提督の憂鬱   作:sognathus

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宴会場に案内された提督たちは、挨拶もそぞろに中佐(T督)の乾杯の音頭でもう宴が始まろうとしていました。


第61話 「宴会」

少将「それでは、准将の昇進を祝いまして......」

 

「かんぱーい!」

 

 

中佐「ごく......ごく......ふはぁ、にしてもやっと昇進かぁ。良かったな」

 

提督「俺からすればお前がまだ中佐のままの方が不思議だ」

 

彼女「そうね。いくら資材の消費が激しいからってそれを補って余りある戦果だって挙げてるでしょうに、その戦果すら霞ませる消費ってなんなのよ」

 

中佐「んぁ? まあそれはアレだ。あいつを見ろ」

 

提督「お前の長門か」

 

中佐「そうだ。俺が鍛え上げた、親父の様に。それがどういう意味か解るだろう?」

 

彼女「ケッコン以後の成長限界に達しているって事かしら」

 

中佐「それだけじゃない。経験と鍛錬を唯ひたすら積み重ねてきた。これは能力では補えない精神的強さになる」

 

提督「ふむ、お前はその為に全てを注ぎこんでいるんだな」

 

中佐「その通り。その為なら昇進なんてどうでもいい。お蔭で俺の艦隊は今も最強の自信がある」

 

彼女「豪語するわねぇ......。ま、その言葉がハッタリじゃないのは解るけど」

 

中佐「おう。お前のとこの武蔵にも負けないぞ」

 

彼女「言うわね。だけど、演習はしないわよ? こんな席でそんな話したら中将に何を言われるか分からないもの」

 

中佐「残念、釣れなかったか」

 

提督「今日は元帥もいるんだ。少しは自粛しないとな」

 

 

無蔵「お前は准将の所の初春か?」

 

初春「そうじゃ。この前来た時はろくに挨拶もできなくてすまなんだのう」

 

無蔵「いや、気にするな。ふっ......」

 

初春「なんじゃ?」

 

無蔵「いや、准将は養女趣味もあるのかと思ってな」

 

初春「ほう。妾の矮躯を哂うか。ま、否定はせんがの」

 

無蔵「ほう。感情的に反論してくると思ったら意外に身の程を弁えてるじゃないか」

 

初春「その不遜な態度、自分の実力に対する絶対の自信があるようじゃな。大したものじゃ」

 

無蔵「ん? ま、まあな」(なんだ? ここまでして乗ってこない奴は初めてだぞ)

 

初春「妾が憤怒しないのが不思議かえ? それは残念じゃったな。これでも妾はこと忍耐と機を読む力に関しては絶対の自信があるのじゃ」

 

無蔵「なんだ、単に我慢強いという事か?」

 

初春「そんな安易なものではない。心から慕う殿方と最も古い付き合いの一人でありながら、その想いを殿方自身から好意を受けるまで秘することができる程度の忍耐ぞ?」

 

無蔵「なんだそれ。やっぱりただ我慢してるだけじゃないか」

 

初春「ふっ......最も数が多く、そしてその脆さ故に練度を鍛え難い駆逐艦の悩みは無蔵殿には流石に理解は難しいじゃろうて」

 

無蔵「あ......えっと、す、すまなかったな。あまりにも無神経が過ぎた」

 

初春「よいよい。もう直ぐ先ほど申した、妾が得意とする力を経験することになるじゃろうし。今回は大負けに許してしんぜよう」

 

無蔵「は?」

 

初春「忍耐と、機を読む事にも自信があると申したじゃろう? 無蔵殿、覚悟されよ。もう直ぐ妾が読んでいたその機が主に襲い掛かるぞ?」

 

無蔵「な、なにを......」

 

むきゅ

 

無蔵「ひゃ、ひゃぁぁあ!?」

 

少将「駆逐艦の......何が悪いって言うんですかぁぁぁぁ!」

 

無蔵「しょ、少将!? あ、ちょっと......や、やめてくれ! 客人には危害を加えられないんだ!」

 

少将「にゃぁぁぁに言ってるんですか? さっき無蔵さん駆逐艦の事馬鹿にしたでしょう? それはね、僕の叢雲を馬鹿にしてる事と同じなんですよ!? それの何処が危害を加えてないってゆーうんですかぁ!?」

 

むぎゅぅぅぅ

 

無蔵「ひ、ひひゃいっ! ひゃ、ひゃへて! あひゃはふはは!」

 

少将「何言ってるのか分かりませんよ! 反省がまだ足らないみたいですね!」

 

ぎゅむぅ

 

無蔵「ひひゃぁぁぁぁっ!? はふはひゅ、はふへへ......」

 

初春「......」ニコニコ

 

無蔵「......!」ゾッ

 

初春「......」トントン......

