強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百七十七話「結果がどうあれ、報告はしておかないと行けないですよね、うん」

「……と、まぁだいたいそう言った経緯で、マリクは悲願を果たしたようだ」

 

 行きと同様、魔物の襲撃もなく無事戻ってきた俺は、居残り組だった魔法使いのお姉さん達カップルに事の経緯を報告していた。ちなみにシャルロットは戻ってくる途中で一度我に返ったのだが、何故かすぐに固まってしまったので宿屋にとった部屋に置いてきている。

 

「……何ともコメントに困る経緯ですけれど」

 

「まぁ、当人が幸せなら言うことはありませんな」

 

「だな」

 

 魔法使いのお姉さんは何とも微妙な表情をしていたが、仕方ない。俺も他人から説明されたらきっとコメントに困ると思う。

 

「それで、流石に結ばれた当日にどのこうのと言う程俺も野暮ではない。竜の女王への報告は明日以降にするとして……」

 

「問題は、勇者様ですか」

 

「ああ。魔物の言葉のわからぬ俺にはただの唸り声だったが相当アレな発言だったらしくてな。シャルロットには刺激が強すぎたらしい。フォローしようにもこちらの言葉さえ聞こえぬ有様だ」

 

 今は部屋に居る筈だが、落ち着くまではそっとしておいた方が良いだろう。

 

「一応、竜の女王への報告は子供の親代わりとなるマリクとおろち、それに経緯を説明出来る人間が一人居れば事足りる。一連の原因になってしまった責任もあることを鑑みて、俺が行くつもりで居るが」

 

「皆まで言わずとも解りますわ。その間に勇者様の心のケアを頼みたいと仰るのですわね?」

 

「すまんが、頼めるか?」

 

 俺が尋ねれば、魔法使いのお姉さんは首を縦に振った。

 

「勇者様は私達のリーダーですけれど、同時に仲間ですもの」

 

「まして、バラモスとの決戦も間近とあっては、立ち直って頂くより他ありませんからな」

 

「しゃ、シャルは友達ですから」

 

 まぁ、わざわざ尋ねたのは愚問だったかも知れない。

 

(だよな。勇者一行だもんな)

 

 厄介ごとを押しつけて逃げるみたいで少し申し訳ない気もしたけれど、俺はお姉さん達の厚意に甘えることにした。

 

「すまん」

 

「ただ……私達が出来るのは立ち直って頂くところまでですわよ?」

 

「それは、どういう……」

 

「ふふっ、何でもありませんわ」

 

 微妙に付け加えられた魔法使いのお姉さんの言葉は気になったが、俺の代わりにシャルロットのケアをしてくれる相手に深くツッコむことも出来ず、そうかとだけ応じる。

 

(だいたい、シャルロットを復活させる方法なんて心当たりひとつしかないもんなぁ)

 

 それはもう懐かしさすら感じる程の昔、俺が遊び人だった頃の元バニーさんにさせたもの、つまりお尻をさわるのだ、シャルロットの。

 

(うん、あれを俺がやるのは問題ありすぎる)

 

 問題があるどころか社会的に死ぬ。と言うか、おろちの発言でショックを受けてるシャルロットにやろうものなら、いろんな意味で大惨事しか起こりえない。

 

(こんなんじゃ、任せるより他にないよなぁ)

 

 だいたい他にもやっておかなければならないことだって有るのだ。

 

「さて、俺は出かけてくるな。報告は明日以降とは言ったが、おろち達の都合もあろう。都合の良い日程を知らせて貰えるよう伝言をしておかねばならん」

 

 伝言と言ったのは、まだマリクとおろちが愛を確かめ合っているかも知れないからだ。

 

「シャルロットのことは頼む。ではな」

 

「マイ・ロード、お供します」

 

「ふ、好きにしろ」

 

 すぐ戻ってくるつもりであることを鑑みると大げさな気もしたが、こうして俺は二人に報告した宿の一室を後にする。

 

(うん、「好きにしろ」って格好つけて言っちゃったけど、このマザコン娘もどうにかしないとなぁ)

 

 マリクの件が人事でなくなるような未来は避けたい。

 

(そもそもこの世界には性格を変える本がある訳だから、矯正してしまえば何とかなるかも)

 

 忠誠を誓わせたパンツの効果が消えるのとほぼ同じ意味だったとしても、試す価値はある。

 

(交易でこのジパングに来ている商人とかにそれとなく聞いてみるのもいいか。そう言う本を持っていないかって)

 

 もちろん、本なら何でもいいという訳ではないのだけれど。

 

(持ってると言われて譲ってくれと頼んで手に入れたのが、あの本(えっちなほん)だったりした日には……)

 

 おろち二号を作るオチなど、ご免被る。

 

(けど、一番の問題はどこまでもついてくる事だよな)

 

 側に居られたのでは性格矯正計画も練りようがない。

 

(いや、秘密にしたいならそれこそこの変態マザコン娘を縛って目隠しと耳栓しておけば良いだけなんだろうけど)

 

 十中八九そう言う趣味があるという誤解を呼ぶと思う。

 

(今のままじゃ、別の男をあてがうって方法もとれないし)

 

 俺の側に侍るという誓いが厄介すぎた。

 

「ふむ、面倒なものだな……だが」

 

 今すぐどうにもならないなら、それが現実逃避の親戚だったとしてもやることをやるしかない。

 

(さしあたっては、おろちへの伝言かぁ)

 

 鳥居をくぐり、目的地に向かった俺は、以前おろちへの取り次ぎを頼んだジパング人を見つけると、声をかけた。

 

「国主に伝えたき用件あって参上した。これから言うことを伝えて貰いたい」

 

 内容は至極簡潔。

 

「先日の件、執り行うべき日程が決まればご連絡頂きたい」

 

 おろちにならこれで充分伝わるはずだ。

 

「ご、ご主人様。女王様からのお返事が――」

 

 実際、おろちから返事が来たのは、その日の内、俺が宿に戻ってから暫し後のことだった。

 

 




・前話からのシャルロット
悶々する→我に返る→お師匠様にお姫様だっこされてると気づく→オーバーヒート→宿屋の部屋に運ばれ→その先の展開を想像して限界突破→主人公シャルロットが復活しないと諦めて部屋にシャルロットを放置、報告へ

だいたいそんな感じでした。


次回、第四百七十八話「やれるだけのことはやったとおもいたい」

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