提督の憂鬱   作:sognathus

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堤防に龍田が座っていました。
釣竿を抱えた提督は当然発見する事になったので声を掛けます。


第38話 「ネコ女」

「龍田、か」

 

「あらぁ大佐。釣りですかぁ?」

 

「まぁな」

 

「そ」

 

龍田は海を見つめながら髪が潮風になびくのに任せて、提督の方を見ずに気怠げに返事をした。

 

 

「……ねぇ」

 

「ん?」

 

「何処行くの?」

 

龍田は先程言葉を交わしたばかりの提督が自分を通り過ぎて何処かへ行こうとしているのを呼び止めた。

 

「いや、邪魔したら悪いと思ったから別の場所をな」

 

「……座って」

 

「え?」

 

「座って、いいから」

 

「いいのか?」

 

「邪魔じゃないし」

 

龍田は提督の判断が気にくわなかったのか、若干拗ねたような据わった目をして提督にそこで釣りをするように促した。

 

「……そうか」ドカ

 

 

「乙女心に相変わらず妙に鈍感よねぇ大佐って」

 

「耳に痛い言葉だな、自覚しているだけに」

 

「なんで私がここにいたか分からなかったの?」

 

「……俺を待っていたのか?」

 

「正解」

 

「俺がいつ釣りに来るのかわからないのにか?」

 

「そればっかりは勘、かな」

 

「今日みたいに天気が曇りで雨が降りそうなのに?」

 

「ここ暑いから、少しでも涼しい方が良くない?」

 

「ふむ……」

 

「はい」

 

龍田はおもむろにポケットからライターを取り出して火を着け、提督の前にそれを差し出した。

 

「お」

 

「待ってたのよ?」シュボッ

 

「……すまん」ジジ……

 

提督も龍田の厚意を受け入れて胸ポケットから煙草を一本取り出して咥えると、その火をもらった。

 

「ふぅ……」

 

「ふふ、美味しい?」

 

「ん、まぁ」

 

「私も吸おうかなぁ」

 

「止めはしないが、うちで吸ってる奴見た事ないからな。お前が吸ったら第一号になるかと思うと少し勿体ない気がするな」

 

「あはは、なにそれ~?」

 

「なんだろうな。ふー……」

 

「ね、大佐」

 

「うん?」

 

「私も早くレベル99になりたいなぁ」

 

不意の申し出だった。

相変わらず気ままなで予想できない龍田の言葉に提督は内心意外に思いながらも申し訳なさそうな顔をしてこう言った。

 

「今は駆逐艦を中心に育てているからな」

 

「全員平均65だっけ? 時間かかりそうねぇ」

 

「まぁ、それでも既に何人かはクリアしている。精度が求められる遠征にいつでも行けるようにしたいんだ」

 

「ぶぅ……」

 

本気で気を悪くしたわけではないのは明らかだったが、それでも龍田はわざとそんな不満そうな声をあげて提督の気を揉もうとした。

 

「まぁ駆逐艦が済んだら次はお前たちのつもりだ。それまではお前は……60だったか? それで我慢しててくれ」

 

「大淀や夕張は育ててる癖に」

 

「それでもまだお前には及んでないだろう?」

 

「私じゃないのが気になるの」

 

「ん? はは、珍しく我儘だな。まぁ、あいつらは軽巡の中で装備できる艦装の数が唯一他の奴らより多い二人だからな。少し鍛えていざという時に神通達に代われる戦力にしておきたいんだ」

 

「装備が適わなくたって私だってそれなりにやるのよ?」

 

龍田は今度は本当に少し不満そうな顔と声だった。

自分が戦力外の様に聞こえたのだろう。

 

「分かってる」

 

「分かってないわよ」ブス

 

「解ってる、さ」ポン

 

「あ……」

 

「……すまないとは思ってる」ナデナデ

 

「うん……」

 

龍田は提督に頭を撫でられながら嬉しそうに目を伏せてその心地を楽しんだ。

 

「機嫌を直してくれたか?」

 

「まーだ。今度は寄りかからせて」

 

「俺は竿を握ってるんだが」

 

「じゃぁ大佐の竿を私が……」

 

「帰るぞ」

 

「嘘、嘘よ」

 

「全く……」

 

「じゃあ膝で寝かせて」

 

「……」ジュッ

 

(あ、煙草……)

 

提督は携帯用の灰皿を取り出すと何食わぬ顔でまだ大分残っていた煙草をその中に入れた。

 

「灰が落ちるから?」

 

「お前の希望を受け入れた証だ。ほら」スッ

 

「やん♪」

 

 

「大佐ぁ」

 

「ん?」

 

「曇ってるわねぇ……」

 

「そうだな……」

 

空は未だに曇天。

普段燦燦と降り注いている日差しも今はなく、代わりに厚い雲のカーテンの向こうから少しだけ温い鈍い光を送っていた。

 

「でも涼しいわよねぇ……」

 

「そうだな……」

 

「……風、少し強くなってきてない?」

 

「うん? そうか?」

 

「うん。ほら風でスカートが」ピラッ

 

「抑えてろよ」

 

提督は風で黒い下着が丸見えとなった龍田の方をなるべく見ないように意識しながら渋い顔をしてそう言った。

 

「いいじゃない二人きりなんだから。それにいちいち抑えてたら寝難いし」

 

「目のやり場に困る」

 

「え? 見てくれるの?」

 

「おい、痴女」

 

「違うわよ。それだけ親しい仲ってだけでしょ?」

 

「慎みを持って欲しいんだが……」

 

「だ・か・ら、お互いこれくらいは気にならない仲なら問題ないじゃない」

 

「下半身が冷えると風邪をひくかも」

 

「ひいたら大佐に看病してもらうから大丈夫」

 

「俺が看病するのは確定なのか」

 

「風が吹きすさぶ中女性を下着丸出しで放置した結果と思えば……」

 

「酷いな」

 

あまり表情を変えない提督にしては珍しく、彼はジトっとした目で龍田を見つめながらそう言った。

 

「大佐が?」

 

「いや、お前だ」

 

「ふふ、何のことかしらぁ?」

 

「……もういい。好きにしろ」

 

「……うん♪」ゴロン

 

(多摩とは別の意味で猫らしいな)




龍田いいですよね。
初期からいる軽巡ですが、最初からキャラが立っていたので否が応にもほとんどの提督は印象に残っているのではないでしょうか?

彼女が改二になったらどうなるんでしょうね。
今の状態でも十分に満足しているだけに、その事を考えると余計に気になります。

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