「……」

 

「……」

 

「さて、戻るか」

 

「そうね、お腹も空いたし武蔵のお蔭で悩み事も晴れたし」

 

「それは良かった」

 

「うん、ありがとうね」

 

「いいさ、気にするな。あ、そういえば今日は大佐が飯を作ってくれるらしいぞ」

 

「え?」

 

武蔵の言葉に大和は目を丸くする。

 

「食堂に行ってみろ。大佐が厨房に立っているはずだ」

 

「な、なんで大佐が……」

 

「料理が好きなんだそうだ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「これは大佐の好みの味とか知る好機だと思うぞ?」

 

「……! なるほど!」

 

「次はケーキ以外も作ってみるがいいさ」

 

「そう、ね。……ん?」

 

「どうした?」

 

「武蔵は何か作ったりはしないの?」

 

「え? いやぁ、はははは。私は食べる専門だからな」

 

「そ、そう」(料理作れないのかしら……?)

 

「まぁいいじゃないか。行こう」

 

「そうね」クス




本文にも書いてある通り、大和はレベル60で止まったままです。
まぁそれでも十分に強い事には変わりはありませんが。

風邪で頭が回らない所為か特にオチもない話ですね。
うーん……。

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