提督の憂鬱   作:sognathus

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隼鷹に続いて初春も改二になりました。
生まれ変わった彼女を初めに迎えたのは自分と同じ最古参の友人あの人。


第26話 「旧交」

「改二おめでとう」

 

叢雲が笑顔で初春の改造を祝福した。

 

「ありがとう。叢雲、先に悪いの」

 

「別に気にしなくていいわよ。私だって、まだ許可がおりてない子だってその内になれるわよ」

 

「で、あるな」

 

「で?」

 

「ん?」

 

「大佐に見せないの?」

 

「あぁ、う……む」

 

初春は叢雲にそう言われた途端、少し居心地が悪そうに視線を下に落として悩むそぶりを見せた。

 

「どうしたの?」

 

叢雲が突然の親友の態度を心配する。

 

「いや……らしくないとは思うのじゃが……」

 

「?」

 

初春はモジモジしながらこんな事を言った。

 

「改造前の方が好みとかだったら、と思うと……の」

 

余のも予想外の答に叢雲は一瞬目を丸くしたかと思うと、次の瞬間には手で口を押えて笑うまいと我慢する素振りをした。

 

「……っ」

 

「あ、こらっ。吹き出すことなかろう」カァ

 

「だって、ふ……ふふふ。ごめん、確かにらしくない……わ……く、ふふふ」

 

目尻に涙を貯めて何とか笑いを堪えるのに苦労しながら叢雲は苦笑交じりに謝る。

そんな彼女の態度に初春は拗ねたような視線で抗議をした。

 

「むぅ、いくらなんでも笑い過ぎじゃないかえ?」

 

「あ、ごめんごめん。でも……別に今も悪くないと思うわよ?」

 

「そうか……の?」

 

「初春は気に入ってないの?」

 

「ん……そうでもないが……」

 

少し長くなった髪を弄りながら視線を泳がせる初春。

その様子は改造の結果にまんざらでもない満足を感じているように見えた。

 

「なら大丈夫よ。初春が気に入っているなら大佐だって気に入るはずよ」

 

「うむ……」

 

「本当に初春らしくないわね。大丈夫って言ってるでしょ」ポン

 

叢雲はそう言って親友の肩を軽く叩いた。

 

「……ん、む」

 

「もう大丈夫?」

 

「うむ。問題ない」

 

「ま、考えてみれば最古参の割にはずっと改造がなかったものね、待ち侘びた分緊張するのも解るわよ」

 

「だからこそお主に対して後ろめたい気持ちもあるのじゃがな」

 

「私とあなたの仲じゃない。気にしないで、って言ったら本当に気にしなくていいのよ」

 

「叢雲……うむ、面倒を掛けてしまったの。すまなんだ」

 

「いいって。ほら、早く行きなさいよ」ヒラヒラ

 

「相、分かった。初春、推して参る」

 

叢雲のおかげで何とか迷いを振り切ることができた初春は、スッキリした顔でそう宣言した。

 

 

「……改二、かぁ……」

 

親友の後ろ姿が見えなくなった後、叢雲ぽつりと呟いた。

 

(羨ましくないと言ったら嘘だけど……でも……。親友の嬉しい顔見たら祝福せずになんかいられないじゃない)

 

「まっ、楽しみが後になったって思えばいいか」

 

少し溜息を吐いて気を取り直した時だった。

叢雲は服の袖を軽く引っ張られる感触に気付いた。

 

クイクイ

 

「?」クル

 

退かれた方をくるりと振り向くとそこには叢雲を励ますように微笑む電がいた。

 

「ファイトなのですよ!」

 

「電……そうね。そういえば最初は駆逐艦は、あなたと初春と私だけだったわよね」

 

提督の鎮守府に最初からいた駆逐艦は叢雲と初春だったが、提督の着任から程なくして配属となった電との時間の差はそれ程ではなかった。

その事もあってこの3人は自他共に認められる古参であり親友同士だった。

 

「電も早く上位改造を受けたいと思っていますよ」

 

「……ったく、気を遣っちゃって」ペチ

 

電の気持ちを嬉しく思いながらまるで生意気だぞ、と言うように軽くデコピンを見舞う叢雲。

 

「あうっ、えへへ……」

 

「ふふっ……よしっ」

 

「叢雲、元気出ましたか?」

 

「ええ。だからちょっと飲みに行きましょう」

 

「えっ」

 

電は叢雲の言葉に一瞬固まった。

 

「私知ってるのよ、あなたが大佐に憧れてお酒や煙草真似事をしようとしてるの」

 

「あ、あわわ……み、皆には内緒なのですよ!? 特に暁ちゃんや雷ちゃんにはお願いしたいのです」

 

