提督の憂鬱   作:sognathus

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朧と大潮が基地の中庭でキャッチボールをしていました。
それを偶然見かけた青葉は早速実況体制を整え……。


第39話 「差し入れ」

「朧さーん、いきますよー!」

 

「大潮! あんまり強く投げちゃだめだからねー!!」

 

「分かってまーす! せー……の、よっ!」

 

「あ……」

 

「大潮選手振りかぶって投げました。これは……凄い!手加減して投げたつもりなのでしょうが、大潮選手の投げたボールは朧ちゃんを遥かに越えて基地の二階に……あ、あそこの窓って……」

 

「青葉、あんた何してんの?」

 

「あ、衣笠。てへへ、暇だったのでつい実況を。というかあのボールが飛んでいった方って……」

 

「え?」

 

 

大潮がボールを投げる数分前の執務室。

 

「大佐、これ作ってみたんですけど……」

 

昼間、大和と長門が提督に差し入れがあると彼を訪ねてきた。

部屋に入るなり大和はちょっと恥ずかしそうにしながらも、提督にあるお菓子を彼の前に出した。

 

「ケーキ……。大和、お前が?」

 

「私も一緒に作ったんだがな」

 

自分を忘れてもらっては困ると言いたげな目で長門が口を挟む。

 

「長門と一緒に作ったのか?」

 

「なんでそんな意外そうな顔で見る?」

 

「ああいや……悪い」

 

「まぁ分からなくもないけどな。でもな、私はこれでも意外に器用なんだぞ?」

 

「そうですよ大佐。これ、確かに一緒に作りましたけど、作り方は殆ど長門が……」

 

ガシャーン!

 

窓ガラスを割って突如何かが部屋に侵入してきた。

長門は一瞬で警戒態勢に移るも間に合わず、彼女の反応を嘲笑うかのように侵入物はその横を通り過ぎてそして……。

 

グシャッ

 

ケーキがボールの直撃を受けて四散した。

 

「 」

 

「あ、ケーキ……」

 

「……ボール」

 

目の前で起きた事が信じられず言葉を失って硬直する大和。

ボールによって粉々になったケーキを唖然とした顔で見る長門。

ケーキを壊した後に力を失って足もとに転がって来たボールを見て全てを理解し、渋い顔をする提督。

三人とも反応はそれぞれだったが、全員共通してその場に不運な事故が起こったことは無意識に自覚をしていた。

 

 

「ごめんなさい」「申し訳ございません」

 

時は昼過ぎ、提督の目の前にはボールが割った窓がある場所を特定して青い顔をして訪ねてきた大潮と朧が深く彼に頭を下げていた。

 

「まぁ悪気はないのは分かるからあまり責めるつもりはないが。だが……な」チラ

 

提督がふと視線を向けた先には、ケーキを破壊されたショックで部屋の隅でしゃがみ込んで落ち込んでいる大和と、

 

「すん……」

 

それを励ます長門の姿があった

 

「まぁそう落ち込むなよ。また教えてやるから」

 

 

「まず謝るのならあいつらにだろう」

 

「は、はい!」

 

「そ、その通りです!」

 

「大和さんごめんなさい!」

 

「わたしが加減しなかったばっかりにごめんなさい!」

 

「ぐす……い、いいの……二人とも気にしないで。私もそんなに……うっ……」

 

(も、もの凄く気にしてる……)

 

(わ、わたしは何という事を……)

 

(大和ってこんなに打たれ弱かったか?)

 

(少なくとも私の認識では違うな)

 

(勝手に人の心に入って来るな)

 

(ふふん♪)

 

提督と長門はともかく、当事者の二人は予想以上の大和の悲観に暮れている様子にタジタジするしかなかった。

ちょうどそんな時に長門が提督を肘で小突いてきた。

 

「大佐、出番だぞ」ヒソ

 

「慰めろと?」ヒソ

 

「当事者が謝って立ち直らなかったんだ。それしかないだろう?」ヒソ

 

「……むぅ」

 

長門の押しに提督は負け、取り敢えず声を掛ける。

 

「大和」

 

「……ぐす、はぁい……」

 

「まぁそのなんだ。俺はどちらかというと洋菓子より和菓子の方が好きだからそう落ち込まなくてもいいぞ」

 

「……っ!」

 

大和は提督の言葉にその日一番に目を大きく開いて更に涙を溢れさせた。

 

「そこでそう言うか……」

 

対して長門はかなり呆れた顔をして溜息を吐く。

 

(や、大和さんが……!)

 

(た、大佐何をしたの!?)

 

(なん……だと……)

 

「た、大佐ごめんなさい……。わ、私……大佐が和菓子が好きなのにケーキなんか……」

 

(ああ、そういう事か)

 

提督はようやくそこで自分の発言の不味さを理解した。

 

「いや、大和さっきのはそういう意味ではない。お前を励まそうとして返って傷つけてしまった俺の無神経さに非がある」

 

「そんな……」

 

「俺は別にケーキが嫌いなわけじゃない。ただ、比べるとというだけの話だ。今回はこんなことになって残念だが、またお前が作ってきてくれるのなら喜んで食べさせてもらうぞ」

 

「大佐、それは私達が大佐に食べさせ――」

 

「お前は黙ってろ」

 

「ふっ……」

 

「え、なんでそこで笑うの? 大潮?」ヒソ

 

「ごめんなさい。わたしも分からないです……」ヒソ

 

ギュッ

 

「ん?」

 

「大佐」

 

「うん?」

 

「それ、本当ですか?」

 

提督は何だか凄く嫌な予感がした。

 

「大和、本当とは?」

 

「私が大佐に食べさせても……?」ジッ

 

(そんな期待する目で見る……長門、さっきの笑いはそういう事か)

 

「大佐……?」ジッ

 

「……まぁそれでお前の気が済むのなら……」

 

「!! ありがとうございます! 私今度は今日よりもっと頑張りますね!」

 

「あ、ああ……」

 

「え? え? どういう事?」

 

「ふ、ふぇ~ん長門さぁん」

 

混乱する朧と訳が分からず理由が気になって半泣きになる大潮に、長門は半ば呆然としている提督を面白そうに眺めながら優しい声で答えた。

 

「まぁ大人になれば分かるさ」




なんか青葉の出番の少なさというか、扱いに本人から文句がきそうですね。
や、でも青葉が嫌いなわけではなりませんが(寧ろ好き)

大和、強いんですけど燃費半端ないですねぇ(遠い目)
まぁ弾薬しか痛くないんでが、それでもそのおかげで演習にすら気を配らないといけない始末にw

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