 

無蔵(も、モールス信号?)

 

トトン......(シバラクハンセイスルガヨイ)

 

無蔵「!」

 

初春「~♪」バイバイ

 

少将「なぁぁぁに余所見してるんですかぁぁ!!」

 

ギュギュゥ

 

無蔵「ひぃ、ひゃああああああああ!!」

 

 

武蔵「......凄いな」ゾッ

 

叢雲「あーあ、怒らせちゃって。ま、嬉しいけど」

 

長戸「はは、嬉しいって酷いな奴だな」

 

叢雲「私だって駆逐艦なりの誇りは持ってもの。彼はそれ代弁してくれてるのよ。嬉しいに決まってるじゃない」

 

武蔵「じ、自分の分身ながら鏡を見ているようで気分が......」サァ

 

長戸「おいおい、そっちの武蔵は随分大人しいんだな」

 

武蔵「わ、私はお前たちが思ってるほど不遜ではないぞ? ちゃんと准将に躾けられてるんだ」

 

叢雲「躾って.......」

 

長戸「ほうほう、そういう趣味か。よし、お姉さんとちょっとエロトークでもしよう!」

 

武蔵「お、お姉さんって......。わ、私は大和型だぞ!? 武蔵なんだぞ!?」

 

長戸「こーんな可愛い武蔵が私よりお姉ちゃんな筈がなかろう。さぁおいで可愛がってやろう」

 

武蔵「な、なにを......!?」

 

長戸「叢雲、お前も付き合ってくれよ? 見た限りお前も相当アッチの話はできそうだしな」

 

叢雲「へぇ、よく判ったわね。ま、退屈だったからいいけど」

 

長戸「そうこなくては!」

 

武蔵「や、やめろぉぉぉ! 大佐ぁぁ! うわぁぁぁぁん!!」

 

 

長門「皆盛り上がってるな」

 

大和「そうね......」

 

長門「お前は酒が入ってるのに全然変わらないな。寧ろ落ち込んでる。一体どうしたんだ?」

 

大和「......いいわよね、貴方たちは提督と恋仲になれて」

 

長門「ん?」

 

大和「......」フィ、グビ

 

長門(ああ、そういう事か)

 

長門「中将が好きなのか?」

 

大和「......大好き」

 

長門「告白はしたのか?」

 

大和「もう何回も......」

 

長門「全て断られてるのか」

 

大和「というより、まともに相手にされない。悪気がないのは分かるけど。それでも振り向くくらいはしてくれたっていいじゃない......」

 

長門「なるほどな」

 

大和「長門、私どうしたらいいのかな......」

 

長門「ん? そうだな......」(酒が入ってる所為か口調が段々子供みたいになってきたな)

 

大和「う......ぐす。どうやったら、振り向いてもらえるの......かにゃぁぁ......」ジワ

 

長門「うーん......あっ」(泣き上戸か。これは厄介だぞ)

 

長門「取り敢えず、後ろの中将殿に慰めてもらったらどうだ?」

 

大和「ふぇぇぇ......?」

 

中将「何を泣いてるんだ、この娘は」

 

大和「ちゅ、中将ぉ......だって......だってぇ......」ブァ

 

中将「お前は酒が入るといつもこうだな」

 

大和「う......ぐす......ごめんなしゃい......」

 

中将「泣く泣くな。ほれ、こっちにきて一緒になんか食べよう。酌をしてくれるか?」

 

大和「っ、中将ぉぉぉ!」ダキッ

 

中将「おっとっと、ほら行くぞ」

 

大和「はぁ......い♪」スリスリ

 

中将「調子のいい奴だな。長門、面倒掛けたな」

 

長門「あ、いえ」

 

中将「うむ、ほら行くぞ大和ぉ」ヒョイ

 

大和「んふふふ、おんぶ―♪」

 

 

長門「......」

 

長門(中将のあの目、気になるな)

 

 

元帥「賑やかだな」

 

紀伊「......」

 

元帥「どかしたか?」

 

紀伊「いえ」

 

元帥「そうか」

 

紀伊「......閣下」

 

元帥「ん?」

 

紀伊「お注ぎ致します」

 

元帥「ふっ、ありがとう」




宴会の話が終わったところで第三部終了とします。

次の第四部からは......過去の話を多少混ぜようかと思ってます。
ま、最初の方は本部と提督の鎮守府の日常にするつもりですが。

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