「さて、問題はここからだな」
大地に降り立ち、ポツリと呟く。
(おろちが逃げていればヒミコが突然不在、逃げていなくても大怪我をして寝込んでいるどっちにしても騒ぎにはなってるだろうなぁ)
おろちに一時でも俺との約束を守る気があるかは、入ってみればわかる。
(とりあえず、あの情報集めてくれた人のところは真っ先に行かないとな)
生け贄の輿を追いかけ、おろちを倒しに行くと言って出ていったっきりなのだ。心配しているかも知れない。
(しっかし、もうかなり原作崩壊しちゃってるよなぁ)
サイモンにサマンオサで処刑されるところだった人々、生け贄のお姉さん達。原作では生きていない筈の人達が生きていて、ボストロールは倒れ、おろちも一度目の撃退はほぼ成功しているのに、ルーラで飛べる場所にロマリアが無いというとんでもなさ。
(えーと、ロマリアによらないとカンダタ関連のイベントが進まなくて船が手に入らないんだっけ。うーん、船が無いのにジパングかぁ)
こうやって記憶を掘り返してみると我ながら無茶苦茶してきたなぁ、と思う。
(ゲームの時は一本道とまでは言わないけど、過程こそ違えエンディングはほぼ一つだったな)
もちろん、世界を滅ぼされる訳にはいかないので、この世界でも大魔王ゾーマは倒す必要がある。
(確か勇者抜きでゾーマ倒しても、勇者は召喚されるんだっけ)
後のお話しに矛盾が出ないようにする為の措置としては是非もないのだが、未来を知らなければツッコミどころしかない展開だよなとも思う。
(じゃあ、シャルロットでなくサイモンさんがゾーマ倒したらどうなるんだろう?)
そこで疑問がふと生じる。
(まてよ、やり方によってはシャルロットの親父さんを助けて親父さんに世界を救って貰うパターンも不可能じゃないのか)
ゲームだったらどちらも不可能だ。だが、勇者サイモンはサマンオサで生きているし、時間軸からすればオルテガも生きているはず。
(何というマルチエンディング)
個人的に勇者サイモンルートが見てみたいと思う俺は異端だろうか。
(あれ? やりようによってはサイモンさんの息子さん加えて、勇者親子×2の勇者しか居ない四人パーティーとかも出来るんじゃ?)
勇者用の装備がワンセットしかないのがネックだが、凄い絵面になるのは間違いない。
(くっ、何というロマン)
まぁ、フバーハやスクルトと言った防御系の補助呪文に乏しいパーティーになりそうなので、実際には他の職業のメンバーを入れた方が安定するだろうが、想像するのは自由だと言いたい。
(ま、とは言え遊びじゃないからなぁ。妄想はこれぐらいにして)
今すべきはジパングの現状確認することだ。
「さてと」
「っ、スーさん殿っ!」
声をかけられたのは、足を踏み入れてすぐ。
「よくぞご無事で……」
「今帰った、何かかわったことは?」
「それが、ヒミコ様が大怪我をされましてな。『生け贄はもう必要ない』とだけ告げられて今もまだ寝込まれておりまする」
「そうか」
どうやらおろちは約束を守ることにしたらしい。
(とは言っても表面上なのか、本気で守るつもりが有るかはまだ解らないけど)
確認の為にも一度は足を運ぶ必要があるだろう。
(クシナタさんのこととか話しておかないとな)
おろちからすれば、あの日の密約を目撃した唯一の人物と認識しているはずだ。
(場合によっては口裏合わせてクシナタさんが助かったことにすれば、他の人と違って帰国できるかもしれないし)
今後どうするかについてもきっちり話し合っておく必要がある。
(まぁ、バラモスやゾーマを完全に裏切ってまでこっちにつくとは思えないし、一時的なものになるかな)
最終的に、おろちは修行を積んだシャルロット達に倒される。約束通り、俺は直接手を出さない。
(それでいいとは思うけど)
問題は、シャルロットに討たれそうになったおろちが恥も外聞もなく俺に助けを求めてくるパターンだ。
(俺のスタンスは告げてるはずだから可能性は低いものの、まるっきりナシと考えるのも危険かぁ)
もっとも、シャルロットに倒されるようでは俺が助けてもこちらにメリットはない。ゾーマやバラモスの注意を引かないようにする為活かしておいたのだから、他者が倒しても倒した者に魔王の注意が向くだけである。
(そう言う訳で、助けて貰うつもりなら何かこちらを利する必要が出てくるんだけど)
おろちに差し出せるモノがあるだろうか。
(「ジパングの半分をお前にやろう」とか?)
そんな何処かの魔王を彷彿とさせる申し出は無いとして。
(オーブは倒して奪えばいいだけだし、となると残るのは自分自身ぐらいなんだよなぁ)
やまたのおろちを仲間にした勇者一行、少なくとも民衆感情的にジパングには出入り禁止になりそうである。
(生命力はあるし、専用の防具や武器を作って装備させれば盾代わりくらいにはなるか)
もっとも、強化した後裏切られたら笑えないし、裏切らない保証もないのだが。
(うん、仲間ルートはナシで良さそうだな)
保身を考えるタイプは最前線で使うに危険すぎる。かといって、後方に控えさせておいても使い道がない。
(ま、考えるのはこの辺りでいいや)
あとは実際に会いに行くだけだ。
「とりあえず、怪我をしているというなら見舞いに行こう。丁度荷物に異国で買った薬草がある」
俺はそう言い残すと、ヒミコの屋敷に向けて歩き出した。
何というか、飛んでもない未来描きかけましたね、主人公。
次回、第七十九話「おろちとスーさんの話し合い」