提督の憂鬱   作:sognathus

287 / 404
第二次AL・MI作戦。
海軍が行ったこの大規模な作戦は、提督たちの獅子奮迅の活躍もあってなんとか無事成功に終わった。

だが、作戦後もこれらの海域は未だに完全に安全になったとは言えず、定期的に出撃して残存、ないし増援勢力を発見して駆逐しなければ他の海域と比べても危険なままだった。


第40話 「実力」

「第一艦隊帰投しました」

 

「制圧、ならずか」

 

主力艦隊の出撃からの帰還を加賀から聞いた提督は、事前に受けていた結果報告に目を通しながら淡々とした声で言った。

 

「はい。後一歩のというところですが、まだ決定打には及んでいないようです」

 

「ふむ、できればあそにはあまり出撃させたくないんだが、こうやって定期的に叩かないと危ないしな。飛龍達は大丈夫か? 再出撃は可能か?」

 

どうやら作戦実行中の海域はなかなか難度が高いようで、出撃も複数回及んでいる所為か提督は艦隊の娘たちの状態が気になるようだった。

 

「……飛龍以外は高速修復によって出撃可能です」

 

「む、疲労か?」

 

提督は加賀の言葉に、唯一入渠を必要としない被害を受けつつも彼女が出撃可能メンバーから外された理由を即座に察知した。

 

「はい。被弾こそしていませんでしたが、精神的にはそろそろ限界がきていたみたいです」

 

「そうか……」

 

 

バン!

 

「第一艦隊帰投したぞ! 大佐、もう一度! もう一度じゃ! 今度こそ決めてくる!」

 

余程悔しいのか、ノックも無しに利根がイライラした様子で勢いよく作戦司令室に入ってきた。

提督も普段なら嗜めるところだったが、彼女たちの苦労を思うと敢えてそこは注意せずに彼女の帰還を目認するだけに留めた。

 

「ね、姉さん落ち着いて」

 

「利根、焦ってはダメよ」

 

筑摩と妙高が二人して気が立っている利根を宥める。

 

「疲れたぁ……でもまだいけるよ? ね、飛龍?」

 

「ふぁ……え? も、勿論!」

 

「……」(飛龍?)

 

蒼龍と雲龍は疲れている様子でこそあったものの、それでもリベンジする気は満々ようでその目からは闘志の燃える炎が滾っていた。

だが、そんな彼女達に対して飛龍だけは、大佐の懸念通り疲労が溜っていると見え、蒼龍の問いにも一歩遅れた反応を見せた。

 

「皆、度重なる出撃にも拘らず意気軒昂で結構だ。それでは準備が整い次第再度出撃、と言いたいところだが……飛龍」

 

「は、はい?」

 

唐突に自分の名前だけ呼ばれた飛龍は何か嫌な予感を感じた。

 

「お前は此処に残って休憩しろ」

 

予感は的中した。

そして当然の如く飛龍は自身の万全を訴える。

 

「っ! 大佐! わたしまだやれます!」

 

「やる気があるのは分かる。体力もまだ大丈夫そうだしな」

 

「なら……!」

 

「だが、心の方はそうもいかんだろう。お前、個人の戦果データが段々落ちてきているぞ」

 

「そ、それは!」

 

提督の私的に飛龍は動揺した顔をした。

それでも無理に虚勢を張らずに言い募るだけにしようとしたのは、彼女自身もその事を自覚していた証拠と言えた。

 

「別に責めてはいない。それだけお前の精神的疲労が限界に近くなっていただけだ」

 

「う……で……くぅっ……!」ポロポロ

 

ついに効果的な言い訳が思いつかなかった飛龍は悔し泣きをする。

そんな彼女の頭に手を乗せて、提督はなるべく温かく聞こえるように優しい声で言った。

 

「飛龍よく頑張ったな、大丈夫だ。お前の働きのお蔭でここまで来れたんじゃないか。後は任せろ」ポン

 

「……」

 

「いいな?」

 

「……了解です。皆ごめんなさい!後は……」

 

