大佐に見つかりました。
どうなるんでしょう、怒られる?
武蔵「た、大佐」
青葉「あわわ、見つかってしまいました」
瑞鳳「ふぇ......」ジワ
提督「......取り敢えず怒らないから瑞鳳は泣くな」ポン
瑞鳳「ふ......ぐす、ごめんなふぁぃ......」
提督「悪い事をしていると思っていたのか? 大丈夫だ。俺は気にしてはいない」ナデナデ
武蔵「......」
青葉「......」
武蔵「た、大佐?」
青葉「あ、青葉達も実は......」
提督「お前達は反省していいんだぞ?」
武蔵「うっ......」タジッ
青葉「は、反省......いえ、猛省します!」ビシッ
提督「......ふっ。もういい。それで一体どうしたんだ? なんで着いてきた?」
青葉「そ、その大佐が私服で一人で何処かに行くのが珍しくて......」
武蔵「気になって、な......」
瑞鳳「わ、わた......ひっく、わたし......も誘われたときに興味......ぐす、持っちゃって......」
提督「なるほど。それで追いかけてきたと」
青葉「はい」 武蔵「そうだ......です」 瑞鳳「うん......」
提督「そうか......まぁ、確かに一人で来たかったから誰にも特に目的は言わなかったけどな」
青葉「ご、ごめんなさいです! お、お邪魔しちゃって」
武蔵「私も......少々浅慮だった。申し訳ない」
瑞鳳「う......ぐすっ......!」ギュゥ
提督「瑞鳳はもういい。だから落ち着くまでそうしてろ。な?」
瑞鳳「......」コク
提督「さてと、まあ一人で来るつもりだったとは言え、別に隠し事のつもりでもないしな。知りたいなら教えてやるが」
青葉「あ、はい。その......図々しいのは承知してますが、教えて頂けるのなら......」
武蔵「......」
提督「武蔵は何となく雰囲気で察していたみたいだな?」
武蔵「神木に祈り......祈願かとも思ったが、なるべく一人で来たいと思っていたという事は......」
提督「そうだ。冥福を祈りに来た」
青葉「冥福......」
瑞鳳「お、お墓参り......?」
提督「まぁそんなようなものだ」
武蔵(やはりか)
提督「俺が此処に提督として赴任して間もない頃は、当然だが今より未熟でな。故意ではないとは言え、作戦中に轟沈した艦娘も決して数は多くはないが、少なからずいたんだ」
青葉・武蔵・瑞鳳「......」
提督「幸いにして部下たちはそれでも俺を支えてくれ、そして理解してくれた。だから俺も今この時まで挫折することなくお前たちの最期に正面から向き合うことができているわけだが」
提督「ただ、その中でも一人だけ今でも後悔......というのか、轟沈させてしまった事が自分の所為として許し切れていない奴が一人いてな」
武蔵「では、その一人の為に此処に?」
提督「ん、冥福を祈る事自体は沈んでしまった奴ら全員に捧げているつもりだが、割合的にはまあそうだな。そいつに対するものが多いか」
青葉「その、差支えなければ教えて頂けますか? その人は......」
瑞鳳「あ、青葉さん......」
提督「いや、いい。さっきも言った通り別に隠しているつもりはなかった。訊かれればお前達にならいつでも話せる心づもりではあったしな」
武蔵「大佐......」
提督「その一人とはな、千代田の事だ」
青葉「え、千代田さん? でも彼女は今も居ますよ? あっ......」
武蔵「二人目、か」
提督「そうだ。今いいる千代田は先代と言ったらいいのか、前にいた千代田の後にうちに来た子だ」
瑞鳳「知らなかった......いつも姉妹仲良くしてるから......」
提督「いや、実際に仲はいいぞ? 今の千代田も姉の事を慕っているし、千歳もそれは同じだ。そして今の千代田はこの事も知っている」
青葉「......」
武蔵「私はともかく、お前達はその事を知らなかったのか」
瑞鳳「わたしが大佐の鎮守府に来たのはそんなに前の事じゃないから......」
青葉「恥ずかながら重巡の中ではわたしが一番最後に所属したんです。大佐の話ぶりから察するに、前の千代田さんがいたのはもっと前の頃だと思います」
提督「そうだ。青葉がうちに来る前だからお前たちが知らないのは当然だ」
提督「先代の千代田と千歳を一緒に出撃させた時だったな。俺の判断の誤りから千代田が轟沈しててしまった」
提督「千歳は『実戦では仕方のない事、覚悟はできていました』なんて気丈にふるまっていたが、その眼は悲しみに濡れていた」
提督「無理もないだろう。あいつらはほぼ二人揃ってうちに来たし、その練度もお互いほぼ一緒の時間の中で成長してきたんだ。二人の間に強い絆があったのは明白だった」
瑞鳳「大佐......」
提督「だが、それでも俺の事を気に掛けて努めて明るい顔で許してくれたあいつの笑顔が俺には相当堪えてな。以降はこうやって時間がある時に冥福を祈って自己満足をしている次第だ」
武蔵「その木は?」
提督「昔、偶然見つけてな。あまりにも立派だったから土地の所有者に相談して全て自費で購入した。この石段もしめ縄も全部自前で用意した」
武蔵「なるほどな。ではここはさながら大佐にとっては慰霊の地というわけだな」
青葉「そ、そんな大事な場所、大事な事を青葉達は......」ジワ
瑞鳳「っ......!」ギュウッ
提督「よしよし」ナデナデ
提督「いや、そこは気にするな。さっきも言った通り別に隠していたつもりはない。それに沈んだ奴らだって仲間が来てくれれば嬉しい筈だ」
青葉「そんな......でも......」
提督「気にするなと言ったろ? それにせっかくここまで来たんだ、どうせならこの景色も見て行け」
青葉「景色? あ......」
武蔵「瑞鳳、瑞鶴見ろ」
瑞鳳「ぐす......ん......? あ......」
提督「良い眺めだろう? 俺がここに来たのはこの景色を見る為でもあるんだ」
武蔵「山を登っていた自覚はあったが......こんなにも高い所に来ていたんだな」
瑞鳳「わぁ......きれい......」
青葉「あ、わたし達の基地も見えます! 小っちゃいですねぇ!」
提督「ああ、そうだな、小さい。だが俺たちはこの手を広げば全て覆う事が出来るこの地を今までずっと守ってきたんだ」
瑞鳳「大佐......」
青葉「そう......ですね。守ってきました」
武蔵「誇らしいな。自惚れでなく、本当にそう思える」
提督「そうだ。誇りだ。未だ過去を引きずっている俺が言ってもあまり格好にならないが、お前達はそのあり方をゆめ忘れるな。常に強く、潔く、正しくいてくれ。これは俺からお前達への、昔から一貫して変わらない心からの願いだ」
武蔵・青葉・瑞鳳「了解!」バッ
提督「......良い部下を持った本当に」
ちょっとほんわか良い話にしたつもりですが、ま、これは実体験が元ネタです。
最後の改造が目前に迫っていた千代田の轟沈は自分にとっては結構衝撃でした。
轟沈もあれが初めてでしたしね。
その後、中破進撃や夜戦を警戒して行わなかったりと、前より多少は考えて行動するようになりました。
教訓になったとは言え、なるべくこういう事態は本当に避けたいですね。