強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百九十一話「全裸は拙いだろうか、やっぱり」

 

「メラゾーマ!」

 

 呪文の完成は台詞の直後。待てと言う暇もない。迎撃に放たれた巨大な火球がバラモスに向かい撃ち出された。

 

(しまったなぁ……とは言えバラモスの呪文耐性を教えたら、どうして知ってるんだって話になるし)

 

 元バニーさんの唱えた呪文の結果がどうなるかを知っていた俺は、内心で嘆息する。

 

「効かぬわぁっ」

 

「それがどうしたっ!」

 

 接触して生じた爆発を突き破って突っ込んできたバラモスの前に立ち塞がり、叩き付けるように振り下ろそうとしてきた腕をかざしたブーメランで受け止める。

 

「ぬぬぬ」

 

「くっ」

 

「お師匠様っ」

 

 つばぜり合いの格好になり、背に庇ったシャルロットの声がかかるも、受け止めた衝撃は大したこともなく。

 

「心配は無用だ、ミリー達のスクルトがまだいきているからな。アラン、サラ、攻撃よりもまずは補助を頼む」

 

 水着姿が目に入らないよう振り返らず前を見たまま、リクエストを送ると機を見計らって腕にかけていた力を抜く。

 

「ぬおっ」

 

「今だ、シャルロット!」

 

「はいっ!」

 

 バランスを崩し、バラモスが前のめりになった瞬間、俺の声に応じたシャルロットが脇を抜けて飛び出す。

 

「バラモス、覚悟っ」

 

「ぎゃあっ」

 

 振り抜かれた斬撃は血の尾を引き、顔に斜めの傷が走った魔王が悲鳴をあげる。

 

「ふ、上出来だ」

 

 勇者が魔王に一撃を見舞った。やがてシャルロットの英雄譚が出来たなら確実に描写される瞬間だろう。

 

(あくまで俺はおまけ、ここからはシャルロット達の見せ場を作っていかないとな)

 

 魔王バラモスを倒したのは勇者の師匠だった、なんて語り継がれることになったらシャルロットに申し訳なさ過ぎる。

 

(なら、何も考えずバラモスに攻撃するのは悪手。とは言え、僧侶と魔法使いの呪文はみんなの前で使えない)

 

 だが、攻撃出来なければ何のためにここにいるのかが解らない。

 

(だったら、攻撃する理由を作ってしまえばいいってだけなんだけどね)

 

 俺には良い考えがあった。

 

「……シャルロット」

 

「はい」

 

「今から俺の奥義を見せてやる」

 

「え、奥義……でつか?」

 

「ああ、盗賊用の技故にお前が身につけられるかは解らんが、師として技の一つも見せてやらねば沽券にかかわるからな」

 

 弟子に技を見せる、これ以上ない理由だろう。

 

「お、奥義じゃと?」

 

 俺の発言に顔の傷を押さえたバラモスまでが戦くが、まぁ無理もない気がする。

 

(女の子三人装備して両手が塞がってる状態であしらったばっかだもんなぁ、さっき)

 

 ここでそろそろ本気出すなんて発言をされようものなら、俺がバラモスだったとしても無関心でいられるはずがない。

 

「何、一撃必殺という類のモノではない。弟子の見せ場を奪っては師匠の器量が疑われる」

 

 軽く肩をすくめ、前に一歩踏みだし。

 

「ゆくぞ!」

 

 前触れもなく床を強く蹴って前に飛ぶ。

 

「な、はや」

 

「貴様が遅い」

 

 肉迫し、マントの留め具を掴むとバラモスの身体を引き寄せ、腹に膝蹴りを見舞い。

 

「がっ」

 

「だけだっ」

 

 前屈みになるバラモスの前から、手にしたマントをはためかせながら飛びずさる。

 

「これが、我が奥義『戦奪衣(いくさだつい)』。身につけた装備を剥ぎ取り戦闘力を奪うと同時に一撃を見舞う。剣を奪えば攻撃手段が減り、盾や衣を奪えば身を守る物がなくなる。呪文の一時的な効果とは違い、効果は奪還されるまでほぼ永久」

 

「い、戦奪衣……」

 

 ルカニなんて目じゃないし、この世界には攻撃力を下げる呪文は存在しない。

 

「い、一度ならず二度までも……」

 

「まぁ、武装している敵に限られる技だがな……少なくとも魔王バラモスには有効と見える。ふっ」

 

 わなわな震えるバラモスを前に俺は口の端をつり上げると、続けた。

 

「俺は盗賊だからな、その身ぐるみ全て剥がさせて貰う」

 

 うん、まるっきり山賊とかが旅人に使う台詞だってツッコミは無しでお願いしたい。

 

「マイ・ロード、私の身ぐるみも剥いで下さい」

 

 そして変態娘は黙ろうか。

 

「うぐ、なんと恐ろしい技じゃ、この大魔王バラモスさまを全裸にして辱めようとは」

 

 あ、バラモスもその言い回し止めて下さい。それじゃ俺が変態みたいじゃないですか。

 

「お、お師匠様……」

 

 ほら、シャルロットが何か言いたげに声をかけてくるし。

 

「シャルロット? 敵の戯言は気にする必要はな」

 

「凄いです、お師匠様」

 

 慌てて弁解しようとした俺の背へ直後に投げられたのは、純粋な賞賛。

 

「は?」

 

「その奥義、やっぱり勇者のボクじゃ使えるようになりませんか?」

 

「む、ふむ……盗賊の戦闘中に敵の所持品を奪う技術が根底にあるからな、そこから始めんことにはなんとも言えんが……」

 

 魔物使いの時よろしく、心得を学ぶ形で基礎部分を会得出来れば可能性はあるかもしれない。

 

「ともあれ、その話は後だ。心得も無いのにぶっつけ本番でバラモスに試す訳にはいくまい」

 

「そうですね……じゃあ、この戦いが終わったらボクにさっきの奥義を使って貰えますか? 頑張って盗みますから」

 

「お前……に?」

 

 いいたいこと は わかる。がくしゅういよく が つよい のも かんしんするべき てん だろう。

 

(だからって水着の女の子から着ているものを奪うとか)

 

 もう ただ の へんたい じゃないですか、やだー。

 

「ご、ご主人様、その訓練……わ、私も参加させて貰って良いですか?」

 

「み、ミリー?」

 

 ちょっと待って、しかも何だか元バニーさんまで参加表明してきたんだけど。

 

「マイ・ロード、ならばわた」

 

「お前は却下だ。教えたらアンの服を剥ぎ取りかねん」

 

「そんな」

 

 とりあえず、変態は即答で却下しておくが、残りの二人のお願いは純粋な強くなろうとする意志だろうから、断りづらい。

 

(しまった、全裸にする技なんて編み出すんじゃなかった)

 

 全裸は拙かったのだ、やはり。俺の後悔は内輪話にぶち切れたバラモスが攻撃を再開するまで続いた。

 

 




変態奥義登場!

触発されてしまったシャルロットと元バニーさん。

自ら掘った墓穴は深い、どうする主人公。

次回、第四百九十二話「そして全裸へ……」

ああ、やっぱりバラモスはひん剥かれる運命なのか。

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