強くて逃亡者   作:闇谷 紅

503 / 554
第四百五十四話「再会、出来たらいいなぁ」

「そろそろイシスが見えても良い頃だな」

 

 ラーミアに巻いたロープにしがみつきつつ、呟く。

 

(けど本当に良かった、盗賊で)

 

 タカのめが使えるからと言う理由で二度目の飛行も一番前に乗ると言う俺の主張は受け入れられ、俺の視界に入るのは広がる大地と空、そしてラーミアの後頭部だけである。

 

(おばちゃんか視界に入るといろんな意味で危険だからなぁ)

 

 後ろに目がついていなければ、あの紫ローブさんじゃ隠し切れていないむちむちっぷりもとりあえず関係はない。

 

(何故かシャルロットまで鎧脱いじゃってるけど)

 

 あのむちむちっぷりはシャルロットのコンプレックスを刺激したということなのか。

 

(子持ちの人妻と未成年の女の子じゃ、差は仕方ないと思うけど。シャルロットだって大人になって、子供を産んだら……って、何を考えてるんだ、俺)

 

 一瞬、年齢をプラス十ほどしたおばちゃんレベルにむちむちなシャルロットを想像してしまい、慌てて頭を振る。

 

(ったく、本当に何を考えてるんだよ、俺。こんな想像が人に知られたら「年上好き疑惑」とか「むちむち好き疑惑」とか持たれたり拍車をかけられちゃうってのに)

 

 いや、それだけで済むだろうか。下手をすれば「子供を産んだら」の部分を曲解されて「シャルロットと子供作りたいZE」とか俺が望んでいるなんて方向へ持って行かれることだって考えられる。

 

(はぁ、声に出してないのがせめてもの救いだなぁ。心の中での呟きなら誰にも悟られる事なんてない訳だ……あ゛っ)

 

 救いだと思っていたのは、ホンの数秒。

 

(……今のは聞かなかったことにしておきましょう)

 

 俺が気づいた直後、絶妙のタイミングで心を読める不死鳥は自分に乗っかった俺へとテレパシーもどきで律儀に答えてきたのだ。

 

(うあああっ、しまったぁぁぁぁぁっ) 

 

 作ってしまった、不死鳥にもの凄い弱みを握られてしまった。

 

(どうするんだよ、安心しすぎてたろ、俺)

 

 心の声が筒抜けの相手に駆け引きは不可能。ひたすら低姿勢で黙っていてくれとお願いするしか道はない。

 

(いや、そもそもラーミアは神のしもべ。神の使いなら人の個人情報とかプライバシーを他人に流して喜ぶなんてゲスな真似をしない筈、俺はネガティブに考えすぎだ)

 

 はっきり言って、混乱しているのだと思う。そんな結論がようやく出てくるぐらいなのだから。

 

(落ち着け、冷静になれ、俺。だいたい今は「おばちゃんがローブの上からでもむちむち過ぎる」とかそんなことよりこの後どうするかを考える時間の筈だし)

 

 シャルロットが背中から離れたお陰で、何かを考える余裕が出てきたというのに無駄遣いしてどうする気だ。

 

(ええと、まずイシスから少し離れた場所に降りて、おばちゃんの服装を何とかしないと……って、結局おばちゃんじゃねぇか!)

 

 あのむちむちっぷりが周囲の男性にとって目の毒になると言う理由もあるが、イシスは以前バラモスの軍勢の侵攻にあった経緯がある。その時の総大将はエピちゃんのお姉さんでエビルマージだった。

 

(ローブや覆面と肌の色以外、殆ど同じだもんなぁ、おばちゃんの出で立ちってエピちゃん達と)

 

 原作では色違いのモンスターだったから当然と言えば当然なのだが、そんな格好で城下町に向かえばイシスの民衆がどう捉えるかは想像に難くない。

 

(着替えは必須か。最悪、覆面を取って上から何か羽織るだけでも随分違うと思うけど)

 

 そも、腐臭漂うテドンの村や、風の強いラーミアの上では覆面を付けたままも仕方ないが、町中であんな覆面を付けていたら不審者だと思う。

 

(うん、何故かごろつきとかあらくれものって町中でも覆面つけてるけどさ、それでも流石にあの覆面はなぁ)

 

 駄目だと思いたい。

 

(と言うか、そんなことより問題はおばちゃんに何を着せるかだ)

 

 同性だし、シャルロットに予備の服を借りるという手もあるが、下手をするとそれがシャルロットへのダメージになりかねない。

 

(普通の服の類はアウトだな、うん。胸とお尻がきついなんて状況になるのは確実だろうし)

 

 となると鎧の上からでも着られそうなマント系を羽織るぐらいか。

 

(あと、元のローブの方も着方にアレンジをくわえて、ついでにベルトみたいなモノをつければ、それなりに差異が出来るかな)

 

 プラスして鞄か背負い袋みたいなものを付け帽子を被らせれば、旅の魔法使いで何とかなりそうな気がする。

 

「良し、降りたらその方向でコーディネートして見るか」

 

 幸い衣服修繕用のソーイングセットっぽいものをダーマで購入している。ローブの裾揚げだって可能なはずだ。

 

「……と思っていたのだがな」

 

「あらあらまぁまぁ、これが私?」

 

 イシス手前の砂漠に降りて貰って、聖水で魔物除けしつつ作業を終えると、俺の前に立っていたのは、男性に目の毒レベルが更にあがったアンの姿だった。

 

「お師匠様」

 

「あぁ、すまん」

 

 まず、ベルトがやばい。ベルトをした為に腰のくびれが強調され、そのせいで大きな胸とお尻が目立つ形になってしまった。背負い袋の紐をたすき掛けにしたのも大きな胸を強調してしまっている。

 

(しかも裾上げしたから生足まで見えちゃってるし)

 

 これ、このコーディネートだけでもおばちゃんのお子さんから遭遇するなり攻撃呪文喰らっても仕方ないんじゃないだろうか。

 

「ごめんなさいねぇ、人間の町に入るからってこんな気を遣って頂いて。おばちゃんこんなお洒落をするの久しぶりで……どう、似合う?」

 

 そして きょうしゅくしつつも、おばちゃん じしん は よろこんでいる と いうじたい が この かっこう は やめてくれ と いう もうしで を ひどく しづらくなっているという。

 

(くるっ と いっかいてん とか そうとう き に いったみたいですね、やったー)

 

 そして、まわった拍子に胸が揺れる揺れる。ちなみに身体の線がくっきり出ていたことから半分予想はついていたが、おばちゃん上の下着は着けない派だそうです。

 

(どうしよう、本当にどうしよう)

 

 せめてもの救いはあのいまわしきがーたーべるとを装着していないことか。

 

(これ に ぷらす がーたーべると とか そうぞう も したくねぇ ですよ)

 

 ラーミアに乗ればイシスまでひとっ飛び、元バニーさん達とあっさり再会出来ると思っていたのに、町に入る準備で手間取るとは、世の中甘くないらしい。

 

「これを拾ってこられたのが、唯一の慰めか」

 

 杖代わりにしていた一振りの剣に目を落とすと俺は嘆息したのだった。

 

 




なんということでしょう、あのローブだけでもむちむちだったおばちゃんが、身体の線を強調されることで大変身、男性が目のやり場に困るような姿へとアップグレードしたのです。

主人公、いいぞもっとやれ。

次回、第四百五十五話「剣は拾った、砂漠で」

ふぅ、ようやく吹雪の剣回収出来ました。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。