提督の憂鬱   作:sognathus

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実戦に参加できるようになっても朝の予定確認は大淀の役割のまま変わってませんでした。
その日も大淀は提督に予定を伝える為に彼の待つ執務室へと向かっていたのですが……。


第34話 「偶然2」(挿絵あり)

「大淀」

 

朝、提督にその日の予定を伝えるために執務室に向っていた大淀に、珍しく提督の方から声を掛けてきた。

既に部屋の前にいたところを見ると彼女が来るのを待っていたようだ。

 

「あ、大佐。どうしたんですか?」

 

「ちょっと来てくれ」

 

「……? はい」

 

提督の様子が変だ。

大淀を手招くいて部屋に入れると周囲に人がいないか確認して扉を閉めた。

 

「……大佐?」

 

今まで見た事がない提督の不自然な態度に大淀も不安になった。

 

「一応鍵も閉めておいてくれ」

 

「え? 鍵もですか?」(え、それって……)

 

ついさっきまで不安だった気持ちはどこえへやら、大淀はその一言で何かを思いついたようだ。

 

ガチャ

 

「閉めましたよ。それであの……なんでしょう? いえ、分かってはいるんですけどこういきなりだと個人的にも心の準備というか……」

 

大淀は床と提督に視線を交互に変えながら頬を紅くして言った。

 

「流石大淀だな。そこまで予想できて心の準備の事まで考えているなんてな」

 

「そ、そんなに褒めたってすんなりと受け入れるとは思わないで下さいね。確かに私も大佐の事が好きですけどいきなり……なんてもうちょっとムードというか段階的なものを考えて欲しかったというか……」

 

「大淀?」(舞い上がっている……? 何か勘違いさせているようだ)

 

「で、でも大佐! あ、朝からなんてその……やっぱり仕事もありますから、今は……き、キスだ――」

 

 

「大和です。宜しくお願いします!」

 

全く予想だにしない方向から声がした。

それも提督の声ではなく、彼女がこの基地で初めて聞く女性の声だった。

 

「……」

 

すっかり言葉を失って首だけを声がした方に向けてみるとそこには……。

 

「え」

 

「?」

 

驚いて固まっている大淀を不思議そうな顔で見ている大和がいた。

 

【挿絵表示】

 

「あの、大佐……?」

 

驚いた表情のまま大淀は提督に訊いた。

 

「ああ」

 

「なんですかこれ」

 

「 」(これ!?)

 

「大和だ」

 

「なんで?」

 

「分からん」

 

「は?」

 

「怒るな。本当だ。俺にもさっぱりでな」

 

提督も何と言ったらいいのか分からないと言った顔をしていた。

その顔は若干緊張で引きつっており、僅かに脂汗のようなものも滲ませていた。

 

「えーと……今朝は建造は?」

 

「建造はもう大分行っていない。勿論お前をここに招くまでもな」

 

「彼女が此処に来たのは?」

 

「俺が身だしなみを整えて部屋に入ったら既に……」

 

「……」

 

大淀は考える表情をして大和の方を向いた。

 

「あの」

 

「は、はい?」

 

今までずっと蚊帳の外扱いで戸惑っていた大和は緊張した声で応えた。

 

(わ、私何かしたのかしら?)

 

「失礼ですがどのような経緯でこちらに?」

 

「私ですか? そちらの提督に仕える為に『建造』されて此処に着任したんですが……」

 

彼女からしたら当たり前のことだったのだろう、大淀の質問に驚きと不安が織り交ざったような表情でそう答えた。

 

「大佐?」ジト

 

「分からん。本当だ」

 

大淀の視線に焦る提督。

だが、本当に心当たりはないようで弁明する口調も真剣そのものだった。

 

「そうですか。では記録を見てみますね」

 

取り敢えず提督を信じた大淀は前日の工廠の使用記録を調べ始めた。

今朝着任したばかりで建造されたというのなら前日の記録を調べれば分かるはずだ。

 

「あ……」

 

大淀はあっさり思い当たる節を見つけたらしく、記録を調べ始めてものの数分で小さな驚きの声をあげた。

 

「どうした?」

 

提督は大淀の持つ記録書を覗き込む。

 

「あのこれ……。投入する資材桁全部間違ってません? その割には指示内容は開発のままですけど……」

 

「なに?」

 

「これ……」

 

大淀が指を指した個所を確認すると確かに彼女の言う通りの内容が記録されていた。

 

「……これは」

 

「昨日開発を指示したのは誰です?」

 

「雪風だな」

 

「……なるほど」

 

「つまりこういう事か」

 

ここまで来て真相が想像できてきたのか提督が説明を始めた。

 

「俺が誤って資材の投入量を指示してしまい、その指示書を見た雪風が気を利かせて俺が開発ではなく建造を指示したんだろうと判断した結果……というところだろうか」

 

「恐らく。私もそう思います」

 

「ふむ……」

 

「これは……あはは。まぁ結果オーライというか、幸運を呼んでしまいましたね」

 

「雪風を責める事はできんしな。元々の原因は俺なんだし」

 

「ですねぇ」

 

「あ、あのぉ」

 

着任してから挨拶も返されず、歓迎もされないまま更に放置されていた大和が二人に話し掛けてきた。

 

「わ、私……来て……良かったんですよね……?」

 

さんざん放置された結果痛く自尊心が傷つけられたのか大和は震える声でそう言った。

その目尻には僅かに涙の粒も滲んでいた。

 

「え? も、勿論です! というかごめんなさい! 歓迎しますよ! ね? 大佐」

 

「ああ、大淀の言う通りだ。放置するような真似してすまない。ようこそわが鎮守府へ」

 

「……っ! あ、ありがとうございます! や、大和……大和頑張ります!」

 

自分が歓迎されている事が余程嬉しかったのか、泣きそうだった顔から打って変わって輝くような笑みに変わった大和は本当に嬉しそうにそう言った。

 

 

「……ところで、大佐」

 

「うん」

 

「桁を間違った結果資材は?」

 

「いつも通りだ。弾薬がマズイ」

 

「はぁ……またこれで節約生活ですね……」

 

「弾を消費しない分平和という考え方もできるが……」

 

「反省してください。開き直りは許しません」ムッ

 

「……申し訳ない」

 

大和が喜ぶ裏でそんなやり取りを提督と大淀は行い、密かに揃って溜息を付くのだった。

 




というわけで大和が仲間入りしました。
後心から欲しいのは401くらいですね。
彼女さえでれば、暫く資材を貯めながらゆっくりできるんだけどなぁ。

あ、あと18禁の絵が解禁されたみたいですね。
いろいろ(自分の中で)盛り上がって参りました♪

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