強くて逃亡者   作:闇谷 紅

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第四十三話「変態と勇者シャルロット」

(計画は概ね定まったッ)

 

 後は事情を説明し、OSINOBI仕様に着替えたシャルロット達とサイモンを連れてサマンオサに向かうだけだッ。

 

(しかしッ、ロマリア行く前にサマンオサでボストロール戦かッ)

 

 偽物の正体を暴く為には真実を映し出すというラーの鏡を探し出すことも忘れてはいけないッ。

 

(説明しようッ、そんな訳で私は今、勇者の家の側にいるッ)

 

 マシュ・ガイアー敵にはポーズをつけつつ声を口に出す所だがッ、これからシャルロット達に話す内容は外に漏らせるようなモノではないッ。

 

(故に人目を避けて声も出せず、勇者の家の影でこそこそしているのだッ)

 

 このマシュガイアーともあろう者が、何という屈辱だろうかッ。

 

(ふむッ、頃合いかッ)

 

 シャルロットには師匠から私が訪ねて行くことが告げられているッ、一応一度目撃されている訳だし対面して取り乱されるはずもないッ。

 

「はぁい」

 

 声は出さず、扉をノックするという形で到着を伝えれば中から聞き覚えのある声がし、私は腕を組むとマントを風に揺らしながら戸口の前に佇んだッ。第一印象は肝心だッ。

 

(って、よく考えたら二度め……まあいいかッ、『マシュ・ガイアー』はそんな些細なことなど気にしないのだッ)

 

 一瞬素に戻りかけつつ待つこと十数秒。

 

「どち」

 

 おそらく「どちら様ですか」と続けようとしたまま、中からの声が途絶えた。

 

(あれぇ?)

 

 16歳の少女にこの格好は、刺激が強かっただろうか。思わず素に戻ってしまったが、この反応は

予想外である。何せ、事前連絡はしてあったのだから。

 

(それとも、声似てたけどお母さんの方が出てきちゃったとか?)

 

 古き良きファミコン版の旦那さんをリスペクトした格好だが、だからといってこの姿では初対面なシャルロットの母親がどういう対応をしてくるのかは、正直予想が付かない。

 

(この沈黙、どうすればいいのでせう?)

 

 心の中で問いかけてみるが、答えは出ず。

 

「し、失礼しまち、失礼しました」

 

 扉の向こうで復活した相手の声によって俺は悟る。

 

(今の噛み方は、間違いなくシャルロット)

 

 お母さんの方でなくて良かった、だがそう思ったのも一瞬で。

 

(って、待てよ? どのみちシャルロットの家で話をするとしたらお母さんに目撃されちゃうんじゃ)

 

 新たな問題に気付いた所で、ドアが開いた。

 

「えっと、お師匠様から話は聞いてます。どうぞ、中に」

 

「そうかッ」

 

 促されて答えつつも、そのまま入っていいものか、俺は迷った。

 

(いっそのことシャルロットにモシャスで変身……は拙いか。うーむ)

 

 考えてみたが、短時間で良い案など早々出ない。

 

(仕方ない、さっさとシャルロットの部屋に案内して貰おう。願わくはお母さんの方に気づかれませんように)

 

 妥協した俺はマシュ・ガイアーとして、更に言葉を続ける。

 

「ならばお邪魔しようッ」

 

「あ、はい……えーと、話はボクの部屋の方が良いかな」

 

 話が通っているとは言えシャルロットからすれば、私は師の知り合いである謎の人、ましてこれから話す内容は人には言えない様なモノときているッ。

 

(家族に見とがめられる前にと言う判断、間違ってはいないッ)

 

 むしろ支持に値するだろうッ。

 

「えーと、ここです」

 

「うむッ」

 

 そのまま勇者に誘われ、再びシャルロットの部屋に戻ってきた私は鷹揚に頷くと、部屋の一角で謎のポーズを取って立ち止まるッ。

 

「師匠から話を聞いていると言うことなので、割と単刀直入に言うぞッ。君達には魔王バラモスの配下の魔物ボストロールの撃破に協力して貰いたいッ、それがバハラタへ君達を連れて行く条件だッ」

 

「えっ」

 

 いきなりの爆弾発言である、驚くのも無理はない。

 

「子細はこれから説明するッ、まずそのボストロールはサマンオサという国の国王と成り代わり圧政を敷いているッ」

 

 続いて明かしたのは、ボストロールが変化の杖という道具を用いて国王に化けていることと、偽物の国王によって罪もない人々が処刑されているという事実。

 

「このまま放置すれば、犠牲者はさらに増えるッ! だが、今ここにその事実を知る『マシュ・ガイアー』がいるのだッ」

 

 ボストロールの暴虐を止めてみせるッ、と私は大見得を切り、その為に協力を求めたいと続ける。

 

(ぶっちゃけ、カンストキャラだけで倒すと経験値が勿体ないから何だけどね)

 

 普通に考えればシャルロット達は足手まといにしかならないが、そこは先程思いついたアイデアがある。

 

「君の師匠は危険だと渋っていたが無理もないッ、このボストロールはバラモスの持ち手駒の中では上から数えた方が早い、言わば幹部クラスの魔物ッ」

 

「お師匠様……」

 

「うむッ、かわりに自分が戦うとも言い出しかねなかったが、それは拙いッ。実力を晒さずバラモスを油断させるのが君達の策と聞いているッ」

 

「えっ、けど貴方は戦うんじゃ?」

 

 どう思ったのかポツリと漏らしたシャルロットは私がダブル・パーティーのことを知っていると明かせば当然の疑問を口にした。

 

「もっともな疑問だッ、故に説明しておこうッ。私はボストロールを倒した後、身体の無理がたたって命を落とすことになっているッ」

 

「なっている……ということは」

 

 それで、シャルロットも理解しただろう、死んだふりであると。

 

「これから作戦の詳細を話すッ」

 

 私は意味もなく謎のポーズを決めながら告げ。

 

「ただ、今回の作戦に君の師匠は同行しないッ」

 

 前置きして爆弾を放り込む。

 

「っ、それはお師匠様が渋っておられたから?」

 

「違うッ、そんな理由ではないッ! 合う役がないのだッ」

 

 一応、そのお師匠様が私だからと言う明かせぬ理由もあるが、そもそも勇者の師匠は強いもののただの盗賊、と言う設定である。

 

(勇者サイモンの代役やるキャストには攻撃と回復の呪文が使える人間じゃないとダメだし)

 

 その手の呪文が使えないことになっている盗賊さんでは不的確という訳だ。

 

(だったら、マシュ・ガイアーとお師匠様のペアで当たったらどうかと言うことになってくるだろうけれど)

 

 死んだふりで誤魔化す人間が増えると、その分誤魔化せるか怪しくなる。

 

(だいたいそんなところかな、言い訳は)

 

 設定上ではシャルロットのお師匠様も役はないものの、ついてきてシャルロット達を見守っていることにし、上手くことが運んでサイモンとバトンタッチ出来たら、俺はシャルロットの師匠に戻ってシャルロット達と合流するという筋書きだ。

 

(賽は投げられた、か)

 

 ここまで話してしまった以上、後戻りなんて出来ない。俺は覆面の内から一人の少女を見つめ、密かに拳を握りしめた。

 




そして、物語は再び動き出す。

ロマリア到着よりも先にボストロール戦という展開で。

次回、第四十四話「覆面隊、始動」

タイトルでオチが予想されませんように――

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