強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四百六十一話「ごめんください、マリク君はご在宅ですか?」

「ところでお前には兄弟が居ると聞いたが、そいつもこちらに来ているのか?」

 

 色々と頭の痛くなる問題は生じたが、何もかも投げ出してベッドでゴロゴロする訳にもいかない。

 

(それに絶望するにはまだ早い。おばちゃんの息子については殆どしらない訳だし)

 

 おばちゃんはぶっ飛んだ変態性を持っていないのだ。息子の方はまともな可能性だってある。

 

(肉親ならトロワの扱いも心得ているだろうし、事情を話せば協力してくれる可能性だってあるかもしれないよね)

 

 これで息子の方も変態だったら絶望しかないが、だとしても変態マザコン娘のいつも侍り発言だけで絶望するのは早すぎると言うことになる。

 

(出来ればまともな方が良いけれど、どのみちおばちゃんの息子の事は聞いておかないといけないことだったんだ)

 

 トロワが離反しても息子が後釜に居座っては結局おばちゃんの子供とバラモス城でやり合うことになってしまうかも知れないし。

 

「いえ、まだアレフガルドかと。しかし、何故?」

 

「お前が離反したことを聞いて、身内の裏切りの責任を取るという形で刺客として差し向けられるやもしれんからな。こちらに来ているようならお前にはいったんバラモスの元に戻りアンの子全員で一斉に出奔した方が都合も良かろう」

 

「成る程」

 

「家族同士で戦うようなことは出来れば避けたいとも思ったが、ふむ」

 

 ここでトロワの離反が知られたとして、息子のほうまでこちらに出てくるには、些少の猶予があると見て良いと思う。

 

(息子の方までこっちに出てこないように離反したことを隠して、一度バラモスの元に戻って貰う……のは、無理か)

 

 大好きな母親がこちらにいれば首を縦に振るとも思えない。

 

(いったんお引き取り願えたらOSIOKIも回避出来るかと思ったんだけどなぁ)

 

 ひとまず諦めるしかないだろう。

 

「とりあえず、予定していた目的地に足を運ぶか」

 

 シャルロットがやって来ないのが些少気にかかるが、格闘場の方で仲間と合流してこれまでの経緯を報告し合っているなら、不思議はない。

 

「荷物は、幸か不幸か出したのはロープと布と耳栓くらいだからな」

 

 これ以上予定を遅らせる訳にもいかず、大した手間でもないと片付け始めた直後だった。

 

「移動……ですか、でしたらマイ・ロードにお願いが!」

 

 トロワが真面目な顔を作って申し出て来たのは。

 

「お願い?」

 

「はい。ママンのあの服装をマイ・ロードのコーディネートとお見受けして、是非私にママンとのペアルックをっ」

 

 オウム返しに尋ね、返ってきたのは。ある意味でもっともマザコンらしいお願いであり。

 

「も、もちろんローブの下は縛って頂いて構いません」

 

「待てい」

 

 誤解が解けていなかったことを思い出すには充分すぎるもの。

 

「後者は俺の趣味ではないから却下するとして、前者をやるには小物が足りん。装飾品などは別行動の弟子に持たせているからな。合流するにも先に本来立ち寄るはずだった場」

 

「マイ・ロード、どうぞ私の背に。そう言うことであれば全速力で向かわせて頂きます。そもそも宿に立ち寄らせ時間をロスする原因を作ったのは私、埋め合わせをさせてください!」

 

 ペアルックが掛かっているからか、俺の言葉さえ遮った変態は後ろを向いてしゃがみ込む。

 

「どうぞ、遠慮はいりません」

 

 いや、えんりょ は いらない と いいます けど ぼんきゅっぼん の おんな の ひと に しがみついて まち を ゆく とか どんな ばつげーむ ですか。

 

(うん、人によってはご褒美かも知れないけどさ)

 

 見た目は悪くなくても実体は変態でマザコンである。

 

「どうぞ、じゃなくてな……まず言っておくが、足の速さなら俺の方が早いぞ?」

 

「えっ」

 

「背中に俺を乗せれば更に遅くなるだろう?」

 

「あっ」

 

 チートな袋を作ってしまうぐらいだからどっちかというと天才だと思ったのだが、ひょっとしてアホの子なのか。

 

(うん、あほのこ でも あるんだ。そうだと おもいたい)

 

 小さな声で作戦は失敗かとか呟いていたような気がするが聞かなかったことにしておこう。

 

「……とにかく、出発するぞ? アンの方には俺から伝えておくから今の内に胸の袋を付け直しておけ」

 

 おばちゃんだけでも人目をひくのに、トロワまで胸が自重しなくなったらどんな視線が集まるか、察しの悪い俺でも解る。

 

「いや……わかると思っていたと言うべきか」

 

 トロワを部屋へ残し、おばちゃんに出発を伝えることもシャルロットがやってきた時のことを考え、伝言を残しておくこともすんなりいった。

 

「結局、こうなる……か」

 

 先頭を歩き、振り返るのは、俺。

 

「はぁはぁ、ママン。ああ、ママン」

 

 最後尾でおばちゃんのお尻に視線を注いで、足下の砂を血で汚すのがトロワ。

 

(こんな事なら、縛って括って荷物として背負うんだった)

 

 後悔も同行者にくわえながら、人通りの少ない路地を優先的に選んで町を目的地に向かい。

 

「これはこれは、ようこそお越し下さいました」

 

「……すまんが、こいつを何処かに寝かせて貰えるか?」

 

 辿り着いた先で俺の顔を覚えていたらしい使用人と出会うと、本来マリクはいるかと問うべき所で、ぐったりした背中の変態を示して俺は尋ねたのだった。

 




トロワ、鼻血の出し過ぎで瀕死になる。

次回、第四百六十二話「王族」

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