強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百九十八話「たたかいのゆくえ」

「させんっ、マヒャド!」

 

 接近する俺を迎撃する意図が合っての呪文攻撃だったのだろう。

 

「な」

 

 だが、次の瞬間、ゾーマの放った呪文は俺の前にあった光の壁に跳ね返り。

 

(ちっ)

 

 俺は舌打ちしつつ大魔王の懐に飛び込んだ。

 

「最終……奥義っ」

 

 他の補助ならともかく、反射呪文がかかっていると解れば、凍てつく波動で呪文効果を消してくるのは間違いない。

 

(どのみち防げない技で来るなら、防御と回避を捨てるっ!)

 

 一撃目は、右手の爪。

 

「があっ」

 

 二撃目は、左腕の鎖。

 

「ごっ、ぐっ」

 

 分銅を用いたアッパーカットで仰け反らせ、がら空きの胴に爪を突き立てて三撃目。

 

「おおおおっ」

 

 四撃目は突き立てた場所から爪で傷を下方向に斬り広げ。

 

「まだだっ」

 

 左手に拳を作り、金槌で釘を打つように刺さったままの爪を殴りつける。

 

「がっ」

 

 ゾーマが呻くが俺の連続攻撃はまだ終わりじゃない。

 

「あああっ」

 

 右腕を捻って傷を剔り、左手で力を加えて更に傷を広げる。

 

「ぐうっ、うぐっ」

 

「どうした、大魔王ッ」

 

 攻撃だけに集中した俺は完全に無防備な状態で叫んだ。

 

「おのれぇっ」

 

「っ」

 

 顔を歪めたゾーマが眼前に突き出した腕から凍てつく波動が迸り。

 

(やはりそう来るか)

 

 俺は声に出さず呪文を唱え始める。

 

「バイキルト!」

 

 唱えられる呪文は二つなら、選択肢はこれしかなかった。

 

(フバーハとマホカンタでブレスと呪文対策をすれば直接攻撃、スカラとフバーハならマヒャド、スカラとマホカンタなら凍える吹雪……どれを選んでも対応しきれないもので攻撃されるなら、敢えて攻撃を選ぶ)

 

 結果として反撃で喰らうダメージも大きくなるだろうが、俺には回復呪文もある。

 

(ゾーマがさっきのでどれだけのダメージを受けたのかは解らないけど……)

 

 こちらがゾーマであれば、あんなふざけたチート攻撃を喰らうのはゴメンだ、だから。

 

「やはり、あの一撃の重さ呪文で強化しておったか、だがわしに同じ手が通用すると――」

 

「遅い」

 

「があっ」

 

 再び凍てつく波動を放とうとするのは、予測出来ていた俺はバイキルトを無効化される前に突き刺したままの爪を引き抜きながら斬り上げ、飛び退き。

 

「おまけだ」

 

 左腕を振るって鎖分銅で追撃する。

 

「がふっ。ぬうぅ、小癪なぁっ」

 

 もっとも、それで倒れる程ゾーマは弱くもなかったのだが。

 

「また凍てつく波ど」

 

「喰らえいっ!」

 

「っ」

 

 息つく暇なく繰り出された大魔王の攻撃をかろうじてかわし。

 

「バイキルト」

 

 俺が唱えたのは、攻撃力強化呪文。

 

(残りHPが数値化して見られればなぁ)

 

 攻撃力を倍加させてから最終奥義の流れは、もうゾーマも許さないだろう。となると、威力が半減した状態でも倒せる状況でなければ、最終奥義を使うのは危険すぎる。

 

(こうして毎回バイキルトをかけていれば、あっちも凍てつく波動を使わざるを得ない状況には持ち込めるけど)

 

 マホカンタもフバーハも効果を消されてしまった今、呪文や吹雪の威力は素通しなのだ。

 

(防御力も戻っちゃってるし、チェーンクロス装備する代わりに盾も外してるから、直接攻撃のダメージも馬鹿にならない……やみのころものおかげでさっきの一撃はかわせたものの)

 

 痛いモノは痛い。

 

「ゆくぞ、最終――」

 

「な」

 

「投擲っ」

 

 驚きの声を上げたゾーマ目掛けて俺は腕の鎖を外して、投げつける。チート連続攻撃を警戒しているからこそのブラフであり。

 

「がっ」

 

「戦奪衣っ」

 

 顔にチェーンクロスをぶつけられて怯んだ隙を狙って肉迫するとゾーマの纏うマントを引っぺがして奪い取る。

 

「攻撃力を元に戻されるなら、相手の身を守るモノを剥げばいい。簡単なことだ」

 

 そもそもこの戦っている最中に防具を引っぺがす技は、防御力を下げる呪文を凍てつく波動で無効化してくる人型の敵用のモノなのだ。

 

(うん、ゾーマ戦で使わなくていつ使うのかって話だよね)

 

 バラモスにも使ったが、あれはシャルロットに奥義を見せるという理由があったからこそ、本命はいまここである。

 

「おのれ、ふざけた真似をっ」

 

「ふざけた真似かどうか見ていろっ!」

 

 激昂しつつゾーマの吐いてきた吹雪に剥いだばかりのマントを叩き付けつつ俺は叫び。

 

「な」

 

「流石は大魔王のマントだな」

 

 盾になったマントのお陰で幾分和らいだ痛さに口の端をつり上げる。

 

(そう言えばゾーマにヒャド系の呪文は効かなかった気がするもんなぁ。マントにも耐性ついていて不思議じゃないよね)

 

 羽織るにはでかすぎるし装備出来るかも不明だが、いきなり役に立ったのは間違いない。左手にマントというのは闘牛士でもなった気分だけれど。

 

「これで吹雪も問題ない……いや、吹雪だけではないやもな」

 

 そもそもヒャド系の呪文もゾーマに効かないなら、その系統限定で呪文耐性がマントに付与されている可能性も充分考えられる。

 

(逆に今ならゾーマにもヒャド系の呪文が効くとか? いやいや、興味本位で行動を浪費するのは拙い)

 

 遊べる自称大魔王のバラモスとは違うのだ。

 

「今度はこちらの番だ、バイキルト」

 

 何だか呪文が語尾みたいになってしまったが、それはそれ。呪文をかけ直すと爪の間合いにゾーマを捕らえた。

 




最終奥義の総合ダメージ、原作の計算式に当てはめると2000を越える不思議。

シャルロットも会得して、師弟で同時に放つ(バイキルト済み前提)と弱体化ゾーマならワンターンキル出来る計算に。

さ、流石最終奥義だぁ。(白目)

次回、第四百九十九話「けつまつ」

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