余程自分にとって重大な秘密なのか、叢雲に事実を述べれれて焦る電。

 

「ふふ、バレたらどうなるのかしらねぇ?」

 

「……きっと焦って電と同じ事しようと思います」

 

「でしょうね」

 

「……」

 

「無茶、させたくないんだ?」

 

「……なのです」コク

 

電は真面目な顔で頷いた。

姿こそ幼子だったが、その顔は可愛らしいながらもしっかりとした意志が感じれる真面目な顔だった。

 

「意外よね。駆逐艦の中で一番優しくて幼そうなのに実は中身は結構大人だなんて、ね」

 

「……叢雲には言われたくないのです」プイ

 

「言うじゃない。じゃ、付き合ってくれるわね?」

 

「仕方ないですね」クス

 

電は苦笑して叢雲の誘いを快諾した。

 

 

コンコン

 

「初春じゃ」

 

『初春? いいぞ、入れ』

 

ガチャ

 

「邪魔をする」

 

「ああ。どうし……そうか」

 

初春の姿を見るなり、提督はすべてを察した様子で暫く彼女を注視した。

 

「うむ」

 

「……」

 

「どう……かえ?」

 

視線に耐えかねたのか少し頬を紅く染めた初春が感想を聞いてきた。

 

「ん?」

 

意外そうな顔で聞き返す提督。

 

「いや……その、見た目……とか、の?」

 

「特に感想はないな」

 

「っ……!」

 

ぶっきらぼうな言い方に初春はショックで黙り込む。

が、暫くして。

 

「……」

 

「……あ」

 

初春は何かに気付いたのか、小さな声をあげた。

 

「ん?」

 

「大佐、ちょっと意地悪くないかの?」

 

ジト目で提督を睨む初春。

その顔は不機嫌そうにも悪戯に興じる子供のような顔にも見えた。

 

「ん? 何がだ?」

 

「特に感想がないという事は今までと同じという事じゃろう?」

 

「まぁな」

 

「妾が一番望むものがそれだと分かってて敢えて突き放すような言い方をするのは意地が悪くないかの?」

 

初春はそう言ってズバリと自分の願望と提督の意地悪の真意を重ね当てた。

 

「それなりの付き合いだからな、ちょっと試してみたくなった」

 

「ほほう? では、そんな質の悪い冗談に付き合った礼としてそれなりの褒美は期待していいのじゃろうな?」ニッ

 

「何がいい?」

 

「それこそ当ててみるがいい」

 

初春は腕組みをして挑発するような顔をしながら微笑む。

 

「ほう?」

 

「言っておくがヒントは無しじゃぞ」

 

「……ふむ」

 

「……」

 

提督は少し考えるような仕草をした後、やがて真っ直ぐに初春の方を向き直るとゆっくりとした足取りで彼女に近づいて来た。

 

コツコツ

 

「……ん」

 

チュ

 

「……どうだ?」

 

「ふっ、大佐にしては満点じゃ」ニコ

 

どうやら提督の出した答は正解だったらしい。

満面の笑顔で嬉しそうな顔を初春はした。

 

「良かった。てっきりもっと慎みを持てとか言われて叱らるのかと思ったぞ」

 

「なんと? ふふっ、見ず知らずの男ならともかく、大佐でそれはないわ」

 

「身に余る評価だ」ペコ

 

そう言って提督は大袈裟に初春に頭を下げた。

そんな提督の演技に初春も乗り、笑いながらこう言った。

 

「苦しゅうない。だから、の?」

 

「ああ」

 

「んむ……」

 

チュ

 

2度目の口づけ、今度は少し深く、時間を掛けて行った。

 

「……ふ……ぅ。仕事中に接吻を贈るとは俺もだらしなくなったものだな」

 

キスを終えて少し複雑そうな顔で提督は言った。。

 

「そうかえ? 妾は大佐の成長ぶりに感心して更に今は幸せ一杯なのじゃが」

 

「堕落が成長、か。ふっ……」

 

「大佐、まさかこれで丸くなったとか思ってないじゃろうな? じゃったらまだだまだじゃぞ? この初春が時間を掛けて大佐をもっと真人間にしてみせよう」

 

「斬新なフォローだな」

 

「ふふふ。確かにこんなフォロー、大佐にか適用できないの」

 

提督と初春はお互いに意地が悪い顔をしながら笑い合い、共に改二の改造を祝った。




初春も改二になりました。
てっきりレベル70くらいだと思っていたら意外にも65と予想を下回り、嬉しい結果となりました。

駆逐艦改二増えてきましたね。
次は誰かなぁ。

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