提督の憂鬱   作:sognathus

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その日、本部からある指令が提督に来た。
提督はその指令書を確認すると、僅かに渋い顔をして溜め息を吐いた。


第35話 「不機嫌」

「西村艦隊の再現、か……」

 

「はい」

 

提督の言葉に扶桑は淡々とした態度で肯定した。

 

「あまりこういうのは好きじゃないんだがな……」

 

「閣下は喜ばれないと?」

 

「そうではないが、軍人として戦死されたんだ。偲ぶだけなら黙祷や墓前に赴くとか他にやりようがあると思うんだがな」

 

「大佐……」

 

「ん、悪い。俺一人がこんな事を言っても始まらないよな」

 

提督は居住まいを正すと艦隊の編成に必要な艦娘に召集をかけた。

 

 

「皆集まったな。ではこれより、西村閣下の艦隊をここに再現し、これによってかの英霊の鎮魂を祈るものとする」

 

(えっ)

 

集まった仲間達を見て扶桑はハッとして提督を見た。

 

「お姉様……」コショ

 

「山城、あなたも気付いた?」ヒソ

 

「はい。大佐、凄いミスをされてますよね……」コショ

 

(うーん……、これは僕もフォローできないなぁ)

 

扶桑と山城の会話を肩越しに聞いた時雨は困った顔で提督を見ていた。

 

(時雨や扶桑さん達も気付いてるみたいね。大佐……これは、ダメよ……)

 

一緒に並んでいた満潮も何かに気付いている様子だった。

隣にいた時雨と目が合うと、互いに気付いている事が同じだという事を言葉を交わさずに確認した。

 

「姉さん?」ヒソ

 

「んー? ふふ」

 

一人周りの状況が理解できていなかった筑摩が密かに姉に聞いた。

声を掛けられた利根は皆と同じようにある事に気付いているらしく、その顔は他のメンバーと違って悪戯をする子供のように面白そうに笑っていた。

 

「皆何を困った顔をしているの?」ヒソ

 

「んー? それはな。ほれ、あそこを見てみろ」コショ

 

「……?」

 

尚も面白そうに笑う利根を不審に思いながらも、筑摩は彼女がが指差す方向を見た。

そこには――

 

(最上?)

 

筑摩の視線の先には執務室の扉の隙間からこそっと様子を覗く最上の姿があった。

 

(最上、どうしたのかしら? なんだか凄く拗ねてる顔をしている……?)

 

「気付いたか? 筑摩」ヒソ

 

「ええ、あそこに最上がいるのは……」コショ

 

最上の存在に気付きはしたものの、それでもまだ筑摩は事の真相は理解していない様子だった。

 

「ああ、そうか。筑摩は追加要員として後から呼ばれたから聞いておらんかったのか」ヒソ

 

「姉さん?」コショ

 

「実はな、今回のこの艦隊の編成は……」コショコショ

 

「!!」

 

利根の話を聞いて筑摩の顔は青くなった。

 

「ね、姉さんそれ……!」ヒソ

 

「の? 大佐の奴いつ気付くかの。くふふ……」

 

「姉さん……」

 

筑摩はまだ愉快そうに笑う姉の顔を呆れた顔で見つめた。

 

 

「――話は以上だ。それではしゅ……」

 

「た、大佐!」

 

突然何かいたたまれなくなった様子で困った顔をした扶桑が提督に発言をしてきた。

 

「どうした扶桑急に」

 

「ちょ、ちょっとお話が」

 

「帰還してからじゃダメか? 今日はあまり予定に余裕もな……」

 

バンッ

 

「いいえ……。今直ぐにです。直ぐに、済みますから」

 

「……分かった」

 

出撃を促そうとした提督を、机を叩いて沈黙させるという扶桑らしからぬ手荒な方法に、流石に提督は言いかけた言葉を飲み込んで了解した。

 

 

「ありがとうございます。では少々こちらに」

 

「ああ」

 

 

――数分後

 

「待機」

 

突然提督は招集した艦娘達に待機命令を出した。

 

「命令あるまで各自部屋で待機するように」

 

だが、そんな突然の待機命令にも拘らずその場にいた艦娘達は、扶桑から何を聞いたのか脂汗をかく提督に対して、利根を除き、同情とも憐みともつかない視線を送るだけだった。

そして、彼女達は部屋を退出する時にその去り際に「がんばって」や「今回ばかりは仕方ない」といった激励や少し責めるような言葉を提督に残していくのだった。

 

そうして部屋に提督が残って暫くして、提督は扉の向こうにいるであろうある艦娘に扉越しに声を掛けた。

 

「最上いるんだろう? 入って来い」

 

提督の呼びかけに対して特に反応のない扉だったが、やがて暫くしてギギ、と開く音と共に明らかに不機嫌そうな顔をした最上が現れた。

 

「……何?」プクー

 

「すまん」

 

提督は開口一番頭を下げて最上に謝った。

 

「何を謝ってるの? 大佐何か悪い事したのかな?」ツーン

 

お互いに原因は分かっているはずだが、流石に当の被害者である最上は自分から言うつもりはない様だった。

 

「悪かった。お前の事を忘れていた」

 

「利根姉妹がいたじゃん」

 

「いや、西村艦隊を構成していた航巡はお前だ。だというのに俺は……本当にすまない」

 

「べっつにー。どうせ利根姉妹の方が練度も上だしー、大佐の考えは間違いないなかったと思うけどねー」

 

最上はまだ許してくれそうになかった。

 

「最上すまん。本当にワザとではないんだ」

 

「わざとだったら僕本当に泣いてるから」

 

「ああ」

 

「反省してる?」

 

「してない様に見えるなら、更に反省して見せよう」

 

「……」ジー

 

「……」

 

「お願いがあるんだけど」

 

提督の顔をジッと見つめながら最上が言った。

 

「なんだ?」

 

「それしてくれたら許してあげる」

 

「聞こう」

 

「先ず、二度と僕を忘れないって誓って」

 

「分かった」

 

「キスで誓って」

 

「……ああ」

 

「……」

 

最上は提督の返事を確認すると、提督の正面に立って目を瞑り、少し背伸びをして彼からの接吻を待った。

 

チュッ

 

「……ん」

 

「……どうだ?」

 

「……まだ。抱き締めて」

 

「ああ」ギュッ

 

「……最後に質問に答えて」

 

「なんだ?」

 

「さっきまで僕がしたお願い、こんな事がなければ聞いてくれなかった?」

 

提督は最上を見た。

最上は少し不安そうに視線を揺らしながら提督の答を待っていた。

そんな彼女に対して提督が取った行動は

 

ギュッ

 

「あ……」

 

再び最上を強く出し締め直し、そして

 

チュッ

 

「……ぅ……ふ……」

 

「……これが答だ」

 

「合格っ、許してあげる♪」

 

最上は少し紅潮した顔に満面の笑みをたたえながら提督にそう言った。




どうも、新しい任務で何故か西村艦隊の編成に必要な航巡を利根姉妹だと勘違いして任務に臨んだ挙句、S勝利を3回とるまで自分の間違いに気付かなかったダメ提督こと筆者です。

最上にはとても悪い事をしてしまったと思います。
だから艦隊に入れた瞬間からあんなにクリティカルを出したんでしょうねぇ……(ガクブル

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