なかなか起きてこない提督に業を煮やして、珍しくやる気が満ちた顔の初雪が提督を起こしに行きました。
初雪「大佐ー」
提督「......なんだ」
初雪「昼間っから何で寝てるの?」
提督「ちょっと、な」
初雪「体調でも悪いの?」
提督「そんなところだ」
初雪「大丈夫?」
提督「別に病気とかじゃないから大丈夫だ」
初雪「え、じゃあ何が調子悪いの?」
提督「......」
初雪「大佐?」
提督「大人だって時にはいじけたくなる時もあるんだ」
初雪「へ?」
提督「初雪」
初雪「な、なに?」
提督「女は怖いな」
初雪「え?」
提督「.....」ボフッ
初雪(ふ、布団被っちゃった。な、なに。何があったの? ていうかホントにこれ大佐?)
初雪「ね、ねえ大佐元気出してよ。仕事どうするのさ」
提督『執務なら今日中のは全部やって机においてある」
初雪「え?」
初雪が提督の机を見ると山のような書類がきちんと整理されて置かれていた。
初雪(あの量を午前中だけで......? 嘘でしょ......)
初雪「で、でもさ艦隊の指揮はどうするの?」
提督『出撃や演習の指揮を執る時はちゃんと出るから大丈夫だ』
初雪「そ、そう......」
提督『ああ』
初雪「ねえ、大佐」
提督『なんだ』
初雪「何があったの?」
提督『......初雪、お前は個性的ながらも頼りになる部下が、いきなり自分は上官の犬だ、なんて自信を持ってしかも嬉しそうに言ったりする姿を見たらどう思う?』
初雪「え?」
提督『俺は衝撃を受けると思う。今まで真面目に訓練してきたつもりだったが、どこで育て方を間違ったのかと。俺は自信がなくなってしまった』
初雪「え、えっと......」
提督『衝撃を受けて呆然としている俺を信頼していた部下たちが、チワワである自分こそ提督を癒すに相応しいとか、豆柴である自分の方が提督の好みだとか、ハスキーの自分こそが提督に色々してやれるなどと言って取り合い......俺は心の中で泣いてしまった......)
初雪「うわぁ......」(そりゃ大佐にはキツイかも......)
提督『俺は女と言う生き物が怖くなってしまった』
初雪「大佐......」(あ、重症だこれ)
初雪「あのさ大佐」
提督『ん?』
初雪「こうやって話してる分にはわたしは平気そうだね」
提督『駆逐艦は大丈夫だ。お前たちは常に素直だからな。信用できる』
初雪「あ......あ、そう」(なんでだろう嬉しい事言ってくれている筈なのに素直に喜べない)
初雪「でもさ大佐、その誰だかわからないけど大佐を取り合った子も、大佐の事が好きでやったんでしょ?」
提督『......かもな』
初雪「なら、そこは素直に喜んでお礼を言うべきじゃない? じゃれつかれるのが苦手でも、そこで動揺せずに平静を装って対応ができれば上手くいったかもよ?」
提督『......』
初雪(まだダメか......)
初雪「じゃ、じゃあさ大佐」
初雪「わたしが犬の真似したらどう思う?」
提督『......なに?』
初雪(えーい、こうなりゃヤケだ!)
初雪「わ、ワン! は、はつゆ......初ワンだワン!」カァ
提督『......』
初雪「た、大佐ど、どうしたワン? げ、元気出すワン。く、ク~ンク~ン」カァァ
提督(なんだ......? 一見して下手なのに、俺なんかの為に一生懸命に犬の真似をする初雪の姿がどうしようもなく嬉しくて心が熱い)
初雪「た、大佐ぁ~元気を出して欲しいわ、ワ~ン」プルプル
提督(羞恥のあまり泣き笑いのような表情を......俺は、俺はこのままで......!」
バッ
初雪「ワン!?」ビクッ
提督「初雪......」
初雪「な、なに?」
ギュッ
初雪「きゃっ」
提督「ありがとう......俺は間違っていた。お前の必死に頑張る姿を見て、俺は今、自分の心が洗われたような気持ちだ」
初雪「わ、ワン......」(あ、犬真似の癖がまだ......)
提督(まだ俺なんかの為に犬の真似を......。くっ)
提督「......これはいけないな。お前達に心配を掛けない提督の姿を再び示さなければ」
初雪「あ......も、もう平気?」
提督「ああ、ありがとう初雪。お前のおかげだ」
初雪「う、うん......元気になってくれればいいよ」
提督「安心しろ。もう大丈夫だ」
初雪「そ......」(なんか残念だなーなんて、ね)
初雪「......ちぇ」
提督「ん? どうした?」
初雪「ううん、なんでもない」
初雪はやる気を出せば望月と並んで優秀な子だと思います。
どっちも甲乙付け難い可愛さが難点と言えば難点です。