提督の指示を素直に受け入れた飛龍はまだその目に涙を浮かべつつも、努めて明るい顔をして蒼龍達の方を振り返るとすまなそうに言った。

そんな彼女に仲間たちも頼もしい顔で応える。

 

「任せるがよい!」

 

「飛龍さん、お疲れ様です。後は姉さんと私達で何とかしてみせます」

 

「筑摩の言う通りです。あなたは安心してゆっくり休んでくださいね」

 

「うん、絶対大丈夫だから」

 

「皆……」

 

飛龍はその言葉に感動して再び涙を流しそうになったが、雲龍の続いて出た言葉にそれは止められた。

 

「で、飛龍が抜けた穴は誰が塞ぐのかしら?

 

 

当然の疑問である。

そしてその疑問に答える為に、提督は傍らに先程から佇んでいたある女性に声を掛けた。

 

「……加賀」

 

「!!」

 

名前を呼ばれた女性にその場にいた全員の視線が集中した。

 

「はい」

 

「頼めるか?」

 

「……二ケ月ぶりの出撃ですか、了解です」

 

提督の鎮守府では、ケッコンまでに到達した艦娘は他の仲間の成長を促すために一時的に遠征以外の表に出る任務から身を引く決まりとなっていた。

それは一見怠惰にも思えるが、そこまでに到達すること自体が艦娘にとって一種の栄誉とも言えた。

勿論そのままだらしなく過ごしているわけではなく、その分基地の内務に身を置き、対象となった艦娘はしっかり仕事はしていた。

 

「赤城にも入ってもらうか?」

 

「いえ、ここまでやってくれていたら十分です、交代は私だけで。飛龍達はよくやってくれました」

 

「加賀……」

 

てっきりいつもの無愛想な顔で憎まれ口を叩かれると予想していた飛龍は、加賀の意外な思いやりのこもったそんな言葉に感動した顔をする。

 

「飛龍、お疲れ様です。あなたの成果は成ります。安心して」

 

「……うん。お願い」

 

ここは自分も素直に礼を言わなければ、飛龍がそう判断して続いて加賀に礼を述べようとした時だった。

 

「あら、随分しおらしくて聞き分けが良いのね。ま、二航戦だからそんなものかしら」

 

なんともひどいタイミングでいつもの加賀がそこにいた。

 

「なぁ!?」

 

「ちょっ、なんですって!?」

 

思いがけないカチンと来る言葉に真っ先に飛龍だけでなく、蒼龍も反応する。

 

「元気じゃない」

 

加賀はポツリと言った。

加賀に抗議をしようとした矢先に更に予想外な事を言われ飛龍と蒼龍は目を点にする。

 

「……え?」

 

「は……?」

 

「……出撃します」クス

 

「ああ、行って――」

 

提督は加賀のそんな悪戯めいた励ましにの行動を内心微笑ましく思いながら出撃の許可を出そうとした。

しかし、

 

「大佐」

 

不意に加賀は大佐の方を振り返ってを呼んだ。

 

「もしかしてこの出撃って前の時の罪h」

 

「いや違う、公私混同はしない。必要だと判断したからお前を頼んだだけだ」

 

加賀が言おうとしたことを察した提督は彼女がそれを皆の前で言い切る前に、誤解を解いた。

 

「……なら、いいんですけど。では、行って参ります。第一艦隊出撃」

 

「んん? 加賀? 大佐? あ、ちょ……引っ張るでない!」

 

「で、では大佐行ってきますね!」

 

「朗報をご期待ください」(大佐と加賀さん、何かあったわね)

 

「え、何よちょっとー!? 気になるじゃなーい! あ、大佐行ってきまーす!」

 

「……むぅ。了解」(なんか面白くない)

 

 

 

――そして出撃から間もない頃。

 

○AL海域北方、第一目標地点付近。

 

「何この空気……。一人変わっただけで緊張感が……」

 

蒼龍が強張った顔でぽつりとお漏らす。

飛龍に代わり加賀が新たに入ったその艦隊の仲間達は、場を支配する空気に言いようのない緊張感を感じていた。

 

「飛龍さんと蒼龍さんの賑やかな空気も好きなんですけどね。でもこれはこれで身が引き締まりますね」

 

「うむ、そこは流石は加賀と言ったところじゃな」

 

「姉さんは基本誰と一緒でも変わらないですよね……あはは」

 

「……」

 

「雲龍、どうかしたの?」

 

一人だけ先程から無言だった雲龍に加賀は声を掛ける。

 

「……別に」ブス

 

「気になる事があるなら今言った方がいいわ。作戦行動中に気が散ったら困るもの」

 

明らかに機嫌が悪そうな雲龍に、加賀は部隊の士気を保つために彼女に不満を吐露させようとした。

 

「別に大丈夫。へい……あれ? 加賀?」

 

尚も雲龍が理由を話すのを拒否しようとした時だった、彼女は加賀のある点に気付き不思議疎な顔をして逆に訪ねてきた。

 

「何かしら?」

 

「それ、あなたが装備してるの。いつも装備してる烈風改じゃないのね」

 

「……」

 

加賀の肩がピクリと動く。

 

戦闘機烈風改は今のところ提督の基地には一つしかない最強の戦闘機で、装備するのは大体空母の中で一番の実力のある加賀であった。

このような理由もあって烈風改は半ば加賀の専用の装備となっており、その事については加賀自身は勿論、他の仲間たちも暗黙の内に認めるところとなっていた。

専用装備、本人は態度には出してないつもりだったが、加賀はこの戦闘機をとても大切にしており、その整備自体も自ら整備妖精に整備の仕方を習う事によって常に自分で行っていた。

 

故にその装備を加賀が持っていない事は不可解であり、雲龍の疑問も当然と言えた。

 

「ちょっと……ね」

 

表情こそいつもの通りだったが、加賀は雲龍の質問に答えたくないのか視線を僅かに泳がせる。

 

「あ、本当だ、珍しい。あんなに大切にしてた戦闘機なのに持ってないなんて……もしかしてさっき提督と話してた事とかんけ……もが!?」

 

雲龍の指摘に気付いた蒼龍が興味がありそうな顔で更に加賀を問い詰めようとするも、その口は唐突に妙高によって背後から塞がれた。

 

「蒼龍さん、ダメ。これ以上は」

 

「もがが?」(妙高?)

 

「私も妙高さんに同意です。蒼龍さんここは大人しくしてま……」

 

「む、何やら気になるぞ! 加賀よ! 一体なにが……もがぁ!?」

 

筑摩の想像以上にやはり筑摩だった彼女が蒼龍に続いて加賀を追及しようとしが、意外にもその口は事の発端である雲龍にふさがれた。

 

「雲龍さん……」パァ

 

「……任せて」

 

雲龍は気付いていた。

皆から質問をされそうになっている間、加賀が俯き僅かに肩を震わせていたことに。

これは触れない方がいい。

雲龍は即座にそう判断したのであった。

 

「……取り敢えず行くわよ。皆着いて来て」

 

肩を震わせていた加賀はいつの間にか元に戻っており、いつもの落ち着いた声で進軍を促す。

だが心なしか彼女の目つきはついさき程の時と比べて険しくなっており、何を思い出したのかその身からは怒りとも恨みともつかぬ黒いオーラが湧き出していた。

そしてその感情の矛先は理不尽にもこれから敵である深海棲艦たちに向けられようしていたのであった。




3-5、1時間くらいかけて利根姉妹・妙高・二航戦コンビ・雲龍で攻略していたのですが、どうにも最後が上手くいかず、そんな時に飛龍が一人だけ無傷だったけど疲労状態だったので久しぶりに加賀を動かしてみたらあら不思議。
北方棲姫を小破未満の被害で夜戦で仕留めた上に、その勢いのままボスを全員被弾無しでクリアまで導いてくれました、一回で……。
最強の空母は伊達ではないですね。

あ、烈風改の話については既出ではありません。
これから出す予定ですw